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優等生T
優等生T1

「誰にも、言えないです、ね」
「う、ぅんっ……あっぁん!」

ぐい、と薄い腰を掴んで揺さぶる。
その度にちらちらと視界に飛び込んでくる黒髪。
頼りなげに宙を掴む細い手。

時折絡む、視線。

しかし、それは甘いものではない。
青年を見据える欲にまみれた視線と、少年を見つめる怯えと快楽が織り交ざった瞳がぶつかるだけ。



日の暮れた校舎に響く甘い声は、二人だけの深い秘密となった。






六月の中旬、数学の崎田が産休を取った。
もともと解りにくい授業だった上、毎回同じような生徒ばかり指名する、と彼女の評判はとにかく悪かった。
授業では常に学年成績の高い者ばかりを当て、理解できない者は容赦無く置いていく。
そんな教師にみんな嫌気がさしていたのだろう。
産休を取ると聞いた時、クラスはかつてない盛り上がりを見せた。
それを聞き、周囲の奴ら程では無いが、内心俺も喜んだ。



そして、彼女の代わりに彼が来た。

すらりとした細身の体は、スーツを着ていてもわかる程に華奢で頼りなく。
陽光を浴びてもなお黒く輝く髪は、まるでこの世の者ではないように美しかった。

整った容姿と、儚げな表情。

こんな教師がいたことに今まで気付かぬ筈が無い。
だとすると、崎田の代わりに臨時で新しく雇われたのだろう。


『蓮見 颯太』

黒板に白いチョークで書かれた文字を、そっと呟いてみる。
……はすみ、そうた。

その瞬間、ざわりと何かが肌を駆け抜けていくのを感じた。
初めて会ったばかりだというのに……彼のことがたまらなく欲しくなる。
怯えさせて、泣かせて、依存させたい。
そんな想いが、俺の心に暗く広がっていった。




「蓮見先生」

彼の授業が終わると、すぐに行動を起こした。
チャンスはそうあるものではないから、何事も早めがいい。
自分にそう言い聞かせたが、本当はただ一秒でも長く彼をこの瞳に映しておきたかっただけなのかもしれない。
教材をまとめ、教室から立ち去ろうとする蓮見に声をかけた。

「君は……」

俺の呼びかけに気がついた彼は、こちらを見る。

「高島です。高島誠和」

俺はいわゆる、クラス内の優等生的な存在だ。
テストでは常にトップ5に入り、生徒会では書記をやっていて教師達の信頼も厚い。
一度も染めたことのない髪は黒く、ノンフレームの眼鏡は理知的に見えるらしい。
これらは勿論計算のうちだが、やはり真面目な学生を装うことは色々な場面で非常に役に立つ。

「高島君。何かな?」

そう問いかける蓮見は落ち着いた様子を見せるが、その瞳はゆらゆらと不安定に揺れている。
いきなり生徒から声をかけられたから驚いたのだろう。
しかし、たったそれだけのことで動揺するのならば、優等生の振りをした生徒に突然獣のように襲われたら……、この新任教師はどんな反応を見せるのだろう。
どんな風に乱れるのだろう。
どんな風に……涙を零すのだろう。
その不安を押し殺した仮面を、無理矢理剥ぎ取ってやりたい。

「そんな目をしても、ダメですよ」
「え?」
「いえ、何でもありません。それより先生、放課後はお暇ですか、」
「……暇だよ。授業の質問?」

質問なんて、あるわけない。
先程蓮見が出した宿題すら授業中に終わらせた。
しかしそれより、答えるまでに僅かに間があったことに、俺は苛ついた。
何故と言われたら困るが、彼が見せた一瞬の迷いが、俺の心にさらなる火をつけたことは確かだ。

「では、HRが終わり次第職員室に迎えに行きます」

あえて蓮見の質問には答えず自分の用件だけを告げる。
中指で眼鏡を直しつつ有無を言わさぬ視線で語りかけると、蓮見の肩がビクリとした。

「次移動なんで俺もう行きます。今日の放課後、ちゃんと待っていて下さいね、先生」









「失礼します、蓮見先生いらっしゃいますか、」

カラリ、と音を立ててドアを開けると、職員室は放課後ということもありなかなか賑わっていた。
コーヒーを飲んだり談笑したり、先生だけでなくちらほら生徒も混じっているようだ。

