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目蓋に映す君の…




――――…僕は、ユーリの事ずっと離さないからネ★…これからも一緒だヨ――――――


…できるなら、生きたかった。

君と一緒に、ずっと傍に、

共に…生きていたかったんだ…












身体の震えが止まらないのも、刺すように寒気が走るのもその全ての理由を悟ってしまった僕は…


「これからも、」

その続きを言わせる事が余りにも酷で、哀しすぎるから…
僕はユーリの言葉を遮る。

「ううん、ユーリ…それは、できないヨ」

「…………やっぱり私が、不死だからとでも…?」

あぁ、そんな顔をしないで。
君はもう僕の事なんか忘れなくてはならないのに。

どうにもできない事が起きて、君から離れなくちゃいけないなんて…!!


少し、躊躇しながらゆっくりと言葉を紡ぐ。

「思い出したんだ。こんな事、ずっと思い出さなきゃよかったのに…」


うわ、僕カッコ悪…視界がこんなにも滲んでしまうなんて。

こんなんじゃ、僕の方こそいつまで経ってもきっと君を忘れることなんて出来ない。














「僕、もう死んでいたんだった……」








「…ッ…………!!!」

今にも涙が零れそうな程に雫を溜めた瞳で、見詰めるユーリ。
心が張り裂けそうな程に痛む…


「出来れば、思い出さずに居たかったよ……消えてしまう事なんて」

思い出さなければ、君とずっと一緒にいられた…?
ううん、それはどっちみち不可能な事だけれど。

いつもの様に…

“愛してる”

そう言って君を抱き締めてあげられたらよかったのに。


「ゴメンネ…僕、さっきまで生きてたのに。数時間前まで生きてたのに、帰ってくる頃はもう、寒かったんだ。」

「おまえはッ…!!死んでなどいないっ、消えたりしない!!さっきだって…触れる事ができた、のに………」


あぁ、何故僕は消えなければならないのだろう。
君の隣で笑っていたかった…こんな現実を認めたくなかった。

誰かがこれは嘘だと言ってくれたならどんなにか気が晴れただろう。
きっと計り知れない。

すっと、ユーリの細く、白い手が頬に触れる。
まるで僕が此処に居ることを確かめる様になぞるその手は、いつものように少し冷たい筈なのに。

今は僕の方が冷えてしまっていた。
いつもとは、逆だね……

こんなにも君の手は温かくて優しい。
いつまでもこうしていたいと思ってしまう程に。


1つだけ、我儘を言うなら…本当は僕のこと、忘れないでいてほしい。


無情にも僕達を引き離す“死”という概念から逃れる術を知らないから。

それは、君にだけは無くて僕に有るもの。



まるで、折れてしまいそうな程に華奢なユーリの腕は、僕の身体を擦り抜けた。




「約束、守れなくてゴメン…ユーリ……」

“あの日”に君と交わした約束。
覚えてるよ、忘れるわけなんて無いじゃない。

「………ッ………!」

なのに。
結局僕は約束を破る形になってしまった。


―――…私よりも先に逝かないでくれ。もう、ひとり残されるのは嫌なんだ……―――

遠くを見るように、哀しそうに微笑んだ君の顔が浮かぶ。

僕は自嘲するかのように笑った。
それは哀しく、単に声を引き攣らせただけのようなものだったけれど。

「あ〜ぁ…僕って、最低だなあ…。本当は僕が死ぬ時には、君も一緒に連れていくつもりだった」

「スマ…」

「僕が死んだ後の世界で、他の奴にもしも取られるくらいなら。永遠の時を持つ君とずっと居る為には………。そう考えた僕は、君の命を奪うしか方法が無いだなんて死ぬ間際に思ったよ」

