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失格者
13


肌寒さに目を覚ますと、トウジがキッチンで煙草を吸っていた。
あの性行為の後、どうやら気絶してしまったらしい。

肩に掛けられていたワイシャツに腕を通し、違和感の残る下半身を持ち上げ下着とズボンを穿いた。
痛みはあまり無いが、まだトウジが中に居るような妙な感じがする。

「トウジ、」

声をかけると、煙草を銜えたままこちらにやってきた。

「大丈夫か、」
「うん」
「そうか……」

そう言って、僕の髪をサラリを撫でた。
安堵したような表情を見せた後、一瞬彼は苦しそうな顔をした。

どうしたのだろう。

「トウジ、何かあった……?」
「……何故、」
「……辛そうな顔をしている」

はっとしたように彼は目を見開き、それから大きく息を吐いた。
煙草の灰が、薄汚れたフローリングの床を汚す。

「はあ……、悠、あのな」
「うん」
「お前の撮影日が決まったんだよ」

お前の撮影日が決まった……。

それは。
それはつまり。


僕の死ぬ日が決まったということか。


僕は何の反応も出来ずに、トウジの言葉を脳内で何度も咀嚼した。

僕の死が。
他者によって決定された。
冗談のようだが本当の事。
そして、僕もそれを望んでいた。
いた?
今も望んでいるのではないのか?

笹山を見捨てられずに、僕はここへ留まった。
いや、どうせ逃げられなかったのかもしれない。
とにかく、僕は抵抗をやめると決めたのだ。
愚かな判断ともいえるべき事を僕は自分に下した。

下したのだ。

それなのに。

僕は心のどこかで生きていたいと望むようになってしまった。

彼と……トウジとの短い生活の中で、僕の中にはある感情が芽生えてしまったのだ。
それを知ってしまった今、僕は死ぬ事に恐れを抱くようになってしまった。

どうしよう。
どうしよう。
どうしたらいいのだろう。

しかし、どうしようもないのだろう。

僕は目の前が急激に歪むのを感じた。

「悠……泣くな」
「と、うじ……」

トウジと離れたくない。
そう強く思ってしまった今、しかしもう後戻りはできない。
なんと皮肉な運命なのか。

殺す側と殺される側。
悪夢のような、現実。

現実から目を覚ます方法は……無いのだろうか。







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あきゅろす。
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