束の間の休息
そんな、何か嫌な予感を感じてからどうやら数十分が経ち。
いや、まだ数十分しか過ぎていないのは意外だな。
待っている時間というのは、どうしてこうも長くかんじてしまうのだろうか。
永遠を生きる私にとっての数十分など、大袈裟でなくミジンコ程度だというのに。
どうしてそんなほんの少しの時を、こんなに長いと感じてしまうのだろうか。
と、その瞬間―――――…気配。
あぁ、やっと帰ってきたのか…―――――――
バタバタと走る音が聞こえ、
ガチャッ
「もーう!今日雨降るなんて最悪〜!!」
予想通り、雨にずぶ濡れ状態のスマに向かって用意しておいたバスタオルを投げ渡す。
「うわっ…と!ありがと、ユーリ」
「とゆうか、玄関先で拭くべきであろう。床が濡れてしまうではないか」
いつもは重力をやや無視しているかのような絶妙なスタイリングをされている髪も、今はぐったりと濡れてストレート。
その髪を掻き上げ、彼は言う。
「え〜、土砂降りの中苦労して帰ってきた恋人に対して冷たくナイ?」
「傘を持っていかずに出掛けたおまえが悪い」
「まさか今日雨降るだなんて思わなかったもの。予報でも言ってなかったし〜!」
「あぁ、天気などそんなものだろう」
コートを脱いでハンガーに掛けるスマの、後ろ姿に返事を返す。
まぁ、無事に帰ってきたことだし、よしとしよう。
それにしても…
「傘を持っていなかったなら、雨宿りしていればよかっただろうに」
何をそんなに急いでくる必要があるのだ。
風邪を引いてしまうではないか…
「ん〜?だって、ユーリに早く会いたかったんだもん☆」
「なっ…」
予想外の台詞に、反応が鈍る。
「だからネ、急いで走って帰ってきたんだヨ☆」
そうやってまた、私にだけ見せる笑顔。
みんなの前で見せるそれとは少し違うその顔。
私だけが知る、スマの笑顔。
少しだけ、それに優越感を感じる私はかなり重症なのではなかろうか…?
そんな表情をされては、やはりもう勝ち目は無い。
そんな心情を隠すかのように
「勝手に言っていろっ」
素っ気無くそう返したら、スマイルは
「ヒヒッ。大丈夫、ちゃんと分かってるヨ。ユーリだって、僕に早く帰ってきてほしかったんデショ?」
「…っ……!」
瞳を、覗き込んで問うてくるスマ。
でも今はその瞳に、少し戸惑ってしまう。
いつもセットされている青く少し硬い髪が水に濡れ、その蒼い肌にしっとりと張り付いている事や、いつも身に纏っている包帯は乾かす為に外していること。
それもいつもとは違うスマを見ているようでドギマギとしたが、何よりもその……紅い、隻眼に哀しげな色が隠れていたことが、最も私の心に引っ掛かって止まなかった。
「…スマ?」
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