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失格者
01



みなさんは、スナッフビデオというものをご存じですか。




スナッフビデオ

別名、殺人ビデオ





人に致命傷に至る程の危害を加える事で快楽を得る者達を、快楽殺人者と言います。
人が傷つけられていくのを見ることで性的興奮を得る者達を異常性欲者と言います。


快楽殺人者と異常性欲者の需要と供給のバランスが一致することによって出回るこの世にあってはならないもの。
それが、スナッフビデオです。

過去、私はそのスナッフビデオに関わっていました。
私は、というと語弊があるかも知れません。

正確には私の愛した人がその劣悪なものに関わっていました。

そして私はこの最悪の娯楽用品のせいで大切なものを幾つも喪いました。



今から私が話す内容は、決して表に出回らないようなものです。

みなさんにはとてもではありませんが信じがたいことでしょう。
信じる信じないはみなさんがご決断して下さい。


そして、このあまりにも酷い話は、みなさんの心の中にだけ静かに留めておいて下さい。















『失格者』














ここからは、当時を思い出して一人称を私から僕に戻します。
より鮮明に、彼と過ごした日々の事を思い出せるように……。





僕はあの頃、学生だった。

まだ夏の暑さの残る九月。
詰襟で覆われた頚部をじめじめとした湿気が襲い、僕は思わず首元に手を掛けた。
大変規律の厳しい僕の高校では、殆どの学生が4センチもある詰襟をぴったりと纏わりつかせ当り前のように過ごしてる。

僕はもともと東北の出身で雪に埋もれた暮らしには慣れているものの、熱さの厳しいこの海沿いの暮らしには未だ体がついていかない。


辺りに誰も居ないことをゆっくり確認して、僕は詰襟をそっと寛げた。

固いカラーが左右にゆっくりと広がり、風が首元に流れ込んでくる。
その感覚に、思わず溜息をつく。


「おい、どうした。そこの不良」


不意に聞こえてきた声に思わず身を固くすると、その声は再び言った。

「わりい、驚かすつもりは無かったんだがな」

声の主を探そうと首をぐるりと動かして見るが誰の姿も見えない。

周りにあるものといえば、鬱蒼と生い茂るように群生している草木ばかりで、僕は思い切り訝しんだ。
まさか幽霊か、そう思い眉を顰めると、

「ははっ、上だよ上」

と言った陽気な声が降ってきた。

言われた通り見上げると、なるほど木の上に誰かがいる。

からかわれたのかとそちらに睨みを利かせると、


「おおっと、」

とおどけたような声がした。

ガササッと大きな音を立てて木から飛び降りてきたのは、僕より幾つか年上の青年。
その左手には煙草を持っており、少し短めに切られた髪がその精悍な顔つきによく似合っていた。

学生服ではなくスーツなのでここの教員かもしれない。
しかしこの高校に入学してもう一年半経つが、こんな人物は見たことが無い。


「悪いな、あんまりお前が可愛らしかったんでつい声をかけちまった」


その言葉に僕は顔が赤くなるのを感じた。
僕が気にしていることをズバッと言ってくるこの青年に、思わず言葉を返した。

「可愛いって……!僕は男です、そんな事を突然男相手に言うなんて失礼じゃありませんか!」
「そうかあ?つい可愛い子を見かけるとそう言っちまうもんだからなあ、悪かったよ」


全く謝っていないその姿に僕は少しムッとしたが、飄々としたこの人物に何か言っても無駄な気がした。

僕はその人物に背を向けると、外したホックを掛け直し詰襟を整えた。

「おい、もう帰っちまうのかよ」

そんな声が飛んできたが、僕は構いもせず歩きだした。
彼の初対面の癖に馴れ馴れしいその態度に、どう対応していいのか分からなかったのかもしれない。

僕はさっさと教室へ向けてその男から離れた。



これが、彼との出会い。

この小さな出会いが、僕の人生を大きく歪ませた。

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あきゅろす。
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