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ねおきの密談




「あ?どこだ?ここ」

 天井は、見覚えある。つーか、どこもここも同じだろ。で、だ。むくりと起き上がって辺りを見回す。

 シンプルを通り越し殺風景な寝室は、オレの部屋じゃねぇ。オレのとこはもうちょい物があって、センスがいい。

 どこだここ。

 あー…まぁ、あれだ。考えるまでもなかったか。この広さはどう見ても役つきの部屋だ。んで、現状あの屑どもは論外。他でこのオレを寝室に連れ込むなんざ畏れ多いことをやってのけるのは、一人しかいねぇ。

「お、目ぇ覚ましたか。会長サマ」
「……風紀。お前朝シャン派か」
「………寝起きの一言目がそれかよ」

 当たりをつけると同時にドアが開いた。そこにいたのは思った通りの人物。オレの推理が外れるわけねぇんだから当然だ。

「目覚ましにひとっ走りしてきたんだよ」
「そうか」

 ずかずかと近寄ったそいつはどさりとベッドに腰かける。呆れたような失礼な顔した風紀は、上半身裸で、濡れた頭にタオルを置いている。

 服を着ろ。ナルシストめ。

 つか何、その腹筋。ムカつく。

「………かてぇな」
「………何やってんだ?」
 ムカつくから腹にチョップを喰らわしてやった。なのに思いの外固い。なんだこれ。鉄板でも仕込んでんじゃねぇの。

 確かめるように風紀の腹を撫でる。

 オレだって、筋肉はほどよくついている。だが、ここまであったら異常じゃねぇか?この筋肉ダルマめ。

「おい。いい加減にしろ」
「はっ!くすぐってぇのかよ?風紀のくせにやわだな」

 さわさわ触っていたら手首を掴まれて邪魔をされた。バカにしたように笑ってやれば、なぜか風紀はニヤリと笑みを浮かべる。

「やわだぁ?だーれが疲れきってぐーすか寝こけてた会長サマを、わざわざあったかーいベッドまで運んでやったと思ってんだ?」
「あぁ?それしきのことで威張るなんざ、ずいぶんと器がちぃせぇな」

