chu
call my name!
「いーそべっ!」
「う、わぁっ!」
call my name!
磯部は背中に暖かい何かが抱きついてきたのを感じ、思わず声をあげてしまった。
ははっと乾いた短い声が耳の後ろをくすぐるように聞こえる。
懐かしい、ついこの間まで毎日聞いていた声。
「か、か、かっ」
「声になってないぞ」
からかうような声が聞こえ、嬉しそうな笑い声が磯部を包んだ。
「驚きすぎじゃ」
そう言って海音寺は腰に回していた手を離し、ぽんと肩を叩いた。
そして横に一緒になって歩き出す。
磯部は、今日は監督が不在(何やら出張だとか)テストも近いとのことで部活が休みになった。
「ったく、危ないじゃろう」
「んー、磯部の背中が見えたんじゃ、何だか飛びついて欲しそうな背中じゃった」
「ははっ、何じゃそりゃ」
正直ドキリとした。
野球が今日は出来ないと思って歩いていたら、何だか海音寺の顔が浮かんできて、俺の頭の中で「悠也っ野球やろう」なんて優しく笑いかけるもんだから、思わずにやけていたのだ。
見られてないじゃろな…後ろからきたから大丈夫じゃろうけど
「部活、休み?」
「休み。監督が出張かなんやらじゃと、一希は?」
「テスト期間じゃ」
テストなんか嫌になるなんて少し眉をひそめて言う。
「一希は頭ええじゃろ」
「ダメじゃ、古典がなかなか点とれんのじゃ」
むぅと膨れっ面になりながら、俺日本人じゃないかもしれん、なんて真剣な顔で言うから思わず吹き出してしまった。
「なんで笑うんじゃっ!」
「ははっ、大丈夫大丈夫、一希のダメは俺の良いじゃから」
ぐしゃぐしゃと髪の毛をかき混ぜると、やめれっと笑った。
「髪の毛まだ濡れてるじゃろ、手濡れるぞ」
「水泳?」
「そうじゃ。今日は暑かった、気持ちよかったけどな」
そういえば髪の毛はしっとりとしていて、綺麗な黒髪がいつも以上に艶を出している。
鼻の頭も少し赤い。
よく見ると、シャツの上から3つぐらいはボタンが開いている。海音寺にしては珍しくシャツもズボンの中にはいっていない。
少し悪戯心が疼く。
「ひぁっ、い、磯部!」
「校則はシャツをズボンの中にいれるじゃろ」
「やめれっこしょば、いっ!」
わざと腰をくすぐる。
海音寺は俺の手から逃げるようにもがく。最近伸びた俺との身長差によって逃げ出せることなく、俺の腕の中で暴れる。
「ちょっ、わざとじゃろ!やめぇっ」
少し息を弾ませて、海音寺は俺の腰をつかんだ。
「やめんなら俺もするっ」
「ひ、っ!」
海音寺が俺の腰をくすぐり始めた。思わず情けない声を出してしまう。そのまま負けじと海音寺をくすぐると、苦痛に歪んだような楽しいような可笑しいような複雑な表情をした。
なんだか楽しくて、2人で転げ回るようになる(正確にいうと、逃げて逃げられて捕まえて捕まえられての繰り返しだ)
ふと、にやりと笑うと海音寺もにやりと笑い返してきた。
俺は今心臓が可哀想なくらい忙しなく動いている。
今走り回っていることと、一希の笑顔によって。
「えっ」
「あっ」
少し前を見ていなかったら(顔が赤くなりそうだったから、ちょっと違う方向を見ていた)
一希と真正面からがつんと音をたててぶつかった。
「い、たぁっ!」
「痛た、磯部っちゃんと前見てっ」
「一希も正面から飛びついてくるなっ」
「……く、くくっ」
海音寺は笑い出した。からからと大きな声で。
つられて磯部も笑い出す。2人で顔を見合わせながら、ベンチへ座り、髪の毛をぐしゃぐしゃにしあう。
さらさらと指からすり抜けていく髪の毛はぐしゃっとしてもある程度以外は戻ってしまう。
すっかり乾いたのか、先ほどまでの湿りはなくなっていた。
「磯部、変な顔してるぞ?」
きょとんとした顔で、数cm下から言われる。
は、と我にかえる。
「いや、何もないんじゃ」
「ふーん、悠哉にしては真剣な顔じゃったぞ」
“悠哉”
ただ名前を呼ばれただけなのに軽く心臓が跳ねた。まるで酸素が多すぎて軽くしんどいような、息が詰まるような感じ。
「?どうし「もう一回呼んで」
海音寺の声を遮るようにして磯部は言った。
海音寺のくりっとした大きな目をのぞき込むようにする。
…そういえば、学校の授業で言ってたなぁ。昔の人は慈しむ人の目を深く、のぞきこんだって。
「悠哉」
一希は視線をそらさず、もう一度悠哉、と呼んだ。
髪の毛をすいていた手に力を入れる。そのまま、自分の顔のほうへ引き寄せる。一希の驚いた顔が見えた。
ちゅ
「はい、終了」
上から声が降り注ぐ。
見上げるとそこには、
「み、瑞垣、…さん」
「よぉ、磯部悠哉君。」
「瑞垣、どうしたんじゃ?えらい汗じゃな」
俺の唇が行き着いた先は一希のそれではなくて、横から突っ込まれた瑞垣の手であった。
穏やかに笑っているが、目が冷たい、俺のもんに何してるんやというオーラが出ている気がする。
「なんじゃ、走ってきたのか」
「あほ、太陽のせいや太陽。…で、何してたんや?」
「何って、悠哉と話してたんじゃ」
へー?と瑞垣が俺の瞳を冷たい視線で射抜く。正直、俺一希にキスしようとしてた。危ない、この男にそれを見られたなら、きっとただではすまない。
「ははっ体力ないなぁ、汗かきすぎじゃ」
「…俺は一希ちゃんみたいに、夜に激しい運動しませんからぁ」
「な!?」
かぁあと海音寺の顔が一気に朱に染まる。
「ふふ、一希ちゃん行くわよ、じっくり俺と話しましょう」
「何をじゃっ、ちょっ、瑞垣!」
「ふふ、磯部悠哉君、邪魔して悪かったな、一希ちゃん、俺に返してな?」
そうこうしているうちに一希は連れて行かれた。悠哉、すまん!なんて言いながら。
「…なんか優越感」
あいつは瑞垣、俺は悠哉。
くくと笑いがこみあげてくる。あの人絶対走ってきたな、息とかも乱れてたし。
一希にベタ惚れじゃろ、あれは。
「あーでも悲しい、一希、若干瑞垣をみて、笑顔になったし」
声にだしてみると虚しくなったのでやめておいた(だってまだチャンスはあると信じたいじゃないか)(…あれば良いけど)
「今度は一希に名前連呼してもらおう」
call my name!
おれのなまえをよんで!(せめてそれだけの幸せを)(一希!)
!!
5000hitありがとうございます!
いさきさんのみお持ち帰りOKです!(^^)!
瑞海前提の磯海のはずなんですが、何か可笑しくてすみません(^^;)
愛はこもってます!
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