なんて、独占欲剥き出しで残酷なんだろうネ。


わざと酷薄な顔を作ろうとしたのに…どうやら失敗に終わったみたい。
だってこんなにも、目頭が熱いんだもの。

でもさ、本当に僕って

「馬鹿だよネ…いざ、君の顔を見てたら結局…手を掛けるなんてできなかったヨ…」

彼の紅い、ルビーのような綺麗な瞳から大粒の雫がポロリと零れた。

僕が見たかったのは花のように笑う君の、幸せに満ちた顔だったのに…
僕が絶対に君を幸せにするんだと、そう思っていたのに。

それでも、今はどんな表情の君からも目を離すことができなかった。

透明に…どんどん無に近付いていく自分の身体。
霞む世界と、締め付けられるように痛む胸の痛みが現実。


「私を置いて行くなッ!…私も連れていくのだろう?!おまえだけ勝手に…私が…ッ許すとでも…っ………」

必死に呼びかけてくれる愛しいユーリの声。
あぁ、最愛の君の声を、姿を感じながら消えていけるのなら僕の人生もそう悪くはなかった、と。
思ってもイイのかな…でもね、

「ユーリ、聞いて…」

色が徐々に薄くなるのが自分でも分かる。
ヒトは死んだら星になるだなんて。
そんな事本当にあるのかどうかは分からないけれど、僕はそんなの御免だ。

だって、君の事を想うとまだまだこんなに未練だらけで…押し潰されてしまいそうなんだもの。

「最期になるケド…僕のコト忘れないでくれるかい?」

「最期などと、言うな……」


「今は最期…かもしれない、でも!言ったデショ?僕はいつだって…例え死んだって君の傍を離れないってサ」

既に色を失くし透明になってしまった手で、ユーリの眩い銀の髪に触れる。

実際にはもう触れることはできなかったのだけど。

「見えなくなるだけで、僕はずっと傍に居るよ」

いつものような誰にでも向ける笑みとは違う…きっと今なら穏やかな笑みを君だけに。
何も包み隠さずに。

ただ愛しい、愛しい君へ。

哀しみで溢れそうだったけれど、ユーリには最後まで“笑顔だったスマイル”で、居たかったから。


「【嘘】は、嫌いだ…」

君は涙を精一杯堪えながら、でもはっきりと言った。

「死んでも傍に居るなんて、出来ない話だ。馬鹿者…」

「何言ってんの!僕はいつだって本気だヨ」


「ならば…生まれ変わって戻って来ると約束しろ。」

それはまるで否定はさせないといった口調で。

「…分かった。約束、するヨ」

あの時と同じ言葉。
今度は絶対に守ってみせるよ…

最も君なら、一度は許してくれても二度目は無いって言うだろうから、ネ。

「何百年掛かっても迎えに行くから、ちゃんと待ってて?」

保証はできないな、なんてそっぽを向いて言う君のコト、ちゃんと分かってる。
昔は君の真意が掴めなくて、君の素っ気ない態度ひとつにあんなに悩んだり不安になったりしたというのに。


もう、天の邪鬼!

僕はあえてそう言って頬を膨らませて、拗ねた態度をとってみる。

これも本気で拗ねてるんじゃないって、ユーリには分かっているだろうから。

「他の奴に縋る位なら、一人の方がマシだ」と。

涙のせいで消え入りそうな声だったけれど、しっかりと聞こえた君の言葉。


「おまえの事なんか、忘れられそうにないからな」

嗚呼、だから僕は君をどんどん好きになっていってしまうんだ。


「あんまり、待たせるなよ…………」


何十年、何百年一緒に居てももっと好きになってしまうだなんて。

「うん、身体が消えたって、魂だけになったとしても君を愛する気持ちだけは誰にも負けないから」

だから君の我儘なら、なんだって聞いてあげるよ。
涙を拭って、答える。

我儘でプライドが高い癖にひどく優しい、寂しがり屋の君の為なら、ネ……




―――こんなにも死ぬことが怖いだなんて夢にも思わなかった。

それはきっとつまらないと思っていた人生の中で君に出会えたから。

それがきっかけ。

「またね?」

さよならとは言わずに。
君が好きだと言ってくれた笑顔で僕はゆっくりと目蓋を閉ざす…















―――哀れだねぇ、君は気付いていないみたい――――






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あきゅろす。
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