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 泣かすのは自分だけがいい。

 泣き顔を見るのも自分だけでいい。

 誰かにすがる姿なんて、腹立たしいだけ。

 小栗って誰だよと思い、地元にいた頃からの友人たちに聞き込みをしたらすぐにわかった。こういう時、人脈があると楽でいい。なんせ金本先輩がここに通ってるというのも、こいつらからの情報だ。

 この学校から地元まで休みの度にわざわざ帰ってくるの大変だろうにと呆れてたが会いからだと力説するような奴らだ。日常的につるんでる地元組を羨ましがっていた。まぁ、オレがここに進学するって言ったら、地元に残る奴らに自慢しまくってたけど。入学早々親衛隊結成とかしたけど。

 で、だ。件の小栗というのは金本先輩の親衛隊隊長らしい。親衛隊。あの厄介な。

 金本先輩と親衛隊の仲は良好だという。昼間や放課後は大抵生徒会の仕事をしていたが、夜によく部屋を出入りする姿が目撃されていたそうだ。

 くちさがない奴らはやれセフレだなんだと言っているそうだが、ほとんどの意見は違うらしい。確かに、金本先輩は恋愛やセックスよりも友達とゲームしたり馬鹿して騒いでる方が楽しいようだ。

「外部入学で即生徒会補佐。んで会計っすからね。内部組のプライド高い一部の奴らはやっぱ気にくわないらしくて。ほら、見た目アレだけど、中身がアレっすから」
「アレとか言うな。お前よりは成績いいんだろ。万年赤点」
「言わんで下さいぃぃぃっ!」

 絶叫を聞き流し、ダムッとバスケボールを一度弾ませる。

「てか、ならオレも影でなんか言われてるわけ?」

 新歓後、会長にこのまま補佐をやらないかと声をかけられ、渡りに船と引き受けた。外部入学で、少し間があったとはいえ補佐におさまったので、第二の金本だとか言われてるのは聞いた。

 影口を叩く奴も同じようにいるのだろう。

「言われるわけないっすよ!」
「家柄言う奴いますけど隊長が叩き潰してますもんね!」
「しぃぃぃっ!」

 センパイ兼隊長が慌ててクラスメイト兼親衛隊に口を閉じるよう指示を出す。それに冷たい視線を向けた。

「オレの親衛隊の隊長名乗るなら問題起こさないでください。センパイ」
「ちゃんとバレないようやってるんで大丈夫っす」

 ならいいか。

 それにしても家柄か。まぁウチは貧乏じゃないが裕福でもないしな。坊っちゃんらからしたら面白くないんだろう。下民の分際でってか?ははっ、あーアホらし。

「庚さん外面いいんで、あんま文句言う奴いませんよぅ」

 それは誉めてるのか貶してるのか。

「むしろ人気あり過ぎてオレら寂しいぐらいですもん」
「そうっすよ。特に最近は生徒会で忙しくて時間なくてっ!もういっそこのまま留年してクラスメイトになってしまおうかと………っ」
「オレの親衛隊の隊長名乗るなら留年なんてみっともない真似しないでください。センパイ」
「わかりましたっ」

 …………センパイなんだよな。この人。ここ進学するまでずっと同学年だと思ってたけど。と、うろんな視線を向ける。

「………球技大会終わったら次は試験だし、皆で勉強会でもする?」
「いいですねー。庚さんいたら怖くて集中できますもんね!」

 だからそれは誉めてるのか貶してるのか。

「赤点とった奴罰ゲームで」
「…………罰ゲーム」
「おーい!秋吉!出番っ!」
「おー」

 クラスメイトに呼ばれ、ボールをセンパイに渡してからかけよる。クラスメイトはセンパイの方に視線を向けたまま眉をひそめていた。

「何でお前んとこの隊長がここにいるわけ?」
「今日、バスケするって話したら見たいとか言い出して。自分の教室に戻ってくれつってもきいてくれないんだよな」
「ふぅん。ずいぶん好かれてるんだな。よかったのか?チーム、親衛隊の奴と組まなくて」
「止めてくれよ。親衛隊つっても地元一緒の奴らがふざけて結成しただけだし」