そんな中、窓際の席で一人静かにペンを走らせる彼を見つけた。
静かに近寄り、耳元で囁いてみる。

「せんせい、迎えに来ましたよ」

にっこりと微笑むと、驚いた顔の蓮見と目が合った。






二人でまだ騒がしさの残る廊下をゆっくりと歩いて行く
春に比べて大分日の暮れるのが遅くなった、そんなことを話しながら少し先を歩く彼の薄い背中を見ていると思わずひき寄せたくなる。
夕日に透けてきらきらする髪が反射し、俺は目を伏せた。

「高島。着いたぞ」

『数学教官室』
古いプレートにゴシック体でそう書かれている。

部屋の中は以外に狭く、机が四つあるせいで人一人通るのがやっとだろう。
蓮見の机は紙が大量に積まれている。

「散らかってて悪い。そこに座ってちょっと待ってて、」

比較的綺麗な机を指差し、蓮見はくるりと戸棚へと体を向けた。
なんだか今日は、と言っても今日初めて会ったのだが、それ以来彼の後姿ばかり見ている気がする。

「ねぇ先生、何しているんですか、」
「数学の教科書探してる」
「何で教科書?」
「何でって……お前質問に来たんだろ?」

ああ、先生はそう思っていたんだ。

だからこんなにも素敵な場所に連れてきてくれたのか。

人の来ない
鍵のかかる
密室に。

こんなにも無防備な背中を見せて。

……そう思ったら、いてもたってもいられなくなった。

「違いますよ、先生。僕は……」

ぎぃ、と椅子が軋む。

「先生を、抱きにきたんですよ」

視線が合う。

「え……?な、に言って、」
「冗談ではありませんよ」

俺は椅子から身を離し、蓮見へと近付く。

「今日先生を初めて見た時、なんて綺麗な人なんだと思いました」

戸棚に背をつけている蓮見に、逃げ場なんてないようなものだ。
それでも、あえて俺はゆっくりと進む。
草食動物を狙う、捕食者のように。


「おい、やめろ。こんな、犯罪だぞ」
「……先生、おいくつですか、」
「に、二十七」
「俺は、十七です。この場合淫行罪で捕まるのは……」

その瞬間、俺が発した言葉に愕然とした表情をした。

「そ、そんな……なんで俺が……」
「さっきから言ってるじゃないですか、先生がこんなだからいけないんですよ」

とうとう追い詰めた蓮見の頬をさらり撫でた。

「あ……、」

ビクリ、と蓮見の肩が震え、思わず嗜虐心が駆られる。
本当にこの人は、今までどんな生活を送ってきたのだろうか。
こんなにも弱々しい姿を簡単にさらけ出してしまうとは……。
やはり俺のような獣に、もう喰われてしまったのだろうか……。
そう思うと、やはり苛立たずにはいられない。

噛み付くように、キスをする。

「んっんぅ……」

角度を変え、舌を入れ、ぐちぐちと蓮見の口の中を暴く。
その度に彼の口の端から唾液が溢れ出る。
動揺しすぎたのか、抵抗する力も頼りない。
その隙にネクタイを緩め、シュルリと取ってしまう。

唇を離し、彼がぷはっと息を吸い込んだところで腹を殴った。
ぼぐっと鈍い音がして、ずるずると座り込んだその両手をネクタイで一纏めに固く結ぶ。

「先生、今までに何人と寝ました?」
「……なに?」
「だから、何人の男に、その穴を使わせたのかを聞いているんです」
「なっ…お、俺は男だ!お前みたいな考えを持つ奴に会ったのなんか初めてだ!」

本当なのだろうか。
だとしたら、自分はなんて幸運なのだろう。
例え蓮見が今までに犯されていたとしてもここでやめるつもりなど勿論無かったが、彼の初穴を自分が奪うのだと思うとやはり興奮する。

彼の髪を優しく梳き、額に軽く口づけをした。
蓮見の唾液が糸を引き、彼のワイシャツを汚している。

「先生、今の言葉信じますよ」

突然口調を柔らかくした俺に驚いたのだろう。

今日何度目かの視線が絡んだ。

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