 激レアなオレの寝顔を拝めたのだから、むしろ感謝しろ。

「立場が分かってねぇようだなぁ?」
「うぉっ!?」

 掴まれていた手首を押され、ベッドの上に倒れ込む。風紀がのし掛かってきて、片頬が掌に包まれる。

 何だこの体勢。何か覚えがあんだけど。

「お礼の仕方ってやつを、教えてやろーか?会長サマ」

 つっと親指が目の下をなぞる。くつりと笑った風紀の髪から冷たい水滴が垂れ、額の上に落ちた。

「風紀」
「あ?」

 捕まれていない方の腕をまっすぐ上に伸ばす。風紀はわずかに目を見開いたが、構わず見つめ合ったまま奴の頭に触れる。

「髪ぐらい乾かしやがれ。オレの顔が濡れたじゃねぇか」

 がしがしと、頭に引っかけたままになっていたタオルで乱暴に髪をふく。くそっ。片手だとやりずれぇ。そろそろ手を離しやがれ。

「………ありえねぇ」
「あ?」
「何でもねぇよ」

 風紀が忌々しそうに身体をどかす。何だこいつ。不審に思いながら身を起こす。風紀はこちらを見ずに髪をふき始めた。

「………おい」
「あぁ?」
「風呂入る」
「はぁ?起きたんならとっとと帰りやがれ」

 オレだって、風紀の部屋に長居したいとは思わねぇ。でも今は猛烈に風呂に入りたいんだ。昨日入らずに寝たせいで、物凄く落ち着かない。今すぐ入りたい。

「着替えよこせ」
「………………」

 だから風紀の言葉を無視して風呂場に向かう。背後ででかい溜め息が聞こえたが、知ったこっちゃねぇ。

 一風呂浴びて、すっきりと部屋に戻ると、何やらいい匂いがした。

「ついでだ。食ってけよ」
「おぉ、風紀のくせに気が利くな」

 手料理っつーのが気になるが。まぁ、見た目も匂いも悪くないし、食えなくはないだろ。

 かたりとイスに腰かけ、用意されていたブラックコーヒーに口をつける。すると対面で同じようにコーヒーカップを傾けていた風紀と目があった。

「で?」
「あ?」
「どーすんだ?」

 どーすんだって何をだよ。きちんと目的語を入れて話せ。てめぇとツーカーの仲になんぞなりたくねぇよ。っても、現状で打開策が必要な事案は一つきりなんだが。

「解任するぜ?もちろん」
「へぇ?」

 挑発するように言えば、ニヤニヤと笑みを浮かべた。

 そもそもこいつと向い合わせで食事など違和感しかねぇ。けど、そう思い口に運んだスクランブルエッグは意外と……いや、食えなくはない。食えなくは。

 何でこんな良い感じにとろとろなんだよ。微妙に面白くねぇ。

「仲間じゃねぇの?あっさり切るんだな」
「はっ」

 何言ってやがるバカじゃねぇの。風紀以外の言葉なら確実にそういっている。楽しそうにしているこいつは、答えをわかっていて問いかけてきている。

「仲間じゃねぇよ」
「くくっ、会長が屑ども放置してんのは健気に戻ってくんの待ってるからつってる奴らがいるが?」
「バカじゃねぇの?」

 お、このベーコンは良い具合にカリカリだ。………ムカつく。

「警告は発した。期日も示した。それを無下にしたのはあいつらだ。責任はとらせる」

 昨日、風紀に提出したのは今年度の文化祭に関する書類。どの教室で何を行うか。ステージのタイムスケジュール。どこに、何が設置されるか等をまとめてあった。

 問題がなければ、後はそれを元に風紀が当日の見回り経路を作成するのみ。その他、各参加団体に対する予算編成。外部への発注。来賓名簿の作成。貸し出す備品の希望調整。

 それら書類にオレ以外の役員のサインはない。

 細々とした作業はまだ残っているが、アウトラインは風紀に渡した書類にて完成した。これ以降の仕事は役員でなくとも行うことができる。屑どものすべきことは、もう、ない。

「たった一度の過ちでか?」
「お前なら、切らないとでも言うのか?」
「まさか」

 ニヤリと、鏡を見るように同じ表情が目の前にある。

「オレならもっと早くに切ってるな。そう……例えば、各参加団体との会議。第一回目に参加しなけりゃやる気なしと見なす」
 やっぱ、風紀は風紀だ。嫌なところを突いてきやがる。

「会長サマの設けた期日は長すぎたからなぁ?おやさしいこって」
「………どんなにオレが有能でも、オレは一人しかいねぇからな」

 見切りをつけたのは、悔しいがこいつと同じ第一回目の会議の時。だが、そこですぐに解任するには時間が足りなかった。

 オレは一人しかいない。

 文化祭の準備。解任のための書類作成。更には解任後の新しい役員の選出、もしくは投票の準備。それらを短期間に一人でこなすのにはさすがに無理があった。

 期日をずらせないのは、文化祭関連の仕事。残りは目処がついてからに回す。

 だからといって、解任の通告のみを先に行ったら、書類を揃えるまでの間に面倒を起こされる可能性がある。んでもって、期日を伸ばすことになった。

「………てめぇこそ、洗脳された下っぱ放置してんじゃねぇか」

 くだらねぇとばかりに肩をすくめた風紀が、トーストにかぶりついた。

「除名するに決まってんだろ。使えねぇ奴らはいらねぇ。どーせなら役員の解任と同時の方が手っ取り早いだろ?会長サマが動かねぇんだったらリコールするとこだ」

 ぐさりと、サラダにフォークを突き立てる。

 つまりは、オレが動かなけりゃ、オレともどもリコールする気だったつーとこか。良い度胸してんじゃねぇか。

「それに、学園内も大分荒れてたしな」

 そっちが本音だろーが。





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