SILVER
4
 ほとんど変化のみられない土方だが、あの薬は、彼に何らかの効果を齎しているらしい。それはほんの些細なことだ、でも確かに、違う。
 全く空腹をおぼえていないだろう男は、巡回中にファミレスに誘うとむっつり付いて来て、昼食を摂る沖田の前で煙草を取り出した。
「ここァ禁煙ですぜィ」
 ぴくん、と眉が寄り、土方は煙草を懐に戻した。そうして、居心地悪そうにコーヒーにマヨネーズを大量投入する。
「それァ…うまいんですかィ」
 ハンバーグに切り込みをいれながら問うと、飲んでみるかと差し出された。
 沖田は片眉を持ち上げ、そっとナイフを置く。
 代わりに手にしたコーヒーカップには、温められてもろもろになったマヨネーズと、にゅるにゅるの塊が浮かんでいて──少なくとも、これをコーヒーと認めたくはない。
 土方が飲むのは幾度も目にしたけれど、沖田がこれに関心を示したのは初めてだ。彼の視線を痛い程に感じた。
 眉根を寄せ、スプーンで殊更にゆっくり掻き混ぜる。
 そして、一舐め──無言のままカップを置いて、手の甲で口元を拭った。
 カップを半回転させて土方の前へ戻し、ナイフを持ち直す。
「──どうだ?」
「見た目通りでさァ──」
 犬の餌…にしたら犬が病気になりそうなゲテモノ、と心の中で呟く。
 言葉にしなかった本音は通じず、土方は少しだけ唇を緩め、コーヒーカップを取り上げた。
 啜った瞬間を見計らい、
「あ、間接キス」
吹き出されたマヨコーヒーをさっと避ける。
 しかし、置き去りにされたハンバーグランチの皿がブツの洗礼を受けた。
「…悪ィ」
「ま…ここの払いは土方さんってことで」
 マヨネーズと、隠し味にコーヒー、それとたぶん僅かに土方の唾液の塗されたハンバーグを、今度こそ黙々と喉へ押し込んだ。
 直接アレを飲むのは辛いなんてものではないが。この味は悪くない…なんて、認めたくないけれど。


2012.5.28.永


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あきゅろす。
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