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スプーン一杯分の
「瑞垣ぃ…」
「なんや一希ちゃん」
「今現在の季節はなんじゃ?」
「夏」
「じゃあこれは何じゃ」
海音寺はじとりとした目つきで目の前に置かれたものを見た。
「カップやな」
「中身は?」
「飲み物」
あほか、それぐらい分かってるんじゃと言うと瑞垣はへらりと笑った。
そしていつもの嫌な笑い方に変えて挑発するように言ってきた。
「やだ、一希ちゃんったらものしりなのねっ!」
ふぅと大きなため息が思わずでてしまう。こんのあほがっ!
がっとソファーの隣に座っていた瑞垣の首に、自分の手をかけて、しめる。
「あだっ…痛た!一希ちゃん、い、痛っ!」
「俊二くーん?俺、冷たい飲み物がええなぁって言ったじゃろが?」
カップからは暖かそうな湯気がふわりふわりと天井向かって上がっていて、いかにも熱いですよといっている。
湯気を見つめながら瑞垣はにやりと口角を釣り上げた。
「やーん、俊二、気づかなかったぁー」
首をしめられているにも関わらず両手を自分の前にくみ、顔と手を傾けて可愛いポーズをとる(瑞垣がやると可愛く見えん!)
「わざとじゃろっ!」
にひひという効果音をつければぴったりだろう。にやにやしたままの瑞垣は肯定もしなければ否定もしなかった。
「しかも…これコーヒーじゃろ、俺飲めんよ」
砂糖が入っていればまだましだが、そのままストレートに飲むのは苦くてあまり好きではない。
コーヒー独特の苦味を好きになれなかった。
首をまだしめた状態だったのをやんわりとはずして、瑞垣は自分用に入れてきたスポーツ飲料をくっと飲んだ(何で自分だけ冷たいのなんじゃ!しかも氷までちゃんといれとる!)(せめてアイスコーヒーとかすれば良いものを)
「なーに?一希ちゃんたら、コーヒー、飲めないの?」
くくとバカにした笑いをする瑞垣に苛立ちを感じる。一瞬もう一度しめてやろうかと勝手に手がピクリと反応した。
「そーいうお前は飲めんのか?」
「飲める」
少しの間もあけず即答されて少したじろぐ。
腹の中に負けず嫌いな自分がひょっこりと顔をだす。けれどもこんなくだらないことの為にムキになることもない。
二つの思いが拮抗して、少しの間動かなかった。その様子を見て瑞垣がさも愉しそうに言った。
「子供だねー」
「の、飲める!」
ガバッと暖かいカップを思わず掴んでしまって気がついた、やばい、飲まなきゃバカにされる
「じゃ、どうぞ」
「っ……」
ぐっとカップを睨みつける。見れば見るほどに苦そうに見えてくる。
ゴクリと喉を鳴らして海音寺は口へとカップを運んだ。
「う」
コーヒー独特の苦味が舌の上に広がり香りが鼻を通る。苦い。
もう一口飲もうとカップを握りしめるが口へと運ぶのには勇気が必要であった。
勝った!という表情をして瑞垣がソファーから立ち上がり歩いていく。
妙に良い顔をしている瑞垣に対するなんとも言えない感情が腹を駆け回った。
「砂糖あげるわ」
ガチャガチャと食器類がこすれ、探す音が聞こえる。
「最初っからそうせぇ」
海音寺はぼそりと呟くように言った。
ん、と言って瑞垣が差し出したのはスプーンだった。きらりと光に反射し、上のあたりにワンポイントの花(何やらユリのような花だ)がある。
「瑞垣、砂糖は?」
「そこにあるやん」
俺の目が急に悪くなって見えないのでなければ、俺の前にはそんなものはない。
「瑞垣…いい加減に」
「甘いもんあるやん」
こいつは何を言っているのだろう、そんなもの
「どこにもな「スプーンに甘い愛こめた」
…愛?
「はっ…な、何言って」
ボッと沸騰したように顔が熱くなる。突佛、くらりとしためまいまで感じてしまう。耳まで赤くなっているのを感じて、余計に恥ずかしい。
「ほら」
海音寺が持っていたスプーンをひったくるようにしてとる。
そのままコーヒーへ突っ込み、くるりと2、3回混ぜた。
かちゃりと音をたてて、スプーンをコーヒーからあげる。
俺が何を言えば良いのか迷っていたら瑞垣は俺の口へカップを押し当ててきたので、ぐ、と口を結んでいると、顎をつかまれた。
驚いた瞬間にコーヒーを流し込まれる、少しぬるくなってきていた。
舌に残った味は…
「苦い」
「嘘」
「苦い」
「やーん、一希ちゃんったら顔真っ赤ー」
「な、これは、苦いから、じゃ!」
「可愛い!一希ちゃん!」
そういってぎゅうと抱きついてきた。
こいつは俺の寿命を短くするつもりか、心臓がバックバクしていてやばい。
「な」
「…っ」
あんまり瑞垣が嬉しそうに笑うから、俺も思わず情けない笑いを返してしまった。
あぁ、馬鹿じゃなぁ
視線をあげると瑞垣と目があった。
そのまま俺たちはキスをした。
スプーン一杯分の
(愛をあげる!)(実はすこしでも甘く感じたなんて言えっこない!)
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