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失格者
08



気が付くと僕は、見知らぬ部屋で寝かされていた。


スプリングの悪いソファがギシギシと悲鳴をあげる。
体には薄汚れたブランケットが、申し訳程度に掛けられていた。



ここはどこだ……。



僕はキョロキョロと辺りを見回したが、何一つ見覚えがない。
薄暗い部屋は殺風景で、生活感がまるでない。
ここがどこだかまるで分らない。
しかし、それもそうか。

僕は見知らぬ奴らに、突然誘拐されてきたのだから。
僕と……僕と笹山の二人で。



不意に、吐き気がこみ上げてきた。

胃が逆流し、喉から口内に酸っぱいものが広がる。
僕は堪え切れずに、その場で戻してしまった。
内臓がびくびくと震えているのがわかる。
吐瀉物の匂いにまた吐き気を催して、胃の内容物が空になってもまだ吐き続けた。
だらしなく開いた口から唾液が伝うのを見て、笹山の事を思い出した。
じわりと目頭が熱くなるのを感じた。

笹山……。

こんな訳の分からない場所で死ぬなんて……。
しかも、あんなに酷い殺され方をするなんて。


きっと死体は、あの男達が上手く隠してしまうのだろう。
……恐らく、彼の遺体を笹山のおばさんやおじさんが見る事は無いと思う。
死体が見つかれば死が確定される。
しかし、死体が見つからなければ死は決定されない。
そう考えるとあのような惨い死体を見るよりも、行方不明としてどこかで息子は生きているかもしれぬと希望を持って生活してもらえた方がいいかもしれない。

そんな無駄なことを思った。


次は僕の番だというのに。



吐瀉物まみれになってしまったブランケットを丸めて隅の方に寄せて、僕は立ち上がった。
僕を戒めていたあの縄は解かれている。
しかし、僕はここを抜け出せずにいる。

本来ならば一刻も早くこんな場所から逃げ出さなければならないのだろう。
しかし、体が言う事を聞かない。
いや、おそらく心がここから離れる事を拒否しているのだろう。

笹山が死んだのに、僕だけのうのうとまだ生きている。
その事が僕をこの場所に縛り付けている。

逃げなければならないのに、逃げる事が出来ない。
どうしたらいいのかわからずに部屋の中をうろうろしてると、誰かが扉を開いた。


「おいお前、何やってんだ」
「……トウジ、」
「ていうかお前、この部屋臭いぞ」
「……吐いたから」
「……」

はあ、とこちらまで聞こえるような大げさな溜息をつき、トウジは僕の肩を引き寄せた。
僕より少しだけ背の高いその体に、そのまま身を預ける。

「次、お前の番だぞ」
「……うん」
「本当に分かってんのか、」
「……うん」

わかってねえじゃねえか。

そう優しく耳元で呟かれて、僕はまた胸が苦しくなった。
この暖かい体温も、この低い呆れたような声も、もうすぐ僕は失わなければならないのだ。
それも、自分の死という最悪な形で。

「う……ううぅ」

視界が再び歪み、情けない声が漏れる。

自分の弱さを悔みながらも、僕は涙が零れるのを止めることが出来なかった。
心も体もこんなに弱い。
自分のあまりの卑小さに、目を開けていられない。
トウジは、そんな僕を抱きしめて背中を撫で続けてくれた。











「落ち着いたか、」
「……うん」

あれから一時間。
トウジは僕の傍に居続けてくれた。
案外優しいのかもしれない。
いや、ただ単に暇だったのかもしれない。
どちらにせよ、お陰で僕は大分落ち着くことが出来た。


部屋の明かりをつけ、二人で並んで壁際に座りこむ。


今しかない。
そして彼ならば、答えてくれるかもしれない。
そう思い、僕は聞いた。

「トウジ、あれは……」
「……」
「あれは、なんだったの、」

あれは一体何だったのだ。

最初こそ、AVの撮影か何かかと思った。
いや、途中までそうだと思っていた。
……笹山が殺されるまでは。
確かに性行為のシーンはあった。
しかしあんなものではAVとしては成り立たないであろう。

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あきゅろす。
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