[通常モード] [URL送信]
沖田組


助けてくださいなんですかこの状況は
江戸時代出身のイケメン刀二人に完全にサンドされて動けない状況
こんな姿を意外にに純情な兼さんにでもみられようものならきっと彼は鼻血を噴きながら倒れてそれに駆け寄ってきた堀川に『兼さんに不純異性交遊なんかみせないでください!!』って怒られるんだろうなあ…

「主、ほかの男のこと考えてたでしょ」

「あの、加州?」

「んー?」

悪意があるのかないのか人の腰に腕を巻きつけて逃げることができないように確実に拘束しながらもふもふと人の胸に顔を埋めて楽しんでいる目の前の赤目の青年に、いいかげんにしろの意図を込めて声をかけてみたものの生返事で見事にスルーされてしまった

見てろよ、次に出陣する時お前刀装なしにしてやるからな!

そんな加州に気を取られている間に、さりげなくお腹に触れるもうひと組の手にぴしりと反射的に動きが止まってしまう

「***、太ったんじゃないのか」

柔らかい、と背後で女子に対して失礼なことを呟きながら人の腹部に腕をまわして拘束した挙句、脇腹を撫で回している重宝んにんである安定をどつきまわしてやりたい衝動にかられるものの
彼の胸板に私が背を預ける体勢で背もたれにしている以上、下手にどついてしまえば加州の体重を私一人で受け止めきれず倒れてしまうことになるのが目に見えているし

悔しいけど今は我慢我慢…!!

「ちょっと。人の脇腹触りながrぎゃあああああごめんなさい首落とさないでください!!」

せめてもと反論を仕掛けた瞬間にちぅと項に這う濡れた感触と音、近すぎる声に何をされたのかを悟って暴れてみたもののこの体勢では全くの無意味で
未だに首元をするすると触れるか触れないかでなぞるようにして柔らかな感触が滑るのを、青年二人に挟まれたこの状況では受け入れるしか出来なかった

「バーカ、落とすわけないって」

無理に首をひねって振り向けば、楽しげにくすくすと笑う彼の碧眼が細くなって、彼の相棒程感情表現の豊かではない彼の緩やかな笑みが咲く
戦場での狂気を混じえたものとは異なる笑顔の珍しさに思わず呆けて彼の笑顔を見つめていれば機嫌の悪そうな声が正面からとんできて

「主!」

やばい、加州がまた構ってもらえないって拗ねる

その焦りに急かされて振り向きかけた途端、胸に走る鈍い痛みに潰れた蛙のような悲鳴をあげてしまう

「か、しゅうううう!?」

「なんで安定ばっか構ってるの。…腹立つな」

突然のショックで体が動かない、そもそも安定に後ろから抱きすくめられているから物理的な要因で動けないのは勿論のことだけど、思考まで凍りついてしまった
膝を立てた状態で開いてしまっている私の足の間に陣取った
頬に空気を溜め込んでハムスターのようにふくれっ面してみせる加州の両の掌はがっちりと、服の上から私の胸を鷲掴んでいて

「そんなこと、無」

「嘘つくなよ」

まだ成人していない男性の姿だとしても、青年の握力で思い切り握られてしまえばそれなりの痛みを伴うわけで
電流のようにびりびりと脳に伝えられる痛みを、色々つっこみたいことを脳内で羅列して必死でやり過ごす

加州、小首傾げて可愛らしく唇尖らせてぶりっ子してみせても、あんたが今触ってるの私の胸だからいくらかわいこぶっても意味ないからね!?
いくらなんでも女性にこの仕打ちはないよね!?

そう言い返してやろうとした途端に彼の爪先の赤いネイルが沈むほどに再び遠慮なしに強く握られて、引き攣った悲鳴があがってしまう

「ひっ、」

背後からのばされた手の青い袖が翻って、そんな加州の手をぴしゃりと叩いたのは安定
それに

「ほんと、余裕ないね清光。ブスになってる」

「…そっちこそ!俺だけが主に愛してもらえるのがそんなに気に食わないのかよ?」

紅もつけていないのに赤みを帯びた加州の唇がにたりと挑発的に吊り上がるのを眼前に見て、嫌な予感に背筋が寒くなる
加州は女子力の塊のように見えるけれど本当は安定と同じくらいには好戦的で
そんな彼が戦闘前に密やかにみせる凶暴さの片鱗さえ覗わせる、獣めいた笑みはきっと彼の相棒である安定と私くらいしか知らない

やば、これ喧嘩巻き込まれるパターンだ

「…は?」

耳元では正面にいる赤いのよりも更に機嫌の悪そうに不穏な雰囲気を隠しもせず垂れながしている安定の声音は、心なしか戦闘時のような危うさを放っている
背後から抱きしめられているせいで表情は伺えないけど、彼がキレる寸前くらいには険しい表情をしていることは 悲しいかな、想像には難くなくて
加州もそれを察したのか、更に楽しげに紅玉の瞳を弓なりに細くした

「***、こっち向いて?」

「あ、うん。ちょっと、まとうか加州!?」

「えー?いいじゃん」

少女漫画によくありそうなシチュエーションで、顎を掴まれたまま上向かされてすぐ目の前にはかっこかわいい眉目秀麗イケメンが機嫌悪そうにジト目で視線をよこしていらっしゃってるけど生憎このまま加州のいいなりになって唇を奪われてしまうほど、夢見る乙女な年頃ではない
けれど下手に拒絶しようものなら『主は俺のこと愛してないの!?』と捨てられた女の子みたいに痛々しい泣き顔で縋り付いてくるのは目に見えていた
と、なれば対処法はこれしかない

口元の黒子が艶っぽく彩られた加州の唇に指先を添えて、夕日を切り取ったような色の彼の瞳を覗き込む
ぴくりと体を強ばらせて戸惑ったように、上目遣いでこっちを伺ってくる彼が小動物っぽく見えてしまう

「あー…だって、初めての唇のキスって特別なものだから、加州は私なんかにそれを使わないでもっと、ちゃんと好きな人が出来た時にしてあげよう?」

我ながらくさいセリフだと思ったけれど、加州の唇に指を添えて子供に言い聞かせる時を意識してゆっくりと伝えれば、ぽっと彼の頬が紅を垂らしたように赤く染まって、さっきまでの眉間にしわを寄せていた機嫌の悪さはどこへやら、かなり機嫌を直してくれたみたい
感極まったように瞳をうるませる青年に手をがっしりと固く握られてしまった

「主…!!」

そんな加州の手を握り締めかえしていたら、後ろから妙に落ち着いた安定の声に呼ばれて振り向くのと同時にふわ、と空気の動く気配

「***」

「な、に…っ!?」

大雑把に括った安定のポニーテールが目の端で緩やかな調子で靡いた
花びらが舞い落ちたように唇に一瞬だけ触れる感触に、世界が止まる
襖を揺らす風もすぐそばで文句を言っていたはずの加州の声も全てが聞こえなくなってしまう
少女を思わせる可愛らしい貌の半ば開かれた瞼からそろりと覗いた濃い浅葱色は、至近距離で視線が絡むなり睫毛の下に伏せられて

「僕の特別は、あんたにあげるよ」

目元を赤く染めて視線を落とした安定の囁くほどの小さな掠れ声は、照れを含んでいても鈍らぬ鋭さを滲ませた男の子のもの



2015.03.01




第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!