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横手行きの切符



先に開口したのは、海音寺だった。


「…何でこんなところにおるんじゃ」


ざわざわとした人混みの中だが、それは不思議なことにはっきりと耳に届いた。


「いや、おまえこそ何でこんなところにおるんや」

「何でって、ここが駅だからじゃろ」

「駅におる理由は何や」

「それを言うたらおまえもじゃろ。ここ新田、横手のおまえが何でここにおるん」

「…どーでもええやろ」

「それやったら俺もどーでも良いじゃろ」


がしがしと瑞垣は頭を掻く。いつの間こんなことを言えるようになったんや
海音寺は握っていた両手を、ズボンのポケットへ突っ込んだかと思うと、すぐに出して、笑った。

「誰かさんとお付き合いしてるとな、嫌でも曲がってくるんじゃ」

「まっ、一希ちゃんたら何時の間にお付き合いなんてしたの!」

「ははっ、何時の間にじゃろうな」


軽く、海音寺は笑う。
くっと手をひいて、瑞垣は海音寺に訪ねた。


「そんな奴はやめて俊二君にしとき。今なら出血大サービスでキスしたげるわよ」


語尾を跳ねさせ、軽く問う。海音寺はそれを聞いて、眉を下げ笑った。

「それじゃあお付き合いしてくれるか。キスはそこまで金持ってないんで良いわ」

「一希ちゃん可愛いからお金なんて要らないわ、だから…」

掴んでいた手を引っ張る。引っ張られるなんて思っていなかった体は、簡単に傾く。


「……」

「……」

「……ちょっと一希ちゃん」

「俊二君、ここ駅じゃから、今は良いわ」


すんでのところで、繋いだ手と反対の手で遮られた。
なんか、海音寺のペースに乗せられてるみたいやんか

「可愛くねぇ」

思い切り、手に力をこめると、一瞬顔が歪んだが、すぐに力を入れ替えしてきた。


「…っどこいく?」

「どこでもええ……っ」

「俺もどこでも」

「……」

2人顔を見合わせて、手の力を抜く。
何故か海音寺が楽しそうに笑った。

「門脇の家」

「何でわざわざ横手へ戻って秀吾とこへ行かなあかんのや」

「学校」

「却下、学校とか反吐がでるわ」

「公園」

「何が悲しくて男二人で公園デートしやなあかんのや」


次々と、場所をあげては瑞垣に却下される。
思いつくままに言った場所がすべて却下され、海音寺は少し頬を膨らませた。


「それやったら瑞垣が決めぇ」

「それじゃ」


瑞垣はどこからともなく、二枚のチケットを取り出し、海音寺の前で降って見せた。


「チケット?」

「そ。お姉さんと映画にでも行かないかしら」


それならもっと早く言えと、海音寺は溜め息をついた。














「あ、そうじゃ、瑞垣お代は?」

「は、別にこれくらいええよ」

どうせ、貰い物のチケットやし
俺と海音寺は後ろのほうの真ん中の席に座った。前のほうは結構混んでいるが、後ろのほうはそうでもなく、ゆったりと座ることができた。
だらりとだらけていると、海音寺が、だらしないなんて言ってきたけど知らないふりをする。

海音寺がスクリーンのほうへ視線を移す。
ジーという映画が始まるときの音が館内に流れた。

「あ、はじまるみた…」

暗くなり、一瞬だけ前が見えなくなるその時に、海音寺の頬へキスをする。何か言いたそうに口を開けたが、耳元で囁いてやるとぐっと唇を噛んで、前を向いた。

(お代としていただきます)





映画の内容は、遠距離恋愛の二人の話だった。
普通なら、男二人でこんな映画、見に来ない。
けれど、映画のチケットを二枚貰ったとき真っ先に海音寺の顔が浮かんだ。
気ままに、気分が向けば会うし、キスもする仲だ。だが気が向かなければ会いもしないし、メールの一通も届かない仲でもある。
しかし、離してやることはない。死ぬまで、離さない。




ふと、気がつくと、映画は終わりエンディングが流れていた。
ざわざわと少しずつ人が立ち上がる。中には泣いている人も居た。
そんな泣くほどじゃなかったやんか


「なぁ、海音……寺?」

「う、なんじゃ…っ」

「おま、ちょ、泣いてんのか」

「だって、悲し…ぅ」

海音寺は泣いていた(しかも大粒の涙を垂れ流したままスクリーンを見つめている)
ボロボロこぼれ落ちた涙が頬を伝い、下に落ちていく。
エンディングが終わり、人が席から立ち上がる。人々が海音寺のほうへ視線向ける。
なんなんや、こいつ、涙腺ゆるゆるやないか


「あーもー、おい、男子高校生が恋愛映画ごときにボロボロ涙流すな」

「じゃって…悲しかったじゃろっ主人公がっ最後、にっ」

そこまで言って、じわりとくるものがあったのか、海音寺は瞳がぼやけて見えなくなるほどの涙を浮かべた。

いつの間にか観客は全て出て行ってしまっており、二人しか残っていなかった。

「鼻かめ、涙拭え、どえらい不細工やぞ」

ポケットからハンカチを取り出し海音寺に渡す。
ずずっと海音寺は鼻をすすったかと思うと、にこりと(相変わらず瞳はゆるゆるだが)こちら向けて笑った。

「良かったな、有難う、連れてきてくれて」

そう言い、ポケットの中から何やら出してきたかと思うと、俺の手に押し付けた。

「お礼じゃ。俺、なんか顔やばいみたいじゃし帰るな。今日はありがとうな」

「お気に召したようで何より」



海音寺が去ってから手を開くとそれは







横手行きの切符
(なんやあいつ横手に来る気やったんか)(うっわ、恥ずかしい奴らやな俺ら!)




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6666hitキリリク
鈴本さんへ!

熟年夫婦のつもりだったのに何か、違いますね(;_;)ごめんなさい!
愛はこもってます!
一応設定としては、二人とも同じ日に互いに会いに行こうとしたところ出会った。というものです(分からなくて申し訳ないです)

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あきゅろす。
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