SILVER
3
 昼食時に相対した土方は、今日も今日とて定食にこんもりとマヨネーズを盛り、黙々と食していた。
 総悟が脇を擦り抜けたときに軽く視線を上げただけで、全くもって普段と変わらない。
 副長が普段通りだから、妙な行動をとった外部者に怒りを燃やしている者もいない。
 近藤は、彼から買った‘赤い丸薬’を持ってストーカーに行ってしまった。
 あんまりにも変わらないから、彼が器を置いたところに斬りかかってやったら、速やかに躱されてトレーが真っ二つになった。
「っぶねーなっ!!」
 瞳孔を即座にかっ開いて刀を抜く男には、可愛気なんてもの見当たるはずもない。また、惚れられている感じも全くない。剣捌きにもブレはなく、むしろ銀時の話に動揺したか、こちらにやや分が悪いくらいだ。
 食堂なんて人口密度の高い場所で始まった斬り合いは、早くもしょんぼり帰ってきた近藤のゲンコツで決着がつく前に強制終了した。
 やはり効かなかったか、飲ませられなかったか、さてどちらだろう。
「なんのために道場があるんだ、お前達…」
「土方のツラァ見てたらなんかムカついたんでさァ」
 苦笑する近藤にむっつり訴えると、視界の端でびくりと土方の肩が跳ねた。ぎくりと目をやったが彼はなんでもないように大きな溜息をつく。
「──悪ィな、近藤さん」
 くるりと背を向けた土方の肩が、いつもより小さく見えた。
 沖田は近藤に軽く一礼して、廊下に飛び出した。
「──なんだ」
 低く唸った土方は、こちらを振り向かない。
「…なんでもありやせんが」
「じゃあついて来るな、俺は今から巡回に行って来る」
「──俺も、行きやさァ」
 ぴたり、と土方の足が止まる。唐突すぎてその背に衝突しそうになった。
「飯がまだだろう、お前」
 揺れる声音の正面にまわりこむ、とふいと顔を逸らされた。
「後で、かまいやせん」
「──そうか」
 抑えようとして抑えきれない喜色が、ほんの僅かクールな仮面の下から覗き、引っ込んだ。
 気づいてしまった刹那の変化に、ぎしりと硬直する。鼓動が耳元で喚き出した。
 ──嬉しいのか、この人は。俺と出かけるのが、嬉しいのか。
 立ち尽くす沖田を追い越し、彼はすたすたと行ってしまう。
「早くしねェと置いてくぞ」
「あ…わぁってらァ!」


2012.5.21.永


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