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 どんなにここが異世界のようでも。

 どんなに馴染むことができないと思っても。

 もう他に行き場所なんてなかった。

 幸いにも、生徒会のメンバーはいい人ばかりで。特に水瀬とは、同じクラス同じ生徒会補佐ということで大抵一緒に行動していた。おかげで仲良くはなれたけど、たまに感性の違いを実感させられる。

 だって。ゲームしよって誘ったら、普通にチェスとか将棋だとかと思われたんだよ。本当にビックリした。ゲームをしたことのない人が存在しただなんて。

 他にも色々カルチャーショックを受けることがあったけど、中でも一番ショックだったのは、

「うぅ〜…また告白されたよぉ」
「ははっ。金本はモテるな」
「笑い事じゃないよ!相手は男だよ!?」

 そう。当たり前のように男が男に告白したりするのだ。それを誰も不思議に思わないのが信じられない。

 初めてされた時はそりゃもう焦った。そういう人たちが存在してるのは知ってたけど、身近にいるとはと。しかも自分が告白される立場になるとはと。

 でも、二度三度と続く内に何かおかしいと気づき。水瀬に相談してみたところここでは普通のことなのだと教えられた。本気で家に帰りたくなった。

 確かうちの父はここの出身だが、その時からそうだったのだろうか。だとしたらんなトコに大事な息子放り込むとか。もうやだ。お家帰りたい。下界に戻りたい。

「大体、オレより水瀬の方がモテるでしょ。絶対」
「んなことねぇって」
「うっそだー」

 だって水瀬はイケメンだし勉強できるし運動神経もいいし。それに、

「あ、水瀬君。お疲れさま。それ生徒会の?」
「はい。もうじき球技大会なので」
「そっか。無理しすぎないようにね」
「ありがとうございます」
「お、水瀬。なぁ、うちの部費上げてくれよ」
「それはオレじゃなくて中臣先輩か谷原会長に言え」
「んだよ。ケチ〜」
「おー、水瀬に金本。生徒会もいいが勉強もしっかりしとけよ。特に金本。わかんないとこあったら水瀬に教われ」
「先生……そこは先生が教えるとこでは?」
「何言ってんだ水瀬。先生は色々と忙しいんだ。色々と」

 何より顔が広い。こうやって、廊下を一緒に歩いてるとしょっちゅう声をかけられる。それはつまり人望があるってことで。何てか欠点なんてあるのかな。上げるとすれば庶民感覚がないことぐらいかな。

