SILVER
7(R15)
 ここなら煙草も吸えるし服も洗濯できると路地を一本入ったラブホテルに誘うと、冷静に見せかけそんなもの疾うにかなぐり捨てていた男は意外なほどあっさり付いて来た。
 ピンク色の壁紙に、鏡張りの天井の眩しい部屋で生臭い上着を脱ぎ捨て煙草を一本吸い終えてやっと、土方の顔に冷静さが戻って来た。
 一服の隙に隊服の上着は精液を水で流してびしょ濡れにしておいたが、彼が帰る気になればこんなもの歯止めにもならないだろう。
「なに犬にやられてやがんでィ」
 バスルームに繋がる扉に凭れ沖田がそう言うと、即座に土方の額に青筋が浮き上がる。
「──やられてねェ」
「そうでさァね、犬にゃァ、服を脱がせるなんてェ高尚なこたァ、思いつきやせんからねィ…あいつがバカでよかったですねィ」
 棘しかない言葉に、土方の眉がひくひく引き攣る。
「──なんでお前が怒ってんだ…だいたいあんなん、図体がでけェだけの犬だろうが」
「怒ってやせん」
 頑に言い張ると、土方の怒りが反動のように小さくなっていく。
 土方は短くなった煙草を備え付けの灰皿で揉み消し、改めて室内をゆっくり見渡す。けばけばしい装飾に顔を顰め、煙草をもう一本取り出した。
「──暑ィな」
「あんたが火ィ使ってっからじゃねェですかィ」
 ぼそりと零れた言葉に素っ気無い返事を返すも、確かに暑い。
 クーラーのスイッチを入れると、微かなモーター音と共に乾いた空気が吐き出され、なんだか急に喉が渇いてきた。
 備えつけの簡易湯沸かし器に水を入れ、茶葉を突っ込む。
 土方は居心地悪そうに愛刀の柄を握り、すぱすぱとやたら煙草を吹かしている。


2012.6.25.永


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