消失と約束
「約束、守れなくてゴメン…ユーリ……」
そう、“あの日”の約束…ちゃんと、覚えているのに。
「………ッ………!」
悲しさと、無力さと、悔しさと。
………寂しさと。
それらが入り混じった感情に、訳が分からなくなる。
自嘲気味に笑い、彼は嘆くのだ。
「あ〜ぁ…僕って、最低だなあ…。本当は僕が死ぬ時には、君も一緒に連れていくつもりだった」
「スマ…」
「僕が死んだ後の世界で、他の奴にもしも取られるくらいなら。永遠の時を持つ君とずっと居る為には………。そう考えた僕は、君の命を奪うしか方法が無いだなんて死ぬ間際に思ったよ」
泣きそうな顔をして「なんて、独占欲剥き出しで残酷なんだろうネ」と。
そんな、弱気なスマには説得力なんて無くて…
「でもサ、馬鹿だよネ…いざ、君の顔を見てたら結局…手を掛けるなんてできなかったヨ…」
彼が、透明に…どんどん霞んで見えなくなるのに……溢れ出る涙のせいでもっと、遠ざかってしまう。
「私を置いて行くなッ!…私も連れていくのだろう?!おまえだけ勝手に…私が…ッ許すとでも…っ………」
薄れてゆく、彼の姿に必死に呼び掛けても、それを止める事はできなくて……
「ユーリ、聞いて…」
色が徐々に徐々に薄れてゆき、消えゆくスマの身体。
普段の彼からは微塵も感じさせなかったのに……彼の存在とはこんなにも儚く、朧げなものだったのだろうか。
「最期になるケド…僕のコト忘れないでくれるかい?」
「最期などと、言うな……」
まるでもう二度と会えないみたいではないか……
その言葉は声にならなかった。
「今は最期…かもしれない、でも!言ったデショ?僕はいつだって…例え死んだって君の傍を離れないってサ」
透明になってしまった手で、私の髪に触れる。
「見えなくなるだけで、僕はずっと傍に居るよ」
そう言って笑ったスマの顔はいつものふざけた感じでもなく、無理に作った笑顔でもなく、穏やかで。
優しくて温かな、包み隠さない、私にだけ向ける笑み。
その顔を見るたびに幸せに満たされる筈なのに、今は何処か哀しくなってしまう。
「嘘は、嫌いだ…」
精一杯、涙を堪えて。
「死んでも傍に居るなんて、出来ない話だ。馬鹿者…」
「何言ってんの!僕はいつだって本気だヨ」
無理な話なのに……
「ならば…生まれ変わって戻って来ると約束しろ。」
スマには、どんな我儘だって聞いてもらえるような気がした。
…まったく、馬鹿はどっちだ。
「輪廻転生って奴かい?…前に、ユーリに“貴様は殺しても生き返りそうだ”なんて言われたコトもあったネ」
「あぁ、しぶといおまえならな。……必ず戻ると、」
「…分かった。約束、するヨ」
あぁ、同じだ。
あの時と、同じその言葉。
「何百年掛かっても迎えに行くから、ちゃんと待ってて?」
「ふん…保証はできないな」
「僕が遅いからって、他の奴のとこなんかに行ったら怒るからネ?」
「それも…分からんな」
「もー、ユーリの天の邪鬼!」
頬を膨らませて、拗ねたような仕草。
そんなスマイルも、どんなスマイルだって私は……
「…おまえのような面倒な奴にまた出会うくらいなら、一人の方がマシだ」
私が心から「 」のは、
「あまりにも問題児過ぎて…………おまえの事なんか、忘れられそうにないからな」
目の前の、彼………
「あんまり、待たせるなよ…………」
本当の馬鹿は私だ。
こんな時にならなければ、自分の気持ちを認められないなんて、な………
彼は泣いていたのに、綺麗に笑っていた。
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