「………金本?どうした?」
「んーん。何でもない」

 オレが仲いいのは水瀬だけなのに、何かずるいってか寂しい。とられるみたいで。オレの方が後からなのはわかってるけどさ。

「水瀬だってコクられるっしょ?」
「られねぇなぁ。まぁ、されても応えらねねぇし」
「だよねぇ」

 良かった。

 何かそれが当然みたいな空気あったから、オレが変なんじゃとか感じ始めてたけど。でも、水瀬も男相手じゃ応えられないって。

 何だかとても安心して、気分が軽くなった。だから軽口をたたいた。

「水瀬、好きな人とかいないのー?」

 バサリと、隣から書類の落ちる音がした。

 え?と思って隣を見ると、水瀬が顔を真っ赤にして固まっている。書類を落としたことにさえ気づいていないようで。

 え?あれ?軽く返されると思ってたのに何この反応。

「………水瀬?……水瀬大丈夫?」

 声をかけても反応はなく。呆気にとられながらも肩を軽く揺すってみる。そうしてようやく水瀬は我に返った。顔は赤いままだけど。

「す……好きって……な、何を突然……っ」

 瞳は潤んでるし、唇は震えてるし、でも何か必死で。何この反応。すんごくかわいい。すんごく純情。

「す、好きとか……そんなんじゃ……そ、そんな……」

 だってあの水瀬が。格好よくて、頭よくて、運動できてその上優しくて。何でもさらっとこなしてしまうあの水瀬がこんな風に取り乱すなんて。

 ふっと視線をそらした水瀬がやおらしゃがみこむ。そして落とした書類をかき集め始めた。慌てて手伝ったけれど、違う違うと呟く声が聞こえる。

 うわぁうわぁ。どうしよう。もうかわいくって仕方がない。かっこいいのにかわいいとか反則。ほっとけない。

 書類を拾い終え、立ち上がる。

「………わ、わるい。手間をかけさせた」
「何のこれしき!」

 落ち着いたように見えるけど、頬はまだほんのりと染まっている。本当はもっと詳しく話を聞きたいってかつつきたいとこだけど、でもまともに話せるとは思えない。ここはぐっとがまん。

 ただその内じっくりと聞かせてもらおう。そうしよう。

「しずちゃん、しずちゃん」
「へ?……し、し?」
「オレは応援するからね」
「あー…っと、あ、ありがとう?」

 わけがわからず首をかしげるしずちゃんに笑いかける。そんなんじゃない。違うと言っていたけど、いるのだろう。どう考えても好きな相手が。

 一体どんな人なのだろう。気になってしずちゃんを観察するようになった。時折、誰かを探してるような素振りを見せたり、窓の外を嬉しそうに見つめていたり、いそいそと姿を消したかと思えば、ふわふわした様子で戻ってきたり。

 校内の人なのだろう。それはつまり男だということになるけれど、しずちゃんがあまりにかわいくて気持ち悪いとかは思わなかった。

 むしろどんな相手なのかとか、片想いなのか付き合ってるのかとか興味がつきない。

 でもしずちゃんが好きになるほどの人だから、かなりの人格者なんだろうな。想像つかないや。あ、でも年上とか似合いそう。

「………男同士と男女じゃやっぱ色々違うのかな?」
「………金本?」
「片方が女らしくなったりとか?」

 だとしたらしずちゃんはどっちなんだろう。しずちゃんはとてもかっこよくて男前だ。だけど恋をしてるなって時はとてもかわいらしい。

「………金本、好きな奴でもできたのか?」
「まさかー。出会いなんかどこにも落ちてないもん」
「また告白されたと聞いたが」
「やめて。相手男だから。冗談でもやめて」

 必死にいいつのると、小栗は困ったような笑みを浮かべた。

 結局、親衛隊は結成された。嫌かと訊ねられて、断りきれなくて。小栗はそれの隊長を勤めている。詳しい事は知らない。聞きたいとも思わない。

 ただ、嫌がることはしない。話せばわかるとしずちゃんに言われた。だから、親衛隊とかじゃなく、友達になってくれた方が嬉しいとどうにか伝えた。

 そしたら友達のように接してはくれた。あくまでもようにだけど。だって、結局親衛隊というくくりがある。どんなに仲良くなっても、本当は友達と思ってくれてないんじゃと疑ってしまう。

 だから、オレにはしずちゃんだけ。自然と生徒会室に入り浸るようになった。

 小栗とも、それなりに親しく話せるようになったけど、まだ苦手意識がある。

「まぁ、いい。それより、どこがわからないんだ?」
「どこがわからないのかがわからない」

 そんな小栗はオレより頭がよくて、背が高くて、やっぱりイケメンだ。おぼろげながらわかり始めた親衛隊のできる条件をかねそろえている。

 何となく不思議に感じてしずちゃんに訊いてみたら、別に、決まりとしてあるわけじゃないけど親衛隊に入ってる人の親衛隊は作られないって。

 何それずるい。だったらオレもしずちゃんの親衛隊に入ればよかった。

 思わずそう嘆いたら、それは困るとしずちゃんに返された。

 親衛隊に入られたら、今のような友達付き合いができなくなってしまうと。

 ときめいたよ。

 さらりと友達だと言ってくれた。しずちゃんもオレのことを友達だと思っていてくれた。それがすっごく嬉しくて。つい抱きついてしまったのは仕方のないことだと思う。

 いいな。しずちゃんいいな。

 オレはしずちゃんの事がとても大好きで、すごく大切だ。





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