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 ずっと、一途に思い続けてる人がいる。

 出会ったのは小三の縦割り遠足の時。一目惚れではなかったけれど、帰る時には告白していた。相手には全くされなかった。

 上級生の教室に通いつめ、弟扱いされるようになった。オレがなりたいのは弟じゃなくて、恋人なんだがな。

 中学に上がったその人が生徒会に入ったと聞き、勉強に精を出した。入試に代わる試験でトップになれば生徒会の補佐になれるし、補佐になればほぼ確実に役員入りできる。

 学年が違うから、何としてでも接点を作る必要があった。

 そうしてまんまと生徒会入りし、親しくなることに成功。かわいいかはわからないが、弟扱いから仲の良い後輩にジョブチェンジ。

 その人が引退してしまえば生徒会にいる意味などない。けれどどうせ高校でもその人は生徒会に入るのだろうと続け、会長になんぞにまでなってしまった。

 高校でも、中学の時とさして変わらない生活。ことあるごとに好きだと伝えても流されるだけ。

 それでも、それなりに満たされた日々を過ごし、またその人が生徒会を引退する季節がきた。

 今度こそ生徒会にいる意味はなくなった。大学の進学に有利にはなる。けどどうせならその分の時間を勉強に費やした方が有意義だ。そう判断し、生徒会を辞めたら非難囂囂。

 かわいい後輩もいたけれど、それより何より自分の思いに忠実に行動したのだ。

 後々なんか大変なことになってたみたいだが、まぁ、どうにかなったようだ。叱られてしまったが。弟からは白い目で見られたが。

 そうして最高学年に進級し幾日か。勉強の合間に息抜きでもしようと秘密のおさぼりスポットに向かう途中、かわいい後輩の一人に出くわせた。

「おー、かのと」
「……え?あぁ、パパ……………って、え?あかり先輩っ!?」
「おーぅ。パパだぞぅ」

 あまりに驚き、ポカンと間抜け面を晒してるものだから、ケラケラと笑いが止まらなくなる。

 外部入学したてで生徒会に引きずり込まれたこの後輩は、最初は怯えぎみだったものの、今ではすっかりなついている。それはもう、パパ!息子よ!と呼び合うほどに。

 けれどそういやぁ、終業式以降会ってなかったな。

「ちょっ、なっ、あのコジャレたあかり先輩はどこに!?」
「だって覩月さんいなけりゃ、お洒落する意味ないしー」
「あんたどんだけ会長のこと好きなんだっ!」

 見てほしい相手がいないのだから、気を使う必要はない。染めていた髪は黒に戻りかけ。ついでにしばらく切ってないので、前髪が邪魔でしょうがない。勉強する時だけはピンで留めてるが。コンタクトも面倒だからと、今は眼鏡を使用している。

 つか、オレが覩月さん好きなのなんて今さらじゃないか。オレの世界の中心は覩月さんなんだから。

 あんたなんて失礼な言葉遣いをする頬を片手で潰すと、変な音がした。

「てか、今の会長は静癸だろ」
「ふぁっふぇ」
「ん、ん〜?何言ってんだかわかんないなぁ」
「ふぇ〜ん」

 まったく。

 何だか落ち込んでるように見えたから声かけたってのに。思ったよりは元気あるようだ。

「生徒会の方はどうだ?ちゃんと足ひっぱらずにやれてんのか」
「足ひっぱってないよ!てか、あかり先輩が!あかり先輩が辞めてなきゃアコちゃんが補佐だったのに!したら秋吉が補佐になることなかったのにー!」

 うわぁんパパのバカァ!もう洗濯物一緒に洗わない!なんて、思春期の娘みたいな詰り方してきたがちょっと待て。

「秋吉?」
「今回補佐になった一年。外部入学で、第二のオレみたく言われてんだけど……パパ知らないの?」
「だって…」
「いやそれもういいから」

 言う前に理解してくれたのは嬉しいが、何だかパパは寂しいぞ。

「かのとはその秋吉って奴が嫌なのか?」
「嫌いってか……うわぁん!聞いてよパパ!」

 あまり人を嫌うタイプではないし、そうだとしてもなるべく表に出さないよう心がけてるかのとにしては珍しい。そう思い軽い気持ちで訊ねたら、勢いよく抱きつかれた。

 どうせなら覩月さんに抱きつかれたい。

「秋吉、後輩のクセに意地が悪いんだよ!しずちゃんにひっていてると邪魔してくるし。意地悪言ったりしたりしてくるし。何?オレ嫌われてんの?何にもしてないのにー」
「意地悪ねぇ。かのとにだけなのか?」
「そーだよ。他の人には爽やかな笑顔が良いとか言われてんのに。オレに対しては爽やかな笑顔でコーヒーのブラック用意してきたりすんの。てか、飲み物用意すんのオレの役目なのに!」

 ほぅほぅ。

 それはどうしてなかなか分かりやすいんじゃないか。てか子供じみてるな。

「まぁ、知らない内に嫌われてるってこともあるからな。気づいてないだけで何かしてたんじゃねぇの?」
「っ!?」

 ガバッと顔を上げたかのとは悲壮感に満てていて。吹き出しそうになったのをどうにか堪え、殊更真面目な表情を作る。

「一度、ちゃんと話してみろよ。わけもわからず嫌われたままなんて嫌だろ?何か誤解があるのかも知れねぇし」
「そ…か。うん。そうだよね。わかった!ちょっと怖いけど話してみる!」

 後輩相手に怖いって。

「ありがとう!あかり先輩!」
「おーぅ。あ、ついでに静癸にひっつきすぎて、嫌われれても知らねぇぞ!」
「っ!?だ、大丈夫だもん!」

 善は急げと駆け出したかのとに、ついでとばかりに一言そえれば焦ったような声が返ってきた。

 まぁ、んなことぐらいで静癸が嫌ったりするこたないが、かのとの反応は本当、愉快だな。その秋吉とかいう奴の気持ちはわからなくもない。

 まぁ、オレには覩月さんがいるわけだが。

 気分よく口笛吹きながらおさぼりスポットに向かえば、そこにはすでに赤毛の猫がいた。

「あんた、あんまりあいつからかうなよ」
「いやぁん。盗み聞き?エッチィ」

 ふざければ呆れたような視線を向けられる。ここはかのとと話してたとこと目と鼻の先だし。聞くともなく聞こえてしまっていたのだろう。

 気にすることなく、隣に並んだ。きれいな赤毛に手をのばせば、嫌がられることなく受け入れられる。

 穏やかな風に吹かれながら、その指ざわりを楽しんだ。





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