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■Typhoon
「おいかけっこ」の風紀委員の話。




「エリアD見回り終わりました」
「第一体育館、誰もいません」
「部活A棟に数人残ってましたが、帰らせました」
「エリアB生徒なし」
「エリアC同じく」
「特別棟Bオッケーだよ」
「お疲れさま。報告の終わったとこから順次帰ってください。雨が降り始めたので気をつけて。すぐそこだからと油断しないよう」
「はーい」
「了解」
「おつかれっした」

 場所は風紀室。

 接近してきた台風の影響で、授業は切り上げられ生徒たちは下校を促された。風紀委員のみ残り、生徒がきちんと帰宅したかを見回っている。

 てきぱきと指示を出すのは風紀委員長―――ではなく副委員長。委員長はイスに座り何をするわけでもなく窓の外を眺めている。

 窓ガラスをたゆませるほどの強風と雨粒を。

 何もせずに。

 その背中を見つめる副委員長はもう色々諦めていた。ここにいるだけ良しとしよう。どうせ何もしないなら会長のとこ行けと言いたいが。

 いや、言った。言ったけどきょとんとされて終わったのだ。

 付き合ってるんですよねと問えば、心底不思議そうにされた。だってなんかこの前抱き合ってたじゃないか。普段役職呼びなのに二人きりの時だけ名前で呼びあってるじゃないか。

 勘違いするなと言う方が無理がある。あーもうやってらんねぇとばかりに、副委員長は頭をかきむしりたくなった。どうにか堪えたけど。

「………あと報告の上がってないところは?」
「え〜…っと…部活B棟とエリアAと……」
「もっどりましたーっ!」
「勝ってきたぜ!」

 勢いよくドアを開け入ってきたのは柄の悪い二人組。何故かボロボロ。

「………何やってたんです?」
「帰らせたけりゃ勝負しろとか言い出してよ」
「叩き伏せてきた」

 グッと親指をつきだす二人が見回ってきたのは不良の多いエリア。誰が風紀の言うことなどきくかと、反抗するのを返り討ちにしてきた。

「全員帰らせたんですね?」
「おうよ」
「バッチリだぜ」
「お疲れさま。では早々に帰宅してください」
「副委員長は?」
「まだ報告のないとこがあるので」
「なら待ってる。風強くて危ないから送ってくよ」
「いや……」
「あ、オレもオレも」

 短髪の言葉に副委員長は眉をしかめた。送りなど不必要だ。それよりとっとと帰れと言おうとしたら、ピアスじゃらじゃらの方も便乗する。

 いいから帰れと再度口を開こうとしたら今度は携帯の着信に邪魔をされた。

「………もしもし」
―――あー副委員長?こちらエリアAですけど……
「何か問題でも?」
―――問題ってか、転校生捕獲しました
「………は?」
―――どうも風紀の目を掻い潜って徘徊してたようで
―――徘徊ってなんだよ!?オレは楽を探してんだ!
―――うっさい!静かにしてろ!会長ならとっくに帰ってる!
―――………いくら帰れつっても聞きゃあしないんすけど
「強・制・送・還」

 グッと親指を下に突き出し、めっさいい笑顔で。

――――………オレらの荷物まだそっちあるんすけど
「転校生以外残ってる人はいないんでよね?荷物は後で届けます」
―――へーい
「くれぐれも逃がさぬように」
―――へーい

 ピッと携帯を切った途端、再び着信が響き渡る。

「もしも……」
―――副委員長!ヘルプ!ヘルプミー!
「………何があったんです?」
―――コンタクト落とした!見つかんない!帰れない!
―――わめいてる暇あんなら探せ!いつまでもこんなとこいてたまるか!
―――うわぁっ!風が!風がバンって!窓割れたらどうしよぉ!?
―――ふ、不吉なこと言ってんじゃねぇよ!
「………今そっち行くからおとなしくしてて下さい」

