cicada
ジジジジ…ジジジッ
あぁ、まただ。
固いコンクリートの地面にバタバタと叩き付けられる羽音。
夏ももう終わりのこの時期は、毎年必ず見掛ける…
短い命の終わり。
空を自由に飛び交う力を失い、地面を這いつくばる事しかできなくなった蝉達は尚も、死ぬ間際まで鳴き続ける。
そう、なのだ。
蝉達は皆生きる事に必死で。
たった一週間という短い命であるというのに、その時間をひたすらに力強く鳴き声を上げる事に費やす。
いや…生きていられる期間が決まっているからこそ、全力になれるのだろう…きっと。
それは私には分かる事ができないもの。
限りある命と知りながら、生にしがみつく理由とは…一体何なのだろう。
もしも自分がヴァンパイアではなくて例えばそう、人間だったとしたら…そんな発想にはよく辿り着くものだけれど。
実際、それは推測でありただの想像に過ぎない。
本当の気持ちはそれら自身にしか分からないのだからな。
「えーいっ」
ペシッ
「…った!」
突如、デコピンをされた。
軽くだったけど…
そんな子供染みた事を仕掛けてくるのは
「スマイル…!」
「そんな難しい顔しちゃってー、どーしたの?」
「…」
さて、私はそんなに難しい顔をしていたのだろうか。
「ウン、してたヨ」
「!?なんで、」
こいつ、読心術が使えたのだろうか?
…まぁぶっちゃけ有り得なくも無いが。
「や、なんでって…だってユーリって案外すぐ顔に出るんだもの」
「そう、か…?」
はっきり言ってポーカーフェイスには自信がある。
というか、むしろ自分は無表情な方だと思っていたのに…
「分かるよ。だって、何年一緒に居ると思ってるのサ〜!」
余らせているコートの袖を大きく振りながらそう言うスマの様子がおかしくて、何だかさっきまでの張り詰めていた気持ちが吹っ飛んでしまった。
「…ふふっ」
思わず、笑ってしまった私に対しスマイルは少しふくれっ面。
「それにユーリったら僕を放置しといて蝉なんかにばっかり気を取られてるんだもん」
くすん、と泣き真似をしてみせるスマイルに私は少しばかり驚いて目を丸くしてしまう。
まさか、いつも飄々としていて人の事なんてお構いなしで…意外に大人な、こいつがこんなちょっとした事に拗ねるだなんて。
そんなスマイルに対して面倒だとか、そんな感情は全く無かった。
むしろ…
「おまえも、案外子供なのだな…」
「ぇ!ちょっとどーゆう意味〜?!」
なんだか、さっき考えていた事も今なら深く考えなくて済みそうだ。
「そのままの意味だが?」
「ユーリちゃんの馬鹿〜!あんまり冷たくするとどっか行っちゃうんだからっ」
「ならアッシュに今日のカレーは2人分でいいと言っておくが?」
「え〜!!ズルい!それは反則デショ!?」
すっかりいつも通りの会話に戻る私達。
終わりの無いこの人生に時々嫌気が差すけれど、必要としてくれる者が居るなら…
少し、こんな自分でも好きになれるような気がしたのだ。
「そういえば…」
振り返ってさっきの蝉が居た方を見遣る。
と、そこにはもう既に力尽きた…最期の時まで力強く生きていた、それ。
「…お疲れ」
足元に儚く落ちて、もう動かなくなった蝉をそっと拾い上げた私は
その亡骸を大切に大切に、土に埋めた。
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残暑…?なのか…○rz
9月なのにこんなネタ…
命の短か過ぎるたった1匹の蝉にすら情を掛けてしまう、という吸血鬼らしくないユリ様が書きたかったので←
あと、拗ねるスマちゃん。
何故我が家の二人はスマユリスマっぽくなってしまうんだろう(それは文才が無いから
(09'09/03)
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