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置き去りの刻





……此処は、何処なんだろう………



「……ッ、」

何故だか声が出なかった。

僕は自分の置かれてる状況が瞬時に理解できなくて少し、考える。

そしてすぐにはっと思い出す。
あぁ、僕は死んでしまったのだ。


それじゃあ、今僕が居るところは冥界かなんかだろうか。

周りを見渡す限り何も無い。
真っ暗のような、でも真っ白のような…

とにかく何も無い空間に僕は浮かんでいるようだった。
実際浮いているかどうかはこの何も存在しない、上も下も右左も分からない空間では定かではなかったけど。

漠然とした浮遊感から僕は自分が浮かんでいるように感じたのだ。

それはきっと、オバケはみんな浮かんでいるものだという単なるイメージが生み出すものに過ぎないのかもしれない。


では、天国とか地獄は本当にあるものなんだろうか。

少なくとも今僕が居るこの空間はそのどちらでも無さそうだけれど…

言うなれば無の空間。
なぁんにも無い。

自分以外、他の存在は何も無い。
すべてに色が無くて透明。
透明人間である僕に相応しい末路なのかもしれない。

そもそも自分の姿でさえも此処にちゃんと“存在している”のか、姿を映す鏡が無いのだから知る由も無い。


ありとあらゆる生命の終わりって、みんなこうなのかな…

全てを無に帰す、そういうものだと思っていた死の概念とは少し違っていた。
これならまだ地獄の方がマシかもしれない…

何も無いこの空間で僕はどうなってしまうのだろう。

まさかこのまま永遠に此処で過ごす羽目になるなんて無いよね…

永遠。

たった今目が覚めたばかりで上手く思考が働いていなかったけれど、ふと思った。


一体僕はどれだけの時間此処で過ごしてしまったのだろう。

どうやってこの空間に来たのかすら分からない。
だって最後に居たのはユーリの目の前で…そうして僕は現世から消え去ったのだ。

気が付いたらこうなってたんだもの。
訳が分からないよ…


声も発せられない、音も光も闇も無い。
五感を働かせる事も全くの無意味。

ふと、自分の今の姿を確認すべく、右手を顔があるであろう位置まで持ってこようとする。
が、その時に気付いてしまった。

自分の身体が透明のまま、戻らなくなってしまっていることに…

視界には何も入っていない。
でも実際はこの右手には自分の顔を触った感触がある。


何とも言えない感覚。
だって確かに僕は此処に居る筈だし、こうして今意思がある訳で。

だから透明人間の力を使っているわけでもないのに、姿だけが見えないこの状態は一体どうなっているのか、自分にも理解が出来なかった。

僕は実体を失って、意識体だけになってしまったということなのだろうか?
透明人間は死んでしまうとみんな、こうなってしまうのだろうか。


僕はこのまま、ただこの空間に漂っている事しかできないのかな…
それはそれで、苦痛だなぁ、どうせなら意識も何もかも、無に還ってくれればよかったのに。

こんな場所にいつまでも留まっているだなんて拷問だよ。


もう何も、考えたくないんだ……












『嘘は、嫌いだ…』








ふと、頭の中で響いた気がした。
消え入りそうな程に弱った、君の声が……

(ユー…リ…?)

ははっ、幾らなんでも聞こえるわけ無いよねぇ…

じゃあ今のは?
僕の記憶の残像だろうか。




『生まれ変わって戻って来ると約束しろ。』




(…どうして、)

無意味な事、不可能な事は好きじゃない君がそんな事を言うだなんて…うぅん、違う。


君は信じてくれているんだ…きっと今も。
どれだけ時間が掛かろうと僕が必ず君の元へと戻るということを。

僕がこの何もない空間にどれだけの期間居たのか分からないけれど、今も君は昔のままなのだろうか。

僕が知っていた頃のユーリなのかなぁ。

アッシュは人狼だから僕らと比べたら寿命も短い方だけど…また、会えるのかな。
会えるとイイな…


みんな元気なのかなぁ。


さっきまで何もかもどうでもよくなった、消えたい等と思っていた自分が嘘のように現世が恋しくなる。

僕が確かに生きていた、存在していたあの世界を…



(出してよ、ねぇ僕を此処から出して…)

外の世界が見たい。
色を失ってしまった自分の姿を取り戻したい。


そう、僕はこんな所に留まるべきじゃないんだ。
忘れること…諦めること、それはつまり自分自身を否定し見失ってしまうこと。


違うよ、僕は望んでなんかいない…本当はきっと生きたかったんだ。
世界をまだまだ見ていたかったんだよ。

ユーリと、アッシュと…Deuilを続けていたかったの。
これが僕の本心。


それに………









本当は僕は、“殺されてはいなかった”んじゃないだろうか。


何の根拠も無いのに、その疑惑が表す意味はなんだろう。

その疑惑に辿り着いた瞬間全身に…透明になっていた自分自身に色が、戻った…?


(ラスネール…お前は…)



……ああ、気付いたんだね。ボクの仕掛けた【嘘】に……





聞こえた声は確かに、記憶でも何でもないラスネールの声だった。













+++++++++++++++++++++++++++

異空間に取り残されたスマ。



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あきゅろす。
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