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失格者
02






放課後、友達の笹山と一緒に薄暗くなった校舎を出る。
委員会の仕事をしていたらあっという間に時間が過ぎて行ったしまった。

やはり九月も終盤に差し掛かる今の時期は、夜にもなると大分冷え込む。
昼間は嫌で堪らなかったきっちりとした制服も、今なら有難いと素直に思える。


「はあ、もうすっかり夜だね」
「そうだな、笹山が図書目録の順番を乱したから……」
「うわあ、ご、ごめんって!」
「本当に反省してんのか、このっ!」
「ほんとうに助かりました、津村様のお陰です、ありがとう!!」
「よし……じゃあ何か奢れよ」
「えー……!」

そんな風にじゃれあいながら二人で月に照らされた道を歩いていると、目の前に大きな白いバンが止まった。

狭い道を塞ぐように静かにピタリと停車した車に、僕と笹山は少し困惑した。
こんな所で路上駐車するなど、なんて非常識なんだ。


すると、バンから男が三人降りてきて、こちらへ歩いてきた。

何だ?

笹山と目配せをした次の瞬間、僕と笹山はその男たちにいきなり腕を掴まれた。

「なっ……んぐっ!」
「静かにしろ」

「つ、津村……!」


男の掌が僕の口を覆い、腕をぎりりと締め上げる。

僕の名を呼んだ笹山は、口に布のようなものを詰め込まれていた。
暴れる笹山を男は二人ががりで拘束し、白いバンの中へ押し込んだ。

「んんんんーっ!」

僕の口元を押さえている男が、僕の腕を捩じり上げた。
背がしなる程の痛みに思わず涙が零れそうになる。

別の男が縄を持って戻って来て、笹山と同じように僕を拘束した。
足と肩を持ち上げられ、運ぶように僕もまたバンの中に押し込まれた。

普段から体を鍛えるということを怠っていた自分をこれ程までに嘆いたことはない。
それほどまでに、僕は抵抗と言えるほどの行動を取ることすら出来なかった。

本当にあっという間の出来事だった。

碌な抵抗も出来なかったということもあるだろうが、それにしても驚くほどの手際の良さだ。

三分、いや二分も掛からなかっただろう。
しかし、それだけ彼らは手慣れていたということだ。

バンに乗せられてまず目隠しをされた。
ただでさえ視界の悪い夜にこんなものをしたのは恐らく、車の移動経路を割らせない為だったのだろう。

さらには僕の体は男にしっかりと押さえられており、大した身動きすら取れない。
バンはゆっくりと走り出し、長い道のりを走った。

何度も何度も曲り、その途中で笹山の呻き声が何度かした。


誘拐犯


その単語が真っ先に頭に浮かんだ。

恐らく両親に、僕が捕らわれていると連絡が行くのだろう。
突出したほど裕福ではない我が家に、あまり金銭的余裕はない。

彼らが幾ら両親に要求するかによって僕の身の安全は大きく変わるだろう。
そしてそれは、笹山にも言えることだ。
なんとかして二人、ここから逃げ出さなければ……。

僕は足りない頭を必至で巡らせた。
しかし、やはり恐怖の為かなかなか頭が働かない。

心臓の音がやけに耳に響く。



そうしている内に、車はどこかで荒々しく止まった。


「ほら、早くしろ!餓鬼どもをしっかり捕まえておけよ!」


バンの扉が開かれ、僕は引きずられるようにして車から降りた。

目隠しをされているため分からないが、恐らく辺りに人気の無い場所なのだろう。


耳元で

「こっちだ!ついて来い!」

と怒鳴られ、その度に恐怖が体を支配する。

暫くして、靴から伝わる地面の感触が固いものへと変わった。
どこか建物の中に入ったようだ。

声の反響の仕方からしてどこか広い場所のようだが、全く分からない。
どこかの体育館か何かだろうか。

わりと近くで笹山の抵抗するようなくぐもった声が耳に飛び込んでくる。
しかし笹山も口に何か詰め物をされているらしく、うーだとかあーだとかといった喃語のようなものしか聞こえてこない。

もしかしたら僕の事を探してくれているのかもしれない。
だが、ここで迂闊に暴れたり自己主張まがいの事をして二人して手酷く痛めつけられるのも困る。

そう考えて僕は口を閉ざし、大人しく男の指示する言葉に従った。



男たちの会話は隠語めいたものが多く、辛うじて聞き取れたとしてもよく分からないものが多かった。

ヌシだかアシだかとよくわからない言葉が飛び交う中で、自分が何故こんな場所に連れてこられたのかと僕は得体のしれない恐怖に押しつぶされそうだった。
この荒々しい男たちに何故僕たちがこんな扱いを受けなければならないのか。
恐怖と不安で、僕は心臓がこれ以上ない程に早鐘を打つ音を聞いた。




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あきゅろす。
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