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ダイブ
ぐ、と爪先に力をいれ背伸びをする。ぐらぐらと不安定な体だが上に向かって手を伸ばす。
「うあ、あともう少し…」
「一希ちゃーん、それはもう少しって言いませーん」
皮肉ったようなからかい声が聞こえ、伸びるのをやめその声の主を見る。
「…瑞垣も届かんじゃろう」
「俊二はぁ、無駄な体力は使わないことにしてるのぉ、だから届くけどやらないだけなの」
いつも思うがこいつ、瑞垣のこの口調は、人の神経を逆なでする。
いーっと瑞垣のほうを向いて顔を歪ませてみせる。けらけらと瑞垣は、一希ちゃん変な顔と笑う。
ふと、門脇のほうを見ると、不思議そうな顔をしていたので、どうしたんじゃと問うた。
「えっ、いや…俊、そこまで背高かったかと思っ…」
「黙れ秀吾」
海音寺が笑いをもらす。ちらりと瑞垣のほうを見てからくすりともう一度笑った。
「ナイスじゃ門脇」
「どこがナイスや海音寺、言ってみぃ」
「きゃー俊二君たら怖い」
棒読みで、海音寺は言ったかと思うと、門脇の後ろに隠れるようにし、頭だけをこちらへ覗かせた。
「ほら、俊、海音寺が怖がっとるやろ」
「どこがや、思いっきり棒読みやろが」
「きゃあ、助けて門脇、俊二君怖い」
顔はおかしそうに笑っている。何だか無性にその笑顔が気に入らなくて、そばにあったベッドにぼすんと腰掛けた。
軽くほこりが舞い上がり、太陽の暖かい匂いがする。今日の天気は快晴であったので、布団を干したのであろう。
「ったく、俺は一希ちゃんを呼んだつもりやったんやけど、何でおまけがついてきたんや」
「おまけ、って門脇のことか?」
「そー、秀吾君のこと」
じとりとした目つきで門脇のほうを見やる。門脇は気にした様子も悪びれた様子もなくさらりと答えた。
「いや、コンビニで海音寺と会ってな、そのままここへ来ただけやけど」
「偶然会うたんじゃ」
なっ、とお互いに顔を見合わせる二人を見て、瑞垣は軽く嫌気がさした。はぁ、とわざと大きくため息をつく。
「幸せが逃げるぞ、瑞垣」
誰のせいやあほ
声には出さずに秀吾のほうを見ると、にこっと微笑まれた、途端背筋をぞくぞくとしたものが這い上がる。
思わず身震いしてしまった。
「うっわ、まじやめて、きしょい、似合わない、鳥肌たったやんか、めっちゃ不気味やで秀吾」
「…俊、流石に傷つくんやけど」
「お前がこんなことで傷つくかあほぅ」
いつの間にか近くに寄ってきていた門脇の脚を目掛けて蹴りを放つ。
思いのほかクリーンヒットした脚が軽くしびれた。門脇はうっと小さく呻き声を漏らし、しゃがみこんだ。
門脇は少し眉をひそめ、瑞垣を見やった。瑞垣はふんと鼻で笑い、どうしたんやと嫌みったらしく問う。
ふと、海音寺のほうを見ると眉をひそめて哀れみの目で門脇を見ていた。そこから視線を俺の方へと向ける。
「瑞垣、弁慶の泣き所は痛いんじゃぞ、本当に痺れるんじゃ」
眉をひそめたまま、海音寺は痛いと呟くように言った。
「俺、蹴られたことあるんじゃけど泣きそうになった。門脇、大丈夫か?」
「大丈夫や、けど痛い、ほんま痛いわ」
ちらちらと瑞垣のほうを見ながら門脇が言う。
その動作が気に入らなくて、もう一度蹴ってやろうかと脚に力をこめた。その脚を振り上げる。
当たった、かのように思えた。しかし門脇はその足を捕まえ、にやりと笑った。そして、床にそっとおろした。
「二回目は当たらん」
「それはどうかな」
え、と間抜けな声を出す門脇の脇腹目掛けてさっきとは反対の脚を振り上げる。予期してしなかった無防備な体に蹴りがはいり、大きく体が揺らいだ。
ここまでは、瑞垣の予想していた通りであった。しかし予想に反して、大きく門脇の体は揺らぎ、瑞垣のほうへと倒れ込んできた。
は?
