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堪える涙



それ程の時を、私達は共にしてきた。
思い返せば、きっと今では思い出せないような些細な事もあるし、決して忘れられない大事なことも。
それら全て、共有してきたのだ。


長年生きている勘とやらもあるのだろうけど、彼が私の事を分かってしまうのは想っていてくれるから……

そして、私は彼の事を“見ている”のだから。


だから、伝わっている。大丈夫なんて。

そう、自分に言い聞かせるのは未だに嫌な予感と、スマのたった一瞬のあの表情が脳裏を掠め、どこか憂欝なこの気持ちを拭い去れずにいるから。




「………ユーリ?」

ふいに、目の前に現れる彼の紅い瞳。

私の色とよく似た深みのある紅………

「なんだか、急に黙り込んで…どうしたの?」

「いや、どうもしないが?」

あぁ、上手く誤魔化せた自信は無い。

その証拠に、彼の眉間に少し皺が寄った。



「嘘ばっかり。何かある時ユーリはいつもそう言うけど、僕には分かるよ」


「本当に、なんでも無いから…」

俯いて、そう言えばスマは私の髪をいつものように優しく、梳いた。

「そう…?別に、無理にとは言わないから。でも、どうしても辛くなった時には、話して?一人で抱え込んだりしないでヨ…」

「…それを言うなら、おまえだってッ…!!」

思わず、声を荒げてそう言ってしまったのは。

私の頭を撫でてくれる温かい筈の彼の手が、いつもよりも少し、冷えていたような気がしたから………


「ねぇ、ユーリ。この部屋少し…寒いんじゃないかい?」

「え…?」

「こんな寒さじゃ、寒がりのユーリは風邪引いちゃうヨ…?」


スマの顔色は、いつもと変わらず蒼かったけれど、いつもと違う蒼さだった……気がした。



「寒い」と。

確かに今、スマイルはそう言った。

でも、部屋の室温は至って適温……どちらかと言えば寒いのをあまり好んでいない私でも、寒さを感じない程の、温度。

寒くはないのに、得体の知れぬ恐怖に思わず身震いした。

「…風邪を引いたのではないか?……それとも、雨に濡れたせいで冷えてしまったのか?」


2つの内の、どちらかならまだ…いい。


嫌な汗が伝った。

そういうありきたりの、冷たさじゃない、でも…そんな筈無い、だって彼は今現に此処に……しかし…

「んー、風邪じゃないと思うし、走ってきたから冷えたっていってもそうでも無いと思うんだケド…」


「そう、か……それにしても、一体何処まで行っていた?」


パニックになりそうだった私が、変えたその話題は、逆効果だった。


「んー?だから、買い物行ってて、それで…あれ?そういえばなんか僕忘れてる気がする……なんだろう?」

反射的に、いけないと思った。
ぞわりと、駆け抜けた悪寒が全身に及ぶ。

いけない、スマが忘れているその何かが一体何なのか確信は無いけれど…それを思い出させては絶対に駄目だと、脳が危険信号を送っていた。



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