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形勢逆転





「ユーリちゃぁーーーん!!!」

「…!?」

スタジオ内の廊下をパタパタと走る音と共に、自分を呼ぶ声。

振り返る間もなく、次の瞬間には背中にかかる重み。


「…スマッ…!所構わず抱きつくなといつも言っているだろう!!」

「テヘッ☆ごめーんネv」

この透明人間ときたら、毎度の事だがちっとも反省の色を見せない受け答えをする。

「はぁ…まったくおまえというヤツは…」

暢気なものだ、と溜め息をつく。


「隙あり〜!!」

「へ…?!」

瞬間、頬に触れた温もり。

「〜〜っ?!///」

掠め取るかのようにふわりと、私の頬に触れたスマイルの口唇。


「ヒヒッ、溜め息ばっかついてちゃ幸せ逃げちゃうヨ〜?」

私よりも一回り大きな、骨張った彼の手で熱を持った頬に触れられる。

「なっ!!!このっ…変態ッ!!」

大体、スタジオ内なんて誰が見てるか分からないというのに…!!

私のそんな必死の抗議も虚しく、風に乗って流れる雲のように飄々とした彼は、いつもの態度でひらりと交わす。

「そんなに気にしなくたってヘーキだって〜!僕のフレンドリーなキャラなら多少のスキンシップで怪しまれたりしないヨ☆」

「フレンドリー…」

それ自分で言うか?
自信満々で。

「……いや、しかしだな…っ!!」

流されてはいけない。

ん?………というかそんなにコイツは誰にでもスキンシップ過剰なのだろうか。



「………」


それはちょっと嫌かも、などと思った自分を必死で否定しようとする。

そんな事スマイルの勝手だ、私にはとって害が無い限りどうだって…


「ユーリ?…眉間に皺寄せてるヨっ」

ちょん、とスマの細長い指で額を小突かれる。

「…なんだ」

もしかしなくてもあからさまに不機嫌な声を出してしまっただろう。


「…あぁ、安心して★多少のスキンシップはあっても、抱き締めたりちゅーしたりするのはユーリだけだからvV」


今、なんと……?

………!!


「なっ?!…別に、そんな心配などしておらんわっ…勝手にしろ!!」

よくもそんな恥ずかしい事をズケズケと言えるものだ!!

またなんでこういう時に限って心を読まれてしまうのか…


くるりと、スマイルに背を向けてスタスタ歩き出す。
一枚上手を取られたようで、悔しいから。

「待ってよ、」


少し離れた位置から伸ばされたスマの手に腕を掴まれた。


「いっ…!」

イヤだ、と言おうとして、私はふと思い付いた。
この、常に余裕を見せ付ける憎たらしい恋人を驚かせるであろうささやかな悪戯を。


「…別に怒ってなどいない」

「じゃあ拗ねてる?」



「……」

黙ったまま、石のように立ち尽くす。
いつもなら大概此処で「誰が拗ねるというのだ!」とか「この私に子供扱いか?!」とか言い返す所だが、今日は違う。

「…?」

そんな私の行動はスマからしてもやはり予想外だったのだろう、頭にはてなマークを浮かべたような表情をしている。

それだけでも少しの優越感。

そんな困惑したままのスマの首に腕を絡ませ、引き寄せる。


ちゅ




軽い音を立てて、口唇を重ねた。


「……?!///」

私からスマにキスするだなんて、滅多に無いことだから。

数秒程何が起きたのか分からない、といった風に唖然としているスマだったが、次の瞬間その蒼い頬を微かに紅潮させたのを見逃さなかった。

「ゆ、…ユーリッ?!!//」


「フフッ…随分と照れているようだが?」

「だって……ユーリからしてくれる事なんてほとんど無いんだもんっ」

不意討ちはズルいヨ…と、私の肩に頭をくっつけて呟くスマイル。

今回は私の勝ち…だな?なんて、私も少し幼稚だろうか。


クスッと笑みを漏らして、
「…私は、格好良いおまえも可愛いおまえも嫌いではない」

それが、私に言える精いっぱいの言葉。

…それ以上の言葉など恥ずかしくて死んでしまいそうだから。

弾かれたように顔を上げたスマは驚いた、といった具合に目を見開く。

でも、その視線は徐々に春の日差しのような柔らかで穏やかなものに変わる。


「君はホント、少しも変わらないねユーリ…」


それは懐かしむような、愛しむかのような優しい声色。

背に回された腕に力が入り、ゆっくりと、どちらかともなく顔を近付けた……














「あのさ、お取り込み中の所悪いんだけどよ…とりあえず場所変えてくれねぇ?」

その声に跳び跳ねる程驚き、見ればそこには。

「「え、MZD……ッ」」


「一応スタジオだしなぁ…ココ」


苦笑気味のMZD。

よりによってコイツに見られるとは…ッ!!!!

バンッ


羞恥のあまりスマイルを思いっきり突き飛ばした。

…つもりだったが、意外にも力が入らなくて、スマの腕から抜け出すだけでいっぱいだった私は、その場から逃げるように走り去った。

「ちょっ!ユーリっ?!」



数メートル後ろからのスマの声がまるでBGMに。

夏にはまだ遠い筈なのに、普段は冷たい私の体温までひどく熱を持っているような気がした。










**************

珍しくスマよかちょっと優勢な(?)ユーリさん…なのか?←

ちなみにユーリさんはやはりヴァンパイアなので元々は怪力、でした。が!
200年の眠りに就く前のある出来事によって『公式のような』非力になります←

え、公式ユーリさん非力ですよね?
ドッジボールでノックアウトされる位だし^^^


(09'6/20)

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あきゅろす。
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