言葉を発する間もなく、瑞垣は門脇に押しつぶされるようになった。
下がベッドで良かった、もしも床であったら背中をしたたかに打ちつけていただろう。
「ちょっ、あほ秀吾!どけっ重い!」
「っうー…ちょっと今無理、腹、痛い…」
「あほか!はよどけっ!」
じたばたと動き、腕で門脇の体を押し返す。
ぐぐと力を入れるが少し動いただけであった。
最悪、いったいなんなんやこの状態は!
「楽しそうじゃな」
上のほうから間の抜けた声が聞こえた。ようやく体半分がぬけだし、顔をそちらへ向けたときであった。
「待てっ海音…」
静止の声をかけたが時は既に遅かった。
海音寺は俺ら向けてダイブしてきたのであった。
「瑞垣、い、いひゃい」
「誰のせいや、思いっきり、でこぶつけたんわ」
海音寺の頬をつねり、にこりと笑いかける。
海音寺は、じゃって楽しそうじゃったんじゃと言った。
楽しそうでも飛び込んでくるなんてことをするな!
「ったく、じんじんするやんか」
つねっていた手を放し、自分の額をさする。
多分赤くなっているだろう額は、じんじんと響くように痛かった。
「ごめんな、まさかぶつかるとは思わなかったんじゃ」
海音寺が俺の前髪を掻きあげた。額をさすり、ちゅと小さくキスを落とし、痛いの飛んでいけと呟いた。
いったいお前は何歳や、恥ずかしいやつやな
「一希ちゃん」
「ん?」
「でこちゅーより、唇にキスしない?」
「っ、あほか!」
少し朱に染まった顔がたまらなく可愛いと思う。顎に手をかけ、自分のほうへ引き寄せた。
あ、と小さく海音寺が言ったが気にせずに距離を縮める。
「あの、一応俺おるからな」
「…黙っとけ秀吾」
ぱっと海音寺の体が離れ、更に顔を朱に染めた。ぎろりと瑞垣が門脇を睨む、無言でどけと言うが門脇はどかなかった。
「秀吾、いい加減にしやんときれるぞ」
「俊がこんなところでしようとするのが悪い」
「どこで何しようと勝手やろ」
「時と場所を考えろっていうやろ」
「あら、秀吾君たら物知りなのね」
「あっ」
海音寺が小さく声をあげた。二人ほぼ同時に海音寺のほうへと向き直る。海音寺は、顔を布団へと埋めていた。
何事かと思い、ぎょっとした。平静を装おうとしたが上擦った声が出てしまった。
「海音寺…?」
声を反応したように海音寺が顔をあげて、俺の方を向く。そして、にこっと笑って俺を手招きをした。
上に乗っていた門脇をどうにかどけて、海音寺のほうへと転がるように移動した。
何?聞く前に、首に手がかかる。そして、そのまま引き寄せられ、抱きしめられた。
暖かい。触れているところから感じる心地よさに目を細める。
めったにないこの状況に大きく心臓が跳ねたのが分かった。
んーと言いながら海音寺は俺の胸元に顔を寄せてきた。
「っ海音寺、なんや!」
思わず焦った声がでてしまいらしくないなと思う。海音寺は不意打ちが上手い、本人は自覚がないから性質が悪い。最も、自覚があればあるで悪いのだが。
「あのな」
そこでいったん言葉を区切り、顔をあげて、俺と視線を絡ませた。
へらりと眉を下げ笑った。
形の良い唇から流れ出た言葉は
「瑞垣の匂いがしたんじゃ」
(っ!)(今確かめてみたんじゃ…っ瑞垣!力、強いっ)(お前が可愛すぎるのが悪い!)(ちょ、俺いるんですが)(黙れ秀吾)(へへ、暖かい…)
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キリリク、セイナさんへ
セイナさんのみお持ち帰り許可です´`
無駄にぐだぐだ長くて申し訳ないです
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