■Thunderbolt
【副会長×会長】
転校生襲来後、副会長以外が仕事放棄している話?
副会長がぶちギレました。
どうしましょう。
場所は昼食時の学食。教室に迎えに来た転校生君や他役員、転校生君の友達等とお昼ご飯を食べていた時の事。
なぜかやたら世話を焼きたがる転校生君に、手ずからオムライスを食べさせてもらい。羨ましがられたり、文句を言われたりというのが最近の日常風景になっていました。
本当はもっとさっぱりして軽いものが食べたかったりもするのですが、注文をつけるのも申し訳ないので、黙々と口許に運ばれるチキンライスを咀嚼していました。
副会長がやって来たのは、そろそろ食事が終わりそうになった頃です。背後に雷雲を背負った副会長は、まっすぐにこちらの席に向かってきました。顔にはありありと不機嫌だと書かれています。
とても怖いです。噛み途中のご飯を、思わずゴクリと飲み込んでしまいました。
そうして、目の前まで来ると、とてもとても冷たい眼差しでオレ達を見回しました。あまりの恐ろしさに、息が止まるかと思いました。
雷が落ちたのは転校生君が一緒に食べたいのかと訊ねた直後でした。
ふざけるなと。自分は決して食事を共にしたくなどはないと。どれ程、転校生君の事が嫌いかと。
それからオレたち役員に対して、仲良くするのはいいけれど、立場をわきまえるように。周りの反応を考え、仕事をきちんとするようにと。
そういったことを、普段の穏やかさでは考えられない乱暴な言葉遣いで並べ立てました。どう言えばいいのか、髪の毛を派手な色に染めてアクセサリーを沢山つけたり、少し乱暴なことをしたりする人達のような話し方でした。英語で言えばスラング混じりです。一部聞き取れなかったり、意味のわからない言葉もありました。
ただ、言いたいことはよくわかりました。
仕事をしないことに対するお叱りのようです。
何ということでしょう。
そんなつもりではなかったと言っても、言い訳にしかなりません。ただ本当に仕事をサボるつもりはなく、また迷惑をかけるつもりもなかったのです。
確かに、前のようにはできていません。それでも、できる限り部屋に持ち帰り、時には早朝に生徒会室に行き処理をしていました。
寝る間を惜しんで、一生懸命頑張っていたつもりなのです。結果がともわなければ、意味のないことですが。
どうしましょう。もっともっと頑張らなくては。本当は転校生君のお誘いを断ることができればいいのでしょうが、気づけば承諾してしまっているのです。どうすればうまく断れるのでしょう。
いえ。他人のせいにしてはいけませんね。
ここはより睡眠時間を削るべきなのでしょう。これ以上は少し辛いものがありますが、人様に迷惑をかけるわけにはいきませんし。
そんなことを必死に考えていましたら、副会長の重たいため息が聞こえました。
「………てめぇら。やる気ねぇならいい加減生徒会やめろよ。な?」
ああ!何ということなのでしょう!
これからより精進しなくてはと決意しようものの、副会長はもう見限ってしまったようです。挽回のチャンスを貰えないほどに、怒らせてしまいました。そこまで迷惑をかけてしまっていただなんて。
どうしましょう。よくないこととはわかりつつも、あまりのショックに涙がボロボロ溢れてしまいました。気づいた副会長が、より表情を険しくしました。転校生君が、テーブルに両手をつき立ち上がります。
「なっ、泣かせるなんて最低だっ!」
違うんです。転校生君。これは己の不甲斐なさが情けなくて流れているのです。副会長のせいではありません。副会長が怖いからではないんです。いえ、怖くはありますが。
「くっせぇ口開いてんじゃねぇよ。カス」
「なっ!?」
「おい。会長」
びくりと、肩が震えると副会長は舌打ちをしました。怖がってしまい、申し訳ありません。副会長の言葉は正論です。
「会長。オレはあんたにゃ怒ってねぇよ」
あぁぁぁ。なんということなのでしょう。
怒ってないとは。それはすなわち、叱る価値すらないということなのですね。それほどまでに副会長を怒らせてしまったのですね。
涙腺が決壊してしまいました。もう、抑えることができません。元々壊れていたと言われればそれまでですが。
確かに全てはオレのせいなのです。他の役員たちは仕事をしているのです。ただ、オレに提出された後、その書類が行方不明になっているようなのです。
机に提出したと。無くしたのはオレなのだから責任をとれと。そう要求されてしまえば、やり直しを強くは頼めません。直接渡してくれればとは思いますが、こっちも忙しいのだと言われれば反論はできないのです。
結果、消えた書類を自分で作成するはめになり。期限がギリギリになってしまったり、間に合わないものまでできてしまいました。
オレが書類の管理をきちんとできてさえいれば、誰にも迷惑はかからなかったのです。
「あんたは、ちゃんと働いてただろうが」
