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 生徒会室の風景



7月×日


 二人の生徒がそれぞれ机に向かい作業していた。

 一人は黒髪をオールバックにした整った顔立ちの北条泰虎。眉間のシワをいつもより五割増しにして書類を睨み付けている。

 もう一人は色素の薄い柔らかい髪で綺麗な顔した英黎一朗。いつもは柔和な笑顔を浮かべているが、今は殺気に満ちている。

 二人の前には書類の山。

 一切の会話はなく、黙々と手を動かしている。

 コンコン

「っよーござまっす」
「おはようございます」

 ドアを開き、新たに二人が入ってくる。

 あくびを押し殺しているのは、明るい茶髪の軽い印象の少年、鳴海朔夜。その隣に立っているのは背の高い黒髪短髪の真面目な優等生然とした久遠寺誠。

「久遠寺、先輩方がまだ来ていない。探しだして連れてこい」
「はい」

 書類から顔を上げもせずに、北条が声をかける。

「引きずってでも連れてこい」
「二・三発殴っても構いませんから」
「………」

 同じく机に向かっている英が、やはり書類から顔を上げずに指示を付け加える。構わないとの言い回しだがむしろ殴ってこいと言外に伝えている。

「おひ…英先輩?」
「ふふっ何がですか?鳴海くん」
「……何でもありません」

 殺気だったまま浮かべる笑みは、はっきり言って不気味だ。

「鳴海はそこにあるリストの資料を用意しろ」
「終わったらこっちのを全てパソコンに打ち込んでくださいね」
「え?それはオレの仕事じゃ……」
「ならお前があいつらを連れてくるか?」
「う。ごめんなさい。わかりました。今すぐ取りかかります」
「あぁ、その前にお茶を」
「僕にもお願いします」
「………了解しました」

 久遠寺と鳴海は一度顔を見合わせて、それから各々の仕事に取りかかった。



7月○日


「おはようございます」
「おは……あれ?北条先輩、お姫サマは?」

 久遠寺と鳴海が生徒会室に入ると、中で仕事をしているのは北条一人。英の姿はなかった。

「………体調不良で休む、と連絡にはあった」
「………体調不良?」

 北条の言葉に、鳴海は首をかしげ、久遠寺は表情を曇らせた。

「心配、ですね。後でお見舞いに……」
「いや、止めといた方がいいよ」
「え?」
「ね?北条先輩」
「あぁ、止めとけ」

 鳴海に声をかけられた北条は顔を上げもせずに同意する。
「素直なのはいいけど、何でも額面通り受け取っちゃダメよ?まこっちゃん」
「え?」
「限界ぽかったからなー。オレもできるなら、今すぐみぃちゃんに会いたいから気持ちはわかるけど」
「鳴海」
「はいはい。無駄口叩いてないで働きます。ちなみに先輩は?探さなくて良いんですか?」
「仮眠室で休憩している」
「そ。じゃ、まこっちゃん。そっちは任せた。オレはこっちを片付ける」
「………?あ、あぁ」

 訳のわからないまま久遠寺はとりあえず机へと向かった。

「と、その前に。お茶ほしい人〜?」
「頼む」



7月△日


「お茶をどうぞ」
「ありがとうございます。鳴海くんのいれてくれるお茶はいつも美味しいですね」
「どーも」

 湯飲みを渡した鳴海に英が礼を言う。へらっとした笑みを浮かべる鳴海に対し、英の笑顔はいつもの五割増し輝いて見えた。

「……あの、北条先輩」
「気にするな」

 昨日体調不良で休んでいたにしては、やけに元気過ぎやしないか。先日までの殺気は見事に消え去り、ニコニコご機嫌最高潮。

 その代わり映えについていけない久遠寺が北条に説明を求めたが、にべもない返事。一体昨日何があったのか。

「昨日は迷惑をかけてしまい済みません。今日、その分働きますから」
「いえいえ、いーですよ。元気になって何よりです。その綺麗な笑顔が見れたから、疲れも吹っ飛びました」
「ふふっ、おだてても何も出ませんよ」
「本当ですって」

 体調不良で休んで、元気になったわけではないとわかってて鳴海は言う。言っていることは本心。

 いくらブチ切れそうな仕事量とはいえ、殺伐とした空気の中では余計にストレスが溜まる。和やかな雰囲気ならば幾分、気も紛れるというものだ。

 だから、昨日の事については問い質さない。

 そんな二人を見つめながらしきりに首をかしげる久遠寺。北条が小さく息をついた。

「久遠寺」
「…はい」
「お前なら、この惨状の中、体を崩したからといって休むか?」
「いえ、休みません」

 無理を押してでも出てくる。即答すると、北条は一つ頷いた。

「なら、英はどうだ?」
「…え?」

 告げられた言葉に、久遠寺はわずかに首を傾ける。

 言われてみれば、確かに英も休みそうにはない。休んでくださいと言っても、やんわりと拒絶しそうな性格だ。

 ならばなぜ、休んだのか。何が限界だったのか。

 ゆっくり考えて、一学期の出来事を思いだし、北条の言わんとしていることを察して顔が赤くなった。

 その様子を見届けて北条は手元の書類に目を戻す。眉間のシワはわずかに深くなっている。

 一週間やそこら会えないぐらいで何だと言うのだ。

 英の首筋についたキスマークについては、誰一人言及しなかった。





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あきゅろす。
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