SILVER
8(R15)
 煮えたった湯をカップに注いで、ゆっくり飲んだ。
 一瞬湿された口内はすぐにまたカラカラになる。
 ちびちび啜り、派手なピンクのベッドに腰を下ろす。ぎしりと鈍い反発があった。
「──総悟」
 土方は煙草を灰皿に押し付け、ちらりとこちらに視線を投げた。
「座りやせんか? 服はしばらく乾きやせんぜ」
 乾くどころか浴室でぽたぽた水滴を垂らしている隊服は、おそらく自然乾燥なら1、2日かかるだろう。
「──見回りの途中だろうが」
「非常事態でさァ」
「んなら、隊に連絡──」
 ズボンのポケットを探った土方の手がベストにかかり、顔色が変わる。
「──俺の上着、どうした」
「風呂場に干してありやさァ」
 浴室に飛込んだ土方は、水没した携帯電話に重い溜息を吐いた。
「おい総悟、お前の携帯──」
「組に忘れてきやした」
 無表情に吐き捨て、隊服のポケットの中、こっそりと携帯電話の電源を落とす。ベッドサイドの小机に、半ば茶の残ったカップを置いた。
 泊まって行く気はさすがにないし休憩なら数時間だ、近藤も屯所にいるだろうから何かあってもどうにでもなるだろう。
「冗談じゃねェ…帰るぞ」
 まだまだ水の滴る隊服を嫌そうに抓み、戸口へつかつか近付く、その行く手にするりと滑り込んだ。
「まァ、そう急かねェでもいいんじゃねェですかィ」
 きゅっと手首を握る。
「仕事中に…んなとこに長居する理由がねェ」
 土方の声は目に見えて揺らいだ。その肩に触れベッドに押し付ける。
 ぎしりとベッドが軋み、濡れた隊服がびちゃりと床へ落ちた。
「てめェ…ふざけんなよ」
 下から睨み上げる開いた瞳孔を見据え、口端を吊り上げる。
 殊勝な土方なんて、つまらない。
 沖田は土方の喉元に手をかけ、口許だけで笑った。
「あんた、ホント──ムカつくヤローでさ」
「あぁ!?」
 でもそれよりも腹立たしいのは、こんな訳のわからない状況で、こんなムカつくヤローに疼くおきただ。
 そっと耳元に顔を寄せ、耳朶に噛みつく。土方の体がびくりと強張った。
「総悟…?」


2012.7.1.永


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あきゅろす。
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