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Autumn




 初めて見た時その人は泣いていた。

 涙に濡れるその顔はひどく印象的で。

 ああ、もっと泣かせたいな、と思った。



 Autumn



 すぐさまその人の身元を調べ、通っている高校を突き止めた。その気になればどうにかなりそうな偏差値で、だからガラでもなく受験勉強をした。

 少し離れたところの全寮制の高校に進む。地元の奴らに告げれば、泣いて止められ……はしなかったものの、すがるような眼差しを向けられた。

 入学式の壇上で、その人が生徒会役員を勤めている姿を見た。話には聞いていたが、本当だったとは。あんなにバカっぽいのに。

 さて。どうやってその人の視界に入るか。近づくか。部活にでも入っていてくれれば良かったのだが。生徒会だと、入ります、はいどうぞとはいかない。面倒な。

 なるべく早く近づきたい。

 何せその人はたいそうオモテになるのだとか。過保護だとか言われる親衛隊の存在も厄介だ。

 もういっそのことそこらの奴に襲わせて、自ら助けるなんて茶番劇を演じようかと考え始めた頃、チャンスが訪れた。

 それはその人の学年にやって来た転校生。何か飲み物をと思ったら、寮の自販機の前で項垂れている姿を発見した。自販機に抱きつくようにして、オレのミックスジュースとか呟いてる。

 売り切れてるのかと思い、退いてもらった後に何となく見てみたら売り切れてはいなかった。つまりはお金がないのか。憐れな。

 未練がましく自販機を眺める姿を盗み見て、小銭を投下。

「あっ」
「はい。どうぞ」

 ジュースを買う金もない憐れさが愉快だったので、軽い気持ちでミックスジュースを購入した。それを押し付け、自分用に今度はお茶のボタンを押す。

「えっ!いっ、いいのか?」
「はい」
「ありがとう!あっ、オレは二年に転校してきた五十羅真行」
「オレは一年の秋吉です」

 転校生かー。ならあの人の友達って可能性は皆無か。関係者なら良かったのに。

「秋吉な。本当にあんがと。今度何か礼させてくれな」
「いいえ。お構い無く」

 ある意味愉快な姿を見せてもらった礼なのだし。

 まぁ、これがあの人相手なら、これをネタにあれやこれやを要求してみたところだけど。この先輩相手だと意味ないし。

「良い奴だなー。わかんないことあったら何でも訊いてくれって言いたいとこだけど。オレ、今日来たばっかだから、何にもわかってねぇし」
「今日?」
「おうっ。変だろ?」

 話ながら、先輩は自販機横のベンチに座った。どうせ用ないし、いいかと並んで腰を下ろす。

「普通は始業式と同時だよな?もう、うちの両親やることなすこと目茶苦茶なんだよ」
「大変ですね。片付けはもう終わったんですか?」
「……………」

 あ、まだ終わってないなこれは。分かりやすく視線をそらされた。

「アタリマエダロ」
「……おい。何こんなとこで油売ってんだ?」

 先輩が白々しい嘘をついた瞬間、低い声がかけられる。

「げっ、乙葉!」
「早く片付けねぇと寝る場所ないだろ。散らかすだけ散らかしといて」
「い、いざとなったらソファでだって……!」
「いいからさっさとしろ」

 突如現れた赤毛の男に、先輩は首根っこを掴まれ連れていかれた。片付けてはいないとわかったが、まさが逆に散らかしていたとは。

 とりあえず、愉快な人に分類しその場は終わった。

 状況が変わったのは月曜日。昼食をとるために友人たちと学食に向かった。しばらくすると騒然としだし、何事かと視線を向ける。

 するとそこには先輩がいて。なぜかあの人も一緒にいた。

 接触したと理解した途端、使えるかもしれないと頭を動かし始める。

 聞こえてきた会話は、本日の放課後一緒に遊ぼうという内容で。早速、連絡先を交換してるのも確認した。あぁ、やっぱり使える。親切にしといて良かった。

 放課後、二年の教室に向かえば、途中の階段の踊り場で先輩たちに遭遇した。そこにはもちろん目当ての人もいて。気づかれぬよう、笑みを深める。

「お!秋吉!」
「こんにちは。先輩」

 こないだはありがとうなと駆け寄ってきた先輩に、気にしないでくださいと笑顔で返す。そこに、あの人がひょこひょこ近づいてきた。

「真行ちゃん、知り合い?」

 真行ちゃん。ねぇ。

「おうっ!一年の秋吉……え〜と…」
「秋吉庚です。庚でいいですよ」
「こいつ、すっごく良い奴なんだ!」

 たった一本のジュースごときで、ずいぶんと持ち上げてくれるものだ。そう思いながらも、爽やかと評されることの多い笑顔を崩さない。

 あの人は不思議そうに首をかしげた。

「一年?上の階に何か用あったの?」
「あっ、誰かに会いに行く途中だったのか?邪魔して悪い!」
「いいえ。真行先輩にちょっと」
「オレ?」
 首をかしげた真行先輩に、はいと頷く。

「転校してきたばっかりと聞いたので、どうしてるかなと気になりまして。でも、もう友達ができたんですね。良かったです」
「それでわざわざ来てくれたのか?」
「わざわざってほどでは……それより皆さんはこのあと何かご予定が?」
「おうっ!ゲームしようって話になって」

 告げられたタイトルに、それならと口を開く。

「オレ、得意ですよ」
「えっ!?」
「お邪魔じゃなければ、ご一緒しても良いですか?」
「もちろん!なぁ、いいよな?」

 真行先輩の問いかけに、赤毛の先輩も影の薄い先輩も目当ての人―――金本先輩も肯定の意を表した。こうもトントン拍子に行くとは。

 ちらりと盗み見た金本先輩は、単純に大人数で遊ぶのを楽しみにしてるように見えた。

「おいていかれたのです」
「うわぁ、正己先輩?あれ?興味ないって言ってませんでしたっけ?」
「興味はあるのです。したことがないだけなのです。来ては迷惑でしたか?」
「まさかっ!」

 のっそりと表れたこの根暗そうな先輩は、確か副会長だったな。すごいや。生徒会、半分が集まってる。

 とか考えてたら、後から書記君も合流した。会長だけが来てないのでコンプリートならず。そういや、食堂の時も一人先に帰ってたな。まぁ、関係ないけど。

 ゲームは、金本先輩にだけ手加減せずにおいたら大変ショックを受けていた。その表情も、なかなか愉快でした。

 ごちそうさまです。





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あきゅろす。
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