ビックリしすぎて涙が止まってしまいました。
どういうことなのでしょう。全てはオレのせいだというのに、結果がともなっていなかったというのに、副会長は働いていたと言ってくれました。なけなしの努力を、認めてくれると言うのでしょうか。
状況をうまく理解することができずに、イスに座ったまま副会長を見上げます。ふっと、今までと一転して優しげな笑みを浮かべた副会長が、ポンとオレの頭に手を置きました。
「あんたは頑張ってたよ」
ふわっとしました。
気持ちがふわっとしました。こう…ふわっと。ふわっです。ふわっ。
信じられなくてじっと見つめていると、頭の上に置かれていた手が動いて目を塞がれてしまいました。なぜでしょう。不躾に見てしまったため、不愉快にさせてしまったのでしょうか。
「あんま…見んな」
ああ。やっぱり。ごめんなさい。
申し訳なくて気落ちしていると、ずるい、何で会長だけ、オレらだって働いてたとの声が聞こえてきました。その声は不自然に途切れてしまいましたが、はたと気づきました。
きっと副会長は誤解をしているのです。
それを伝えたくて副会長のブレザーを引っ張ります。視界を塞いでいた手が離れ、副会長の顔が見えました。
「どうした?」
「………彼らは、働いていた」
「………」
「オレが、書類をなくしたんだ」
「………………へ〜ぇ?」
低い声で薄い笑みを浮かべました。思わず、ブレザーを握りしめたまま硬直してしまいます。
すぐに、にっこりと笑ってくれましたが、今度こそ見捨てられるのではと不安が募ります。
「その書類、直接受け取った?」
「いや」
「なら会長は悪くないよ。直接渡さない方が悪い。会長がやり直す必要は、ない。………だよなぁ?あ?」
「はぃぃぃっ!」
最後だけひどく低い声になった副会長の問いかけに、役員たちは直立不動で返事をしました。
あれ?確か前はなくしたオレが悪いと言っていたはずなのですが。
「し、仕事仕事って、まだ子供なんだぞ!息抜きだって必要だろ!押しつけんなよな!」
転校生君。気持ちは。気持ちは嬉しいのですが。生徒会の仕事を引き受けたのは自分なのです。きちんと覚悟はできています。
それに…その…大変申し訳のない話ですが、その息抜きに圧迫されてしまっています。どうすればうまく伝えられるのでしょう。
「あぁ?てっめぇは口開くんじゃねぇつったろ。くっせぇんだよ。脳みそから腐ってんじゃねぇのか?この生ゴミが」
「なっ!何て事言うんだよ!大体、いい加減離れろよ!嫌がってんだろ!」
「その目は飾りかよ。どこが嫌がってんだ?あ?見えてねぇなら抉り出してやろうか?第一、迷惑かけてんのはてめぇの方だろうが」
「迷惑なわけないだろ!オレらは付き合ってんだ!」
「はっ。妄想もそこまで来ると病気だな。脳みその代わりにオガクズでもつまってんのか?」
付き合っている。転校生君には恋人がいたのでしょうか。初耳です。
「おい。会長。あいつに言いたいことあんだろ?自分の意見はきっちり自分の口で言え」
けれどうまく伝えられる自信がありません。そんな思いを込めて副会長を見上げると、また頭に手を置かれました。
なぜでしょう。なぜかとても安心します。頑張れそうな気がしてきました。
副会長のブレザーを握りしめたまま、転校生君に視線を向けます。
「オレたちの事を考えてくれるのは、嬉しい。息抜きも確かに必要だ」
「ほらみ……」
「てめえは黙って聞いてろ」
副会長の手刀が転校生君の鼻に当たりました。とても痛そうです。
「大丈夫だから続けろ」
あ。はい。
「けど、オレたちは誇りを持って生徒会の任に就いた。この学校のために尽くすと決めたんだ。息抜きは、そこまで沢山は必要ない」
「でもっ」
「それに、恋人がいるなら大事にしてやってくれ。オレたちに遠慮する必要はない」
「なっ!?」
「はっ!ざまぁっ!」
オレたちの事を気にかけて、恋人の事を後回しにさせてしまっているのならば、とても申し訳ありません。そう思っての言葉だったのですが、なぜか副会長は吹き出してしまいました。
どうしたのでしょうと顔を覗き込もうとしましたら、ぐいっと肩を抱き寄せられました。朗らかに中指を突き立てている副会長は、とても楽しそうです。
「ん?どうした?」
「いえ。何だか印象が変わりましたので」
つい、じっと見つめていますと、肩を抱き寄せたまま副会長に首をかしげられました。何も考えずに反射的に答えてしまいました。けれど、副会長は気を悪くした様子は見せず、にっこりと笑ってくれました。
「そりゃどーも」
その笑顔は何だかとても眩しいです。見ていられません。隠れるように、副会長の腹の辺りに顔を押し付けてしまいました。
尋常じゃあないぐらいに、顔が熱い気がするのはなぜなのでしょうか。
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