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予感の裏側




「ねぇ、なんだか急に黙り込んで…どうしたの?」

「いや、どうもしないが?」

嘘。

だって何も無いのにそんな顔をしないでしょう?
ユーリは嘘付くの下手だよ。
だって瞳がすぐに揺らぐもの。


自然と眉間に少し皺が寄ってしまう。
僕には分かるよ。と、そう言っても君は頑なに

「本当に、なんでも無いから…」

と俯く。

僕はいつもみたいに、彼の綺麗な銀糸を優しく梳いた。

「そう…?別に、無理にとは言わないから。でもどうしても辛くなった時には、話して?」


一人で抱え込んでほしくない。
だって強がっていても本当は君は…脆いんだから。


「おまえだってッ…!!」

弾かれた様に顔を上げ、声を大にして言った君はどこか哀しげな瞳をしているように見えた。

そんな顔をしないで?
ねぇ、僕は君を哀しませたくなんかないのに…

不安を取り除いてあげたくて、そっとユーリの頭を撫でる。

いつもより一段と小さく見える君。

君はいつだって一人で背負い込もうとする。
プライドが高いから、決して弱さを見せようとしない。

それでもこうして耐えきれなくなる時がある事も、僕には分かるんだ。

君は優しすぎるんだよ。
冷血な吸血鬼だなんて、思えないくらいに…


今は何も聞かずに、ただ君の傍に居る事にした。
話してくれるのを待っていたかったから。




それにしても…

「この部屋少し…寒いんじゃないかい?」

「え…?」


怪訝そうな顔をするユーリ。
おかしいな、いくら冷たい雨の中走って来たからといっても僕だけがこんなに寒いってコトある訳無いし?

でもどう考えてもこの部屋の温度は適温じゃない。
冷え性でもなんでも無い僕が、指先が冷たくなるくらい。

ましてや寒いのが苦手なユーリにとっては、尚更。


「…風邪を引いたのではないか?……それとも、雨に濡れたせいで冷えてしまったのか?」


え…ユーリはなんとも無いの…?

些か不思議に思いつつ、風邪じゃないと思う、と伝える。


「そう、か……それにしても、一体何処まで行っていた?」

「んー?だから、買い物行ってて、それで…」

あれ?

何かすごく重大な事があったような…おかしいな…

「そういえばなんか僕忘れてる気がする……なんだろう?」


さっきからずっと、どこかで引っ掛かりが取れないんだ。


考えようとした所でユーリに遮られる。

「とにかく風邪で寝込まれたりなんかしては面倒だ」なんてぶっきらぼうに言うけども、これは彼なりに心配してくれている時の口調。

それも長年一緒に居たら、分かる。


「面倒だとか言いながら、ユーリったら僕のこと心配してくれてるんだネ★」

言えばドライヤーを持った手を投げの構えに持ちかえるユーリ。


幾ら照れ隠しだからと言って、そこいらの物を手当たり次第に投げ付けられては困るので慌てて宥める。

そしたらユーリはそっぽを向いたまま、じっと動かない。

あれあれ、ご機嫌ナナメモードですか?

仕方ないネ、ちょっとの間そっとしておいてあげよう。

僕はすぐ近くにある鏡の前に移動して、ドライヤーのスイッチを入れる。

人工的な温風の吹く音だけが辺りに響き渡り始めた。






「ふぅ、完了完了ー★」

まぁ適当に乾かしただけだから、何時ものようにセットされた感じじゃないけど。
取り敢えずはすっきり。


いや、さっきから心のもやもやが取れない部分はすっきりではないけど。


胸につっかえるもやもやはユーリが心配だから?

もちろんそうなんだけれど…それ以外に、“何か”がある気がしてならない。

なのにその“何か”は分からない。

何故だかそれは思い出してはいけない事のような…
思い出せずもどかしい気分なのに思い出したくない。

矛盾しているけど、まさに今の自分の状態はそれだ。

僕は何を忘れてる?
…ユーリに聞いてみたら何か分かるだろうか。

口を開こうと、した。


「……どうしようもなく不安を抱えているのに、それを相手に話してはいけない事なのだと悟った時、どうする?」


「………え?」

でも先に言葉を発したのは、ユーリの方だった。

その唐突な質問に言葉に詰まる。
一瞬、考えながら言葉を返す。

でもきっとユーリが求めるのは考えに考え抜いた答えなんかじゃない。

だから僕の思ったままを、伝えよう。


「相手はきっと自分が話すのを待ってくれているんだろうな。って、そう思ったら話すヨ。それは隠したりできない位重要な事だろうから」


いつもみたいにふざけたりしないで、しっかりとユーリの目を見て話す。

ねぇ、その瞳に滲んだ涙の意味は果たして…


「スマイル…どうか…」


…消えないでくれ…


今、ユーリは確かに僕の目の前に居る筈なのに…僕には手の届かない所へ行ってしまったような気さえした。

失いたくない。

誰にも、渡さない。

渡したくない。


そう強く思えば思う程、恐怖という負の魔物が心に侵食してくるように感じた。

この得体の知れない不安が思い過ごしならいいと。
ユーリがいつもと変わらないままで…そのままで居てくれたらいいと、切実に願った。














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スマが消える前までの、スマ視点ver.




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あきゅろす。
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