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失格者
16











そして、あれから五年。


今日は私の愛した人の、判決が下される日だ。
なかなか進まない裁判の様子を、やはり私はどこか他人事のように見ていた。

最高裁まであがってきたこの件の結果はもう見えているようなものだ。
先に罰を下された仲間の男が、死刑を宣告された。
恐らく、彼にもその罰が下されるのだろう。

この五年。

社会復帰する事も出来ず、私はただ死んだように生きてきた。
笹山の姿を思い出しては涙を流し。
トウジの熱を思い出しては虚しく自慰をして。
人間としての文化的な生活というものを一切放棄してきた。

それも、恐らく今日までだろう。


私は静かに裁判所へと歩を進める。

関係者として聴講席にひっそりと座り、トウジをじっと見詰め続ける。
暗い淀みを映し出している様な漆黒の、彼の瞳を。
そんな私に気がついたのだろう、彼は私を見て困ったように微笑んだ。


そして、ようやく私は確信した。


やはりあの時警察に撮影場所を漏らしたのは、トウジだったのだ、と。

私を生かす為に、あの様な事を。

二人であそこから抜け出し、闇から逃げ続ける道もあっただろう。
しかし、彼は私を表の世界へと戻した。
そして彼は裏の世界にその身を浸した。

そうすることで、私を守ったのだ。
きっと、そうなのだろう。


私は、彼の声に耳を傾け、心に深く刻み込んだ。
彼の姿を、脳裏に焼き付けた。

そしてこのあまりにも悲しい結末を恨んだ。




「これを以て、被告人を……死刑とする」

裁判長の、厳かな声が響き渡る。



命は一つしかない。
しかし、平等ではない。


私は彼の言葉を思い出し、零れ落ちる涙を掌で何度もぬぐった。




END

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あきゅろす。
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