大学生な山本と沢田 猫を撫でる 「…ツナ?」 半信半疑で呟くと、しゃがんだまま人影は振り向いた 「…山本だ」 ふにゃりと笑う 「何してんの」 「んー」 人気のない公園には買い物帰りらしい綱吉と側で光る何対かの目。にゃぁ。一匹が微かに鳴く。街灯がぽつんと立っているだけのその場所で、綱吉の表情は闇に沈んで見えなかった。スニーカーの足下には買ったばかりであろう缶詰が開けられている 「いいのか?」 「んー…」 貴重な食糧が無くなっていくのをぼんやりと眺めている。シャツの背中が複雑な陰影になっていた。手が、一匹の痩せた背を撫でる。空になった容器を未練がましく舐めているのが2匹。ごろごろと機嫌よく喉を鳴らすのが1匹。俺が撫でようとするとするり逃げられる。くそ、と悪態を吐くと綱吉は小さく笑った 「…そろそろ行こうかな」 ゆっくりと立ち上がり、綱吉が言う。猫は街路樹に消えていった。立ち眩みだ、と呟き、目頭を押さえる。細い顎だな、と思った 「ツナ」 思わず呼ぶと、沈んだ色の茶色がこちらを向いた。するりと逃げる。猫のように。言葉が。少なくとも伝えるべきものはあった気がした 「…送る」 不自然な沈黙の後、無意味な言葉を音にすると、綱吉は笑って首を振った。どちらかといえば苦笑、嘲笑に近いニュアンスを持っていた気がする 「いい。同居人が余計な心配するから」 「柔道部だっけ」 「今はラグビー部の人」 どちらにしろ、不可能だ。20キロの差があるなら、勝てる見込みはまず無い、と格闘好きの友人が言っていたのを思い出しながら 「ツナは迷惑?」 「…うん」 今度ははっきりと苦笑の色を帯びる。山本、と呼ぶとスーパーの袋から何かを取りだし、こちらに放った。冷たい。缶ビールだった 「あげる」 「いいのか?」 うん、と頷いた。ばいばい、と手を振った。学校で、と返す。笑ったような気がしたが、暗くて見えなかった。手の中をすり抜けていった猫の感触を思い出す。多分。何か、するりと逃げていった。 捕らえそこなったものを沢田綱吉という。 了 (2007.09.10.) [戻る] |