 ピッと切った携帯を見つめる目はとても冷たかった。

「何かあった?」
「コンタクト落としたそうです」
「………だから?」
「ちょっと手伝って来るので留守を頼みます。あとエリアAは見回り終了。そのまま帰宅させました」
「あ、はい。わかりました」
「じゃあオレも行くぅ。副委員長だけじゃ頼りないしぃ」
「ならオレも」

 今度はピアスの言葉に短髪が便乗する。頼りないと言われた副委員長は無言でピアスの腹にパンチを入れた。

 何でオレだけと叫ぶピアスを丸っと無視。けらけら笑う短髪と三人、がやがやと風紀室を後にする。

 取り残された風紀委員は、一気に静かになったと辺りを見回しギクリとする。

 委員長がまだいたのだ。

 相も変わらず窓の方を向いているので、起きているのか寝ているのかすらわからない。起きているなら、窓の外など眺めて何が楽しいのか。

 することのない風紀委員は、委員長の後ろ姿を観察した。と、突然委員長が口を開く。起きてたのか。

「なぁ」
「………何ですか?」
「この棟の見回りは?」
「もう終わってますよ」
「え?」
「え?」

 思わずといった体で委員長が振り返った。

「施錠も?」
「はい」
「………雨、強いよな?」
「はい……はぁ?」

 脈絡のない言葉に首をかしげるも、委員長は構わず暫し窓の外を眺める。そしておもむろに立ち上がった。

 とことこと棚に近づき、大きめのタオルを数枚取り出す。そしてとことこと扉に向かう。

「委員長?」
「風邪ひいたら困るだろ?」

 意味がわからない。閉じた扉を呆然と見つめる風紀委員。風と雨音の響く室内がやけに静かに感じた。

 風紀委員が委員長の行動に疑問を抱いている頃、我らが生徒会長さまは困っていた。

 どれくらいかと言うとものすんごく困っていた。

 何故なら会長はこの台風の中、屋外に閉め出されていたのだ。傘も何もない状態で。

 台風が来てテンション上がった会長はせっかくだからと最上階のラウンジに来ていた。そこには大きめの窓があり眺めは最高。

 帰る生徒たちの傘や強風に揺る木々。窓に打ち付ける雨を嬉々として見ていた会長のテンションだだ上がり。そしてその勢いでラウンジのドアから屋上庭園に出て台風の強さを体感していた。

 んでもっていつのまにか風紀が見回りに来て、鍵を閉められてしまった。会長がここにいることを知る者はいない。つまり朝まで鍵は閉まったまま。

 せめて長くて丈夫な紐があればクライミングで降りるのに。でも風強くて無理か。朦朧とし始めた頭で会長がそんなことを考えていると、一瞬だけドアが細く開いて閉じた。

 気づいた会長はすぐさまドアに飛び付いた。そしてようやく中に入り込む。途端、何か白い物に包まれた。

「わぷっ」
「風邪ひくぞ」

 聞こえた声は馴染みのあるもの。身を捩って会長が顔を出すと、タオルの上から風紀委員長が抱き締めていた。

「憩?」
「すっかり冷えたな」

 なんでここに?と思ったが、きっと自分の行動などお見通しだったのだろうと当たりをつける。

 助けられた安堵から、体の力を抜き、寒気が走った。

「へっくち」
「生徒会室に着替えあるか?」
「んー。看病してくれんの?」
「えー…あ、オレに移しな。したらすぐ治るだろ?」
「看病してくれねぇの?」
「大変じゃん。楽がオレの看病して」
「面倒くさがりだなぁ」
「今さらだろ?」

 すっかり風紀委員長に体重を預けきった会長の口許には、うっすらと笑みが浮かんでいた。

 さて、探すべきコンタクトをピアスが踏み壊した頃、風紀室に会長行方不明の連絡が入った。連絡主は副会長。生徒会役員が会長の元を訪れようとしての発覚だった。

 急遽捜索が開始される。が、生徒会室の仮眠室ベッドにて抱き合うようにして眠っている会長と風紀委員長を発見し、副会長が悲鳴を上げるのは―――割愛させていただくことにする。





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