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会長が画策してる話。




 さんざん悶えてある程度落ち着いてから、風紀委員長は身を起こしゆっくりと息を吐き出した。まだ、顔がにやけるが仕方ない。

 鼻歌でも歌い出しそうな程の上機嫌で部屋へと向かう。今夜は良い夢が見れそうだ。いや、テンションが上がりすぎて眠れないかもしれない。

 そうして、自室のドアを開け、風紀委員長の気分は急降下した。

 天国から地獄とはまさにこの事である。

「よう。遅かったな」

 いるのを忘れてたと、それだけならばそこまでテンションは下がらない。問題は会長の格好にある。

 無断でシャワーを借りた会長は、腰にタオルを巻いただけの姿で風紀委員長を出迎えたのである。確かに。確かに会長は良い体つきをしている。だが、だからといって風紀委員長は自室に戻って早々、男の裸体なんぞ拝みたくなかった。

 そりゃ、テンションも下がる。

 会長はそんな風紀委員長を気にすることなく、腰に手を当て牛乳を一気に飲んだ。プハァと、満足げに息を吐き出す。他人の部屋でくつろぎすぎだ。

「……せめて、せめて服を着ろ」
「服、ねぇんだよ。何か貸せ」
「あー…つか、やっぱ泊まってくのか?」
「おう。自分の部屋なんて、いつ変質者が押しかけてくるかわかんなくてこえぇよ」
「……そうか」

 ハッと笑い飛ばす会長は、あまり怖がっているようには見えない。

「朝、そのつもりでパンツは持って出たんだが、パジャマまでとなるとかさばってバレるからな。諦めた」
「諦めんな。つか、最初からそのつもりだったのかよ」

 グチりに来ただけなのかと思えば。

 頭を押さえつつも、風紀委員長は服を用意する。いつまでもそんな格好でくつろいでなどいてほしくない。

「ふぅん?」
「……んだよ。何か文句あんのか?」

 渡されたスエットを身につけた会長は、身体を捻りながらアレコレ確認していた。興味津々なその様子に、風紀委員長は顔をしかめる。

「いや。やっぱ少し裾余るな」
「そりゃそうだろ」

 背丈はあまり変わらないが、身体の厚みには大分差がある。風紀委員長は当たり前だと呆れた。

「さすがに下脱ぐのはきついか。でも見ろ。萌え袖だぞ」
「だから何だよ」
「萌えねぇか?」
「何で萌えなきゃなんねぇんだよ」
「んだよ。つまらねぇ」

 ドサッとソファに腰を下ろす会長の座り方は、ひどく偉そうだ。

「お前にゃセクシー系よりかわいい系の方がキくと思ったのに」

 やれやれ期待はずれだと首を振る。

 まるで悪いのは風紀委員長だと言わんばかりの態度で、風紀委員長はヒクリと頬をひきつらせた。

「確かにかわいい方が好きだが、お前はかわいくねぇ上に、そう思う必要がねぇだろ」
「いや、ある。今晩オレはお前とヤるからな。好みに近い方が良いだろ?少しぐらい合わせてやろうとしたんだ」
「…………………」

 風紀委員長はじっと会長を見つめた。会長は口元に笑みを乗せている。さも当然だと言わんばかりに。

 眉間を指で押さえ、瞼を閉じ言われた内容を理解しようとする風紀委員長。やがて、スクッと立ち上がると通学用の鞄や制服などをまとめ始めた。それを会長が止める。

「おいおい。いきなりどうした」
「どうしたもこうしたもあるか。いいか。恋人が変態だったことには同情する。部屋に戻るのが怖いつぅなら、仕方ねぇから泊まらしてやる。だがな、お前と、どうこう、なる気は、ない。そういう心づもりなら、オレはよそに行く」
「んだよ。つめてぇなぁ。いいじゃねぇか、どうせ今フリーだろ」

