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痴漢のススメ
痴漢のススメ

 瀬野浩平は、おろしたてのスーツを身に纏い混雑する電車に乗っていた。

 今日は待ちに待った役員会議で、浩平は先月初旬にとうとう役員に抜擢された。
新卒ですぐに今の会社に入り、今期でもう10年。着実に地位を固めていった彼は、ここでようやく大きな一歩を踏み出した。

お偉方も顔を出すといわれている役員会議でヘマをする訳にはいかない。ましてや遅刻なんて、以っての他である。
不安のあまり、普段より二本も早い電車に乗り越んだ。
しかし、あまりの混み具合に思わず気分が悪くなる。

この時間帯って、こんなに混むのか。こんなに鮨詰めだと、スリにあっても気付けないな。
そんな風に心の中で苦笑すると、浩平の腰に誰かの手がぶつかってきた。

 初めは電車の揺れで手が当たったのだろうと思ったが、なかなかその手が離れない。

(俺は女じゃないんだからまだ良いが、もしそうだったならこの手の持ち主はきっと痴漢疑惑を向けられているな)

するとその手は、浩平の考えとシンクロするようにさらりと臀部へと移動した。

おいおい、と思う間もなく大きな手の平で包み込むように揉まれた。
思わずびくりとしてしまい、吊り革を握る手に一瞬力が篭る。

(これ、もしかして本物の……痴漢?)

ゆっくりゆっくりと浩平の尻を揉み続ける痴漢は、電車の揺れに合わせて強弱を付けてくる。
まさか男の自分が痴漢に遭うとは思う訳もなく、ただただ動揺してしまった。

(え、これ……え?だって俺、男なのに……)

いくら最近パンツルックの女性が世に溢れているとは言え、男性と女性を間違える人は少ないだろう。
ましてや、浩平は特別小柄という訳でもとびきり可愛い顔をしている訳でも無い。
172cmの平凡な男だ。
おまけにもう32歳である。

(……ん、)

男の右手は、大胆にも割れめをズボン越しになぞりはじめた。

ふにふにと左右の肉を揉みながら、広げる様にして割れ目を指が擦る。
いくらスーツを着ているからといって、そんな風に触られると感じてしまう。

(や、ば……んぅ、ん)

滑らかに動くその手の持ち主は、いつのまにか浩平の真後ろへと移動してた。
浩平の腰を掴み、尻を激しく揉みしだく。

と、電車が大きく揺れた。
いつもならば気をつけているカーブ地点だったが、浩平はあまりの気持ち良さに我を忘れかけていたのだ。

そしてその隙に、男は大胆にもズボンの中へと手を伸ばしてきた。

(え、ぇえ……!)

ここにきて浩平の中にもようやく逃げなければという意志が芽生えたが、腰をこうもがっしりと掴まれていては動けない。
おまけに、あまり派手に動いて周囲にこの痴漢行為が知れ渡ると、恥ずかしいのはどう考えても浩平だ。

(なんとか……耐えなく、ちゃんぁあ、)

スーツの中で男は、浩平のパンツをずりさげ直に触れてくる。
意外と大きなその手の平に、浩平の尻は簡単に包み込まれしまう。

ガクン、と二度目の揺れで、男は腰を押さえて居た手もするりとズボンの中へ忍ばせ、浩平の息子を握った。

(……っ!や、や、やだ、やだやだ!どうしよ、んぁ、や、)

尻への愛撫で勃ちあがりかけていたペニスを指でぐりぐりと圧され、その甘い刺激に思わず声をあげそうになる。

必死に吊り革に掴まるが、熱を帯びた体を支えられる訳も無く浩平は後ろの男の胸へと体を預けた。

「大丈夫、寄り掛かっていい」

不意に耳元で低い声がした。
思わず身を固くすると、

「可愛いな」

と耳の裏を吸われる。
ちり、とした痛みが走り、これにはさすがの浩平も度肝を抜かれた。

(この人……なんでこんなに大胆、に、ふっんぅ、)

尻を執拗に弄り続けていた手が不意にペニスを覆うように前へと回る。
もう片方の手は、ペニスのくびれを擦るように扱き、尖端を指でぐちぐちと刺激する。

その余りの快感に、先走りがコプッと溢れ出した。

(や、やだやだこんな所で、もう少しで、会社、なのに、や)

浩平の思いも虚しく、男はラストスパートとばかりに指を巧みにペニスへと絡み付けてくる。

玉を柔らかく揉まれ、陰毛をさわさわと時折掻き分けられる。

(やぁっ、は、……あ、ぁ、あああぁあんんっ!)

会社の最寄駅へと電車が滑り込むと同時に、浩平は男の手の平へと精液をぶちまけた。


電車の扉が開くと同時に、浩平は駆け出した。
改札を素早く通り、駅のトイレへと駆け込み処理をする。

(あんな人の多い電車の中で……僕は見ず知らずの人に、イカされて……しまった)

がくりとうなだれたが、浩平の頬はこれ以上ないスリルと快感によって、赤く染まっていた。

(ヤバイ……癖になりそう、)

震える手でチャックをあげそながら、浩平はその日、別の大きな一歩も踏み出した。






そして浩平はその日から、二本早い電車に乗るようになった。



END


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