 困り顔を張り付けて笑う。確かにまぁ、外面いい自覚はある。

「大体、授業中や昼休みぐらいは普通にクラスの友達と関わりたいって」
「昼休みあんまいないくせに?」
「球技大会で忙しいだけだし。終わったら時間できるだろ。え?できるよな?」
「ははっ」
「そこっ!とっとと整列するっ!」
「はーい!」

 生徒会の業務、というか補佐としての役割については、後で会長に詳しく確認しておこう。クラスメイトと過ごす時間が少なくなるのは痛い。

 会長。会長なぁ。

 正直、真行先輩に引っ付いてるの面白くなく感じてたけど、会長に比べるとものすごくマシだった。何あれ。惚れてんのって訊きたくなるぐらい。

 本っ気で面白くない。

 会長自身は何故かあの影の薄い先輩にベタ惚れだけど。だから金本先輩が例え惚れてたとしても望みはない。いっそ失恋の痛手につけこもうか。他人のせいで泣くのは気にくわないが大目に見よう。

 むしろ恋愛感情じゃない方が厄介かもしれない。しかも会長もなんか最近金本先輩のこと下の名前で呼ぼうとしてるみたいだし。どもって言えてないけど。でも、これ以上仲良くなってほしくないんだよなぁ。見ててイラつくから。

 そんなことを考えながら今日も生徒会室で仕事をする。金本先輩が書類を持って出ていき、つまらないなと思いつつ雑務をこなすことしばらく。

「…………水瀬さん?どうかした?」

 書記君の声に顔をあげると、何やら会長はそわそわしてた。

「いや………金本の戻り、遅くないか?」
「あぁ、確かに。どこか寄り道してるんですかね」
「いや、いつもすぐ戻ってくるし………そんなはずは」

 まぁ、寄り道も無駄話もせずにいつも急いで戻ってくるし。珍しいよな。こんなに時間かかってるの。

 不安がって様子を見に行こうとする会長を押し留め、代わりに探しに行く。風紀室に行けばとっくに用を済ませたと。

 ならば次は職員室かと、向かう途中で影の薄い先輩に出くわした。

 金本先輩は、会長とこの人の接触がないからと安心してるっぽい。けど、以前手伝いをしてた時にあからさまに気のあるそぶりを見せていたし。この人のことはよく知らないが、そのままフェードアウトを許すような性格ではないだろう。

 携帯だってあるんだし、連絡は取り合ってるんじゃないだろうか。

 影の薄い先輩は、一度首をかしげ何やら思案した後、笑みを浮かべた。

「会計さんなら、視聴覚室の方だよ」

 ぞわりと肌が粟立つ。警戒し、睨み付けるがどこ吹く風。

「な、んで」
「さぁ?早くした方がいいよ。誰かに襲われるかも」
「っ!?」

 弾かれたように走り出す。

 んでそんな外れの位置にいるんだよとか。襲われるような状態ってどういうことだよとか。そんな状態で放置しといたのかよとか。あんなのが好きなんて会長趣味悪すぎとか。

 そんなことを思いながら駆けていった先、視聴覚室手前の廊下の真ん中に金本先輩は座り込んでいた。姿が見えた時点で失速し、呼吸を整える。

 良かった。周りに人はいない。

 声をかければ金本先輩はぐずぐず泣いていて。その泣き顔にテンションは上がるが、泣かせたのが影の薄い先輩で、理由が会長ってのは面白くない。

 だから好き勝手やらしてもらった。涙、おいしかった。唇もなかなか。何より、わけがわかってない表情がいい。

 思考停止してる内に、手を握り生徒会室に連れ帰る。何をされたか気づいたときの反応が見ものだ。そう、思っていたのだけれど。

「か、かのと?」
「うへへー…しーずちゃんっ!」

 だらしない笑顔で会長に抱きつく金本先輩。心配してた会長に名前を呼ばれただけで、泣いてたこともオレにされたことも全部ぶっ飛んでただ喜んでる。

 イラッとしたのは言うまでもない。





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あきゅろす。
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