 風紀委員長のまとめた荷物を、会長は取り上げようとぐいぐい引っ張る。取られてなるものかと、風紀委員長は必死に荷物を抱え込む。

「よくねぇよっ!つか何でそこまで話が飛ぶんだ!よけい話こじれるだろ!」
「飛んでねぇよ。どうせあの野郎、自分が捨てられるこたねぇと高をくくってるに決まってやがる。危機感あおらねぇと話すすまねぇよ」

 ご明察。

 実際に書記の口から勢いだけのはずだと聞いてしまっていた風紀委員長は、思わず怯む。会長はその隙を逃さず、荷物をひったくった。

「だから一発ヤろうぜ」
「断る!つかそれ話進むどころか即終了だろ。別れる気か?別れる気なんだな?ならオレを巻き込むな」
「人聞きわりぃな。別れるわけねぇだろ。お前は当て馬だ」
「当て馬かよ!」

 風紀委員長が頭を抱える。

「お前とヤりたいって奴はいくらでもいるだろ。オレを、巻き込むな」
「バカ言え。本気になられたら困るだろ。その点、お前は初恋拗らせてるから安心だし。どうせ告白できねぇから気を使う必要もねぇし」
「できないって決めつけんな!」
「いいや、できっこないね。このままだと一生童貞だ。それをこのオレが貰ってやろうってんだから、感謝しろよ」
「嬉かねぇよ!」
「あ?もしかしてつっこまれる方が良いのか?オレは別にかまわねぇが」
「そういう、話じゃ、ねぇ!」

 興奮のあまり風紀委員長は会長の胸ぐらを掴んで、ガックンガックン揺らす。しかし会長はどこ吹く風。まったくもって気にする様子はない。

「だいたい!下手に浮気とかしてみろ。あいつのことだ。焦るどころか最悪拉致監禁しかねないだろ」
「あぁ、それくらいなら問題ねぇよ」
「あるだろ。問題。お前がいなかったら生徒会まわんねぇだろ」
「…………心配すんのそこかよ」

 何も、他のメンバーだけで一切がまわせないわけではない。ただ、どうしたって最終的には会長の印が必要になるからいないと進められないのだ。

 たが、だからと言って拉致監禁で心配するのは仕事に関することだけなのかと、ここにきて始めて会長が呆れを見せた。

「お前の身なんか、心配するだけ無駄だ」
「つめてぇなぁ」
「とにかく!変なこと画策しねぇで一度じっくり話し合え」
「話すことなんかねぇよ」
「落ち着いた状態で一度も話してねぇだろ。いいからちゃんと話し合え。場所は提供するし、二人きりになるのが嫌だってんなら同席する」
「だが……」

 風紀委員長はどうにか話し合いで解決させようと詰め寄る。だが、会長は煮え切らない態度だ。まだ何か気がかりがあるのかと、風紀委員長は先を促す。

「だが?」
「それだと、お前がいつまでたっても童貞のまま……」
「決めつけんな!つか、そこは気にするとこじゃねぇだろ!クソッ、せっかく今日は良い夢見れそうだったのに」

 とにかく、明日話し合いの場を用意するから逃げるなと言い残し、会長に奪われた荷物は諦め携帯だけを手に風紀委員長は部屋を飛び出していった。

 やれやれ賑やかな奴だと、会長は閉じたドアを眺め息を吐く。

 何も、本気で風紀委員長とあはんうふんするつもりだったわけではない。半分くらいしか本気じゃなかった。

 先ほど風紀委員長を呼び出した電話。風紀委員長の様子で、聞かなくても相手が誰だかわかった。自分が恋人とケンカしている最中だと言うのに、電話がかかってきたというだけで嬉しそうなあの態度!

 おもしろくなくて、ちょっかいかけたくなるに決まってるじゃないか。

 風紀委員長の興奮した様子に満足し、今日は良い夢が見れそうだと会長は満足げにベッドに向かう。

 つまりは完璧八つ当たりだ。





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あきゅろす。
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