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雨に埋もれた真実





「僕はいつだって、ユーリの傍に居たじゃない」

君の笑顔を見たいから。

見たいのは泣き顔じゃなくて、ふんわりと笑う、君の幸せそうな笑顔だから…
僕は明るく振る舞う。

いつも通り笑えたかな。


「それは分かってる。そうじゃなくて…」

ううん、きっと君のことだから気付いてる。




僕の、変化に。

僕自身、思い出したくはなかった事実に。


堪えきれなくて俯いてしまう。
絶対に上手く笑えていないから。
こんな顔、君には見せたくないのに…




…ソロソロ、時間ダヨ?…



僕は思い出してしまったんだ。















―――――――――…どうして?


「えー?」

「わざと、だろ…っ?」

「ん、何の事?」

とぼけたような表情で聞いてくるものだから余計に嫌気がさす。

分かっている癖に、わざわざ聞き返す態度には悪びれた様子もない。

「だって、おまえ…っは、わざと外したんじゃ、ないか」

「うん、だって一発で死なれちゃあ困るもの」

「何、企んでるんだよっ……ぐっ」

髪を引っ張られ、頭を無理矢理持ち上げさせられた。


「…なぁに、そんなに死にたかったのぉ?」


その笑みは、凶悪そのもの。
なのにどこか…哀しさを隠しているように見えるのはなんで?

「…離し、て…」

ドウシテ?

なんで、お前がそんな顔するノ?

「ねぇスマイル、君にはさぁ、」




…ボクが見えてるかい?…



「……ぇ…」

予想していなかった。

それはまるで昔の僕が思っていた事そのもの。
ユーリやアッシュと出会う前の僕…

「ラス、…ッ!お前は…」
もしかして、寂しかったの?
幼い頃の僕と同じ…否、幼い頃の僕なんだ、その寂しさ、哀しさ、苦しみ。


「全部。全部が……所詮子供の悪戯だよ」

幼いが故の、ね。

そう言って笑ったラスネールの顔を見ても、どうにもさっきまでの殺意は沸き起こらなかった。

知ってしまったから。
ラスネールの抱えている痛みは、自分が昔抱えていたそれと、同じだったから…

あんなに恐怖の対象であり、憎むべき存在であったのに。


「ヒヒッ…お前はやっぱり、タチが悪いヨ…」

「君には言われなくないなぁ」

今だ降り続ける雨をの空を見上げるドッペルゲンガー。

「…執着し続ける事に意味はあると思う?」

「え…?」

「例えば、誰にも渡したくないものだとしたら?…君ならさぁどうする?」

ラスネールの質問はいつだって唐突だった。
特に、まるで尋問めいた内容のものは殊更。


「そりゃあ、僕だったら…全力で、守るよ…」

決まってるじゃない。
…ユーリは誰にもあげないよ?
絶対に、誰にも譲らない。


「そう。ま、そう言うと思ったけどね」

遥か上空をまだ見上げているせいで、ラスネールの表情は窺えない。

「だってボクは君のドッペルゲンガーだものね。考えることが似てて、とーぜん?」

上に向けていた視線を元に戻した奴の顔は、どこか曇っているように見えた。

まるでこの雨のように、泣いているかのように。


「大切なものがさ、他の奴に奪われたら…その悲しみは計り知れないと思わない?」

「…」


ああ、マズイ。
視界が霞んできた…刺された傷自体が致命傷とまではいかなくても、この出血量は放っておいたら命取りになりかねない。

雨の所為で流された血液がまるで川のように、水流を作っていた。

本当に…三途の川みたい。

ぼんやりとし始める頭に、ラスネールが話す言葉だけが聞こえる。


「ボクは誰よりも君のこと分かっているつもりだったよ。考えてることも、好きなものも嫌いなものも…君が何に苦しみ、痛み、寂しさ、虚しさを感じ何を恐怖とするのか。


……だから誰よりも近い存在の筈なのに」

冷たい指先が、頬に触れる。
トラウマが蘇りそうで、思わずビクリと体が強張った。

「それなのに、君はボクから逃げ出した。そして君はあの吸血鬼にとられたんだ」

「何、言ってんのさ…ッ……それは僕の意思でしょう?」

「うん、そうだね。だから尚更許せなくて…ねぇ、スマイル。ボクはなんで君に避けられたのかなぁ。他に、ボクを“見つけて”くれる人なんていないのに。君にだって昔はそんな人居なかった。だから…」

ボク達は共存してきたんでしょう?


ひどく、悲壮に満ちた声だった。
その声は今までラスネールが辿ってきた苦痛を表しているかのようで。


「そっか…お前も、誰かに見つけてほしかったんだね…」



――――――…君を傷付けようとする奴等から守ってあげる。だからボクを……独りにしないで?――――――――――



裏切ったのは僕の方?
それともお前の方?

分からないよ…
何百年も経った今となっては。


「君に触れることができるのは、ボクだけでよかったのに…他の誰かなんかよりもずっとずっとずっとスマイルの事分かってるのはボクなのに…っどうして分かんないの?ねぇ、どうしてボクよりもあの吸血鬼を選ぶの?なんで…ッ?ボクと君はこんなにも似ているのに…」


まるで双子のように。

そう、きっと僕達は双子だったのかもしれない。

こんな形でお互いが生まれていなければ、悲劇を起こす事も無かったのだろう。


「失う事の苦痛に耐え続ける位なら、君を殺す。だから、ボクも消えるよ…」

……だってそうでしょう?

ボクだけ生き残ったって何になるって言うの?……


朦朧として働かない頭。
指先ですら動かす事ができなくて。
あまりにもぼやけてしまう世界の中、重たい瞼の隙間で見たのは…

ナイフを振りかざすラスネールの姿。

「バイバイ…スマイル」


初めて見た、お前の泣き顔なんか。




意識は暗く深い海の底へと沈んだ…―――――――――




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