向かい合わせの嫌悪と
※引き続き盛大にラス×スマのターンです←
苦手な人はバックしましょう。
「悪趣味、かぁ…そうかもしれないね」
瞳を少し細めて言い放ったラスネールは、どこか遠くを見つめているかのような表情になる。
「ねぇ、スマイル。君は“あの日”居なくなってからどうしていたの?」
「…お前には関係ないだろ」
そう悪態を吐けばラスネールは、気に喰わないと言った様子で顔を顰めて目線を逸らした。
「そう、別に言いたくないのなら構わないけど…」
少し、間を置いてからこちらを見据えて次の言葉を紡ぎ出した。
「そんなに居心地がいいの?…あの、吸血鬼の傍は」
「……!」
なんで、知ってるんだ……
だって、コイツとは過去のまだ幼かったあの日に…
あの場所から逃げてきた日から、もうずっと会っていなかったというのに…
「へぇ、びっくりした?なんでそのことを知ってるのって顔に書いてあるよ」
「…う、るさい」
いつもなら表情を隠すことの得意なはずの僕は、最早そんな余裕なんて無いほどに動揺しきっていた。
どうして…コイツにはお見通しってワケ?
何処かで見てた?
いや、もしかしたら最初から逃げ切れてなんか居なかったのかもしれない、でもそれならどうして今更姿を現したというのだろうか?
頭が、混乱気味で上手く働かない。
咄嗟の言葉も出せずに固まってしまう。
何故、コイツはユーリのこと知ってるの?
ユーリは……今、無事なのだろうか?
不安で押しつぶされそうになっている所に更に追い討ちを掛けてくる。
「驚いて、言葉も出ないみたいだね。ヒヒッ……あぁ、面白い」
突然、笑い出したラスネール。
何がなんだか分からない。
「……」
僕が何も言えずただ黙っていたら、ラスネールはこっちを向いてまた話を続けた。
未だ表情筋を引き攣らせ、笑いを堪えているといった様子で。
「ほんと、面白いなぁ……自分と同じ姿の君が、そんなにも困惑した顔で緊張感たっぷりなんだもの。笑っちゃうよ」
「…お前、頭オカシイんじゃないの?」
「ボクの頭が可笑しいなら、君も間違い無く可笑しい事になるね」
「お前と一緒にされるのは心外だケド……否定はしないよ…」
だって、コイツは僕の心の闇自身から生まれた存在なんだもの。
だから、きっとコイツがしてきたコトも、全部僕の所為。
僕の心に隙があったから、コイツはそこに付け込んだ。
そういうこと。
“スマイル”と“ラスネール”
僕らは紙一重なんだろうか。
信じたくないけれど目の前に居る僕のドッペルゲンガーはそう言う。
所詮はどんなに距離を置いたところで、どんなに離れたところで、僕等は隣り合わせの存在なのだ。
コイツが生まれてしまった以上、今更逃げ出すことも不可能だったというのだろうか。
正直、何も出来ない自分自身の無力さが悔しい。
どうして、コイツに弱みを見せてしまったのか。
いや、見せるつもりも毛頭無かったワケだけれど…
一度の過ち。
たった一度の過ちが、そしてたった一度でさえもコイツを信用してしまった事が僕にとっての命取りだった訳か。
信じざるを得なかった。
あんな状況では。
他には誰も、信じられる存在など皆無だったあの時には……
「どうして、なの?」
「ん?」
ニマァッと口端を吊り上げたラスネールは、随分と余裕の笑みで、それがまた癪に障った。
「どうして、おまえはさ………僕のこと、傷付けて楽しい?」
「傷付けるのは、君に刻み付けるため」
人差し指を口元まで持っていきそっと呟く、緑色をした自分。
「ボクの存在を忘れないようにする為に、ね…」
憎い。
憎たらしい、その笑みが。
「お前なんか、大嫌いだよ」
吐き捨てるように言った言葉もソイツは気にする風でもなく、
「ヒヒヒッ…嫌いって事は、興味が無いのよりも案外厄介ものだよ?…だって君の心の中でボクはどうでもいいものじゃないんだ。“嫌い”という感情でボク自身を意識してしまっているということだからねぇ…」
「それは…違う!どうでもいい位、考えたくもない程に嫌いってコトだよ」
何もかもが自分の一歩上手なラスネールの言動が悔しくて、言い返すも…すぐにまた次の攻撃を仕掛けてくる。
押されている。
この僕が。
それだけ、ラスネールという存在は僕にとって恐怖の対象であり越えられない壁。
否、壁なんて生易しいものではないかもしれない。
コイツには僕の行動、言動、心理が何故だか読まれてしまう気さえする。
いつも他人に入り込ませないように防御している筈の自分の心は、たったひとりのドッペルゲンガーによってあっさりと崩されてしまったのだ。
感情を隠すことが得意な、表情を取り繕うことが得意な、僕の鉄壁の守りでさえも。
(コイツの前じゃ、まるで通用しないなんて…)
悔しさに、唇を噛み締めた。
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