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 好きな人には幸せになってほしい。

 恋だって、応援したげたい。

 でもやっぱり、その人はやめた方がいいと思う。

 二学期を迎える頃、オレは会計になった。しずちゃんは生徒会長。あかり先輩が、

「覩月さんがいない生徒会なんて、いる意味なーい!」

 とか言い出して辞めてしまったので、別の知らない先輩が書記になった。でもこの人が中臣先輩と折り合い悪すぎて、三学期の終盤辞任する騒ぎに。

 頭を抱えたのはしずちゃんと元会長の覩月先輩。また新しい人を入れても、同じことを繰り返しそうと懸念していた。

 結局、元をただせばあかり先輩が辞めたせいなのだからと覩月先輩が言い出して。まだ入学してきてないあかり先輩の弟を書記にすることにした。

 首席入学が決まっていて、どうせ補佐になるのだからと。中等部の生徒会にも入ってたし、中臣先輩とやっていけるのもわかっているんだとか。

 春休み前から顔を出してもらって、仲良くなった。本来補佐になるはずのアコちゃんが書記になったから、補佐は次席の子にやってもらおうかって話が出てたけど、それはいつのまにか流れてた。

 とにかくどうにか新年度は無事に迎えられ、二年へと進級。それから一週間がたち、真行ちゃんが転校してきた。

 案内をした中臣先輩がやけに気にしていて、滅多に来ない食堂にまでついてきた。真行ちゃんは友達二人とお昼を食べに来ていて。中臣先輩が話しかけて、皆で一緒に食べることになった。

 話してみると、真行ちゃんは普通の子だった。普通って言うのもおかしいけど、何てか、話が合う。普段遊ぶ内容だったり、ゲームだったり気が合うからすごく楽しい。

 真行ちゃんの隣にいた一人は、真っ赤な髪をしていた。気だるそうなその人は、木梨といって、男ですらときめくほどの色男だった。色気が半端ない。しずちゃんとは違ったタイプ。

 後から彼はいわゆる不良なのだと聞かされたけど、怖い人には思えなかった。何より億劫そうにも関わらず、面倒見がよいのだ。そんなところはしずちゃんに似てる。

 しずちゃんは、何だか様子がおかしかった。やけに強ばってるって言うか、挙動不審て言うか。普通に、話してるようにも見えるけど。気のせいかなと首をかしげていたら、用があったからと出ていってしまった。お昼を食べもせずに。

 大丈夫かなと後ろ姿を見送っていたら、ぞくりと鳥肌がたった。その時は理由がわからなかったけど、真行ちゃんと遊んでると時々似たようなことが起きた。

 原因は真行ちゃんのもう一人の友達。北村。

 一年の時から付き合いのある中臣先輩や、いつの間にか真行ちゃんと親しくなっていた後輩の秋吉も時々怖い。でも北村のそれは、二人とは全く違った怖さだった。うまく、説明はできないけど。

 真行ちゃんといるのは楽しいし、北村がいるというのが心配でなるべく一緒にいるようにしていた。いくら怖いといっても、友達の友達を変に言うわけにもいかなくて。だから、見張っておきたかった。

 しずちゃんに訊けば、今は生徒会の仕事忙しくないからと言ってくれて。ならしずちゃんもと思ったのに、毎回断られる。テレビゲームとか興味ないのかな。一緒に遊べればきっとすごく楽しいのに。

 そうやって過ごす内に、そろそろ新歓の準備をという話になった。そういえば去年の今ごろは忙しかったはず。もしかして気を使ってまだ平気なんて言ってくれてたのだろうか。

 不安になって訊いてみると、ちょうどこれから忙しくなるとの返答で、安心した。

 真行ちゃんたちも手伝ってくれることになった。それはもちろん嬉しいのだけど、当然のように北村もいるわけで。ああ、なんか不安だなとあまり作業は進まなかった。

 何で、真行ちゃんは北村と仲良くできるのだろう。オレが気にしすぎてるだけなのかな。そんなことを考えてる内に、休憩になった。正直、全然集中できてなかったから助かる。

 北村の用意してくれたココアを飲んでると、いきなり真行ちゃんが立ち上がった。

「壬延っ!?」

 大声を出した真行ちゃんの腕を、思わずつかむ。だって、そうでもしないと倒れてしまいそうだ。それほどの目眩がした。衝撃だった。

 しずちゃんの頬に、北村が触れていた。まるで恋人に対してするように。見上げるしずちゃんの顔は真っ赤で。隣で休憩していいか訊ねられ、必死に頭を縦に振っている。

 知ってる。あの反応を自分は見たことある。何で。しずちゃんの好きな相手って、そいつなの?

 手が震える。

 見てたくなくて、ゆっくりと視線を足元に向ける。

 ダメだよ。その人はやめた方がいい。だって、何だか得体が知れない。怖いよ。その人は。

 でも、本当にそいつの事が好きなんだって、見てるだけで伝わってきて。どうしよう。絶対やめた方がいいのに、そんなこと言えやしない。

 ぐるぐるぐるぐる。どうしていいかわからずただ目をそらしていると、カタリと木梨が立ち上がった。ビクリと視線を向けると、木梨はため息をつく。

「休憩、終わりだと。あんたもとっとと席戻れ」
「あ、うん」

 ぼんやりと見回すと、アコちゃんは自席に戻ってた。中臣先輩も、渋々と立ち上がってる。木梨がしずちゃんの席に近づくのを、視界の隅におさめながらオレも戻った。

 でも、座ろうとして、ふと視線を上げたら、

「しずちゃんっ!?」

 しずちゃんが北村の腕の中で、気を失っていた。血の気が引いて、思わず駆け寄る。

「金本、落ち着け。大したことないから」
「でもっ」
「緊張しすぎただけだ。北村、とりあえず仮眠室運んどけ」

 木梨に、肩をポンと叩かれ諭される。北村がしずちゃんを仮眠室まで運んで、保健室の先生が来るまでずっと付き添っていた。

 木梨の言葉はわかる。端から見ててもしずちゃんがいっぱいいっぱいなのが伝わってきていた。何があったというわけではなく、容量オーバーしたのだろう。

 でも、やっぱり北村のせいだ。

 北村が隣でなんて休憩しなければ、こんなことにはならなかったのに。しずちゃんが喜んでたのはわかってるけど、でも。

 だって、北村は倒れたしずちゃん見て嬉しそうにしてた。信じられない。何であの状況であんな表情できるんだろ。自分のせいで、しずちゃんは倒れたというのに。

 真行ちゃんたちが帰ってから仮眠室に入ると、しずちゃんは起きていた。オレの顔を見ると、ほっと安心したように肩の力を抜く。その反応に、泣き出したくなった。

「しずちゃん大丈夫?」
「ああ。悪いな。心配かけて」
「ううん。………北村と何話してたの?」
「っ!?」

 一気に赤くなる顔に、悲しくなる。

「二人が話してるとこって見たことなかったから。どんな話するのかなー?って」

 嘘つき。本当は何か変なことされなかったかとか、そんなことを確認したいのに。しずちゃんは北村が好きだから。オレが苦手に思っているのを知られたくない。

 友達になれたのだと嬉しそうに話すしずちゃん。

 やめた方がいいなんて、関わらない方がいいなんてとてもじゃないけど言えない。

 応援するって言ったのに、とてもじゃないけどできないよ。

「か………かな、金本」
「なぁに?しずちゃん」
「あー…いや。何でもねぇ」

 何か言いかけてやめたしずちゃんは、誤魔化すように笑みを浮かべた。それに同じように笑みを浮かべて返す。

 ごめんね。しずちゃん。





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あきゅろす。
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