失格者
04
丸くなるように転がる笹山を囲むように、男が二人近づいた。
その二人のさらに後ろに、別の二人が何かを手に後を追う。
目を凝らしてみると、彼らの手にはビデオカメラが握られている。
ビデオカメラ……?
そんなモノを、何故。
……誘拐にしては何かがおかしい。
いや、誘拐の極意を知っている訳でも今まで誘拐に遭った事がある訳でもないので分からないが、やはり何かがおかしい。
僕は訳の分からぬ不安に胸を苛まれた。
笹山の目隠しがシュルリと外される。
目映いライトを直に目に当てられ、目を庇うように手で顔を覆った。
しかし、その手を無情にも男が剥ぎとってしまう。
その様子に思わず声をあげてしまった。
「さ、ささやま……!笹山!」
「津村、どこ?津村あっ!」
僕の声に反応したのだろう笹山は、しきりに僕の名を呼んだ。
しかしやはり男たちにとってそれは不都合らしく。
「おい、トウジ!あいつどうにかしろ!」
「ささやまあっ!」
首だけこちらに向けた笹山と僕の目が合った。
しかし、ほんの一瞬だけだが安心した表情を浮かべた笹山を次に襲ったのは、腹部への男の力強いパンチだった。
「ぐっ……げ、えほっ……」
「なっ……!笹山あっ!!」
「黙ってろ、」
真横に、いつもと変わらぬ調子のトウジがいた。
いつの間にかすぐ傍にいた彼に、思わず噛みつくように叫ぶ。
「あ、あんた、あれは一体なんなんだ!僕たちに怪我をさせたら身代金なんか払われないぞ!」
しかし、トウジは僕をちらりと見て鼻をならす。
「身代金?そんなモンに俺達は興味は無いね……」
「じゃあ何故僕たちはこんな所に……!いいから笹山を離せ!!」
こうしている間に、笹山を拘束していた縄が解かれた。
カメラを持っている男が、笹山を舐め回すように映していく。
「おい、あんた!!」
「いいから少し黙っとけ」
「んぐ、」
口に何か布きれのようなものを詰め込まれた。
それでも尚抵抗しようとする僕を見て、トウジはにやにやとする。
「やっぱりお前、可愛いなあ。そんなに必至に抵抗して……」
そう言って微笑んだトウジの瞳は、僕がこれまで見てきた誰よりも黒い瞳だった。
深い深い漆黒の中の黒。
黒真珠のような妖艶な輝きを放つその瞳から、僕は目を逸らせずにいた。
「ホラ、あの子。ヤラれるぜ」
その言葉に笹山を見ると、その未発達な体に男が圧し掛かるようにしていた。
笹山の学ランの前を広げ、ワイシャツ越しに手を這わせている。
なんだ……?
一体あいつらは何を……。
学ランを脱がせると、ワイシャツのボタンを一つ一つ外していく。
そんな様子を、別の男は位置を変え角度を変え笹山を中心にカメラに収めていく。
なんなんだ……。
一人の少年を数人で取り囲むこの状況。
おまけにビデオカメラでの撮影ときた。
これではまるでAVか何かのよう……で……。
まさ……か……。
これは、強姦……?
数多くあるAVの中でも、レイプものというのは豊富にある。
何故豊富かというと、それだけ男たちは強姦というシチュエーションが好きなのだ。
彼女や妻のいない者にとって、女は性欲の捌け口として求められる事が多い。
相手は誰でもいい、やらせてくれるならそこらにいる女でいい。
そんな風に愚かな考えに身を浸し過ぎた者に強姦者は多い。
嫌がる相手を無理やりに犯す。
普段モテる事も無く虐げられているものにとっての、それは理想の下剋上なのだ。
その相手が可愛ければ可愛いほど、美人であればある程その醜い願望は強くなる。
その結果が強姦モノのAVという形であらわれるのだ。
見た事はないが僕にも聞いたことはある。
AVの中でも数は少ないが、同性同士のものある、と。
そして女同士や男同士、一般嗜好から外れる故に、それは根強く売れ続けるのだという。
まさかこの誘拐も、それが目当てなのだろうか……。
それだとしたらあの男達の目的は、僕らの親から金を巻き上げることではなく……。
その考えに至った瞬間、背筋にぞわりとしたものを感じた。
先ほどまでの曖昧な恐怖ではなくて、もっとリアルな恐ろしさ。
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