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夏休み




「はっ……や…待っ、て」
「ダメ。待てない」
「………んっ」

 息があがって、呼吸がうまくできない。素肌の上を滑る手がやけに熱い。舌に身体を舐められ、熱が灯る。

「ふっ……な、んで」
「何で?何でって訊くの?」

 太ももの付け根に軽く口付けられ、それから唇を塞がれる。差し込まれた舌が口内を蹂躙し、身体が疼く。

「わからない?」

 僅か1mm程だけ離れた唇。近すぎるその距離がもどかしい。

「わかん…なっ」

 嘘。

 本当はわかってる。こんなことになるとまでは思っていなかったけど。

「んっ……ふぅ」

 ほんの少し、顎を上げれば唇が触れる。先程より、もっと深く重ねられる。離したくなくて、腕を伸ばし首にすがり付く。

「……んぁ、っ」

 ももを撫でた大きな手が、優しく熱の中心を包み込み緩く抜く。やがて限界を迎える。が、

「………っ、な…」

 あと少しというところで、手が離されてしまう。

「まだ、ダメ」

 恨みを込めて見上げれば、目元にちゅっと唇をつけられた。目の前にあるきれいな顔が、笑みを浮かべている。

「……っ、はっ」
「大丈夫?」

 いつの間にかローションをつけた指が一本、ツプリと体内に侵入してくる。ゆっくりと優しく、中を蠢く指。

 二本、三本と増える間、ひたすら顔に首筋に降り注ぐ唇。空いている方の手は絶え間なく肌の上を這って、否応なしに熱が高められていく。

「……つぅ…やぁ」
「や?じゃあ、やめる?」

 ず、るい。

 指が引き抜かれ、熱を押し当てられた時に溢れた言葉。思わず出た声を拾い上げられた。

 答えなんて、わかってるくせに。コツンと額を合わせて、わざとらしく訊ねてくる。

「や…だ……やめ、ないで」
「何を?」

 首に絡めた腕の力を強める。

「……やく…い、れて」

 声に出せば叶えてくれる。熱いものが、ゆっくりと入ってきて息がつまりそうになる。

「……っ、はっ」
「力、抜いて」

 僅かに掠れた声に促され、意識的に呼吸する。やがて全てが入りきり、二人して息を整える。

 薄く目を開けば、視界に入ったきれいな顔には汗が浮かんでいた。苦しげに寄せられた眉。熱い吐息を肌に感じ、身体に快感が走る。

「も、い…から……動いてっ」
「……っ」
「……ぅ…あ、あぁっ」

 イイ所を突かれ、前を抜かれ、絶頂を迎えるにさして時間はかからなかった。

「……ん、はぁ」
「………はっ」

 満ち足りた充足感の中、宥めるように落とされる口付けがくすぐったい。けれど熱を放ったものが引き抜かれる気配がいつまでたってもない。

 首をかしげる内に、肌に触れた唇が再び熱を灯し始める。

「え?…ちょっ」
「まだ、足りない」
「ちょっ…も、ムリ」
「大丈夫」

 それに、と額同士を合わせて目を覗き込まれる。

「お仕置きって、言ったよね?」

 最高に色気のある顔が、意地の悪い笑みを浮かべていた。

「ま、待って…悪かっ……」
「もう、遅い」

 今さら焦っても手遅れで、そのまま意識を失うまで何度も啼かされ続けた。







「……信じられない」
「………」
「ありえない」
「………」
「ムリって言ったに」
「………」
「恋人相手に無理矢理犯すなんてっ」

 うつ伏せに寝転がり、枕を抱き締めたまま顔だけを横に向け睨み付ける。ベッドの端に腰掛け、ずっとオレの髪を撫でていた先輩の手がふと止まった。

「無理矢理じゃ、ない。自分でいれてって言ったんだよ」

 にっこりと笑ってのたまう先輩。

 目を覚ました時には、身体はきちんと浄められ服まで着せてくれていた。先輩の服で少し、少しだけ大きいけれど。

 先輩自身もシャワーを浴びたのか、さっぱりと身支度を整え終えていた。

 時計を見たらとんでもなく時間が過ぎていた。熟睡していたせいだと思いたい。

「それより、お腹空いてない?」
「………空きました」

 身体の向きを変え両手を伸ばすと、易々と抱えあげられる。それが何だか悔しくて、目の前にある首筋に軽く歯をたててから吸い付く。

 残された赤い印を一舐めして、少しだけ満足。先輩が小さく笑ったには、気づかないフリ。

 ソファに下ろされた後、時間が時間だからと、用意してくれたのは軽食。並んで頂いてからはまったりくつろぎタイム。

 でもまだ話は終わっていない。

「で?どうしてあんなこと言い出したの?」

 先輩の片腕に頭を抱き寄せられ、髪を撫でられている。もう片方の手は、先輩の膝の上でオレの片手を優しく包み込んで。

「どうしてと言われましても……」
「せっかく、久しぶりに会えたのに、ショックだったんだよ?」
「けど、夏休みですし、普通は家に帰りませんか?」
「帰りません」

 いや、帰りますよとは言えず苦笑してしまった。拗ねた先輩は何だかかわいい。

 今朝、というかすでに昨日、先輩の部屋を訪れた。ドアを開けた先輩は嬉しそうな顔をしてくれたけど、オレの台詞に凍りついた。

 実家に帰らせていただきます。

「あの言い方、わざとでしょ?」
「まぁ、そうですね」
「会いたいの我慢してたのに、いきなりあんなこと言うなんて」

 我慢してたのは、オレもですよ。

「生徒会の引き継ぎ、大変なんですか?」
「引き継ぎというか、前任者の後始末が、ね」
「あぁ、それは大変そうですね」
「……本当に」

 うんざりと呟かれた後、眉間に口付けの気配を感じた。けれど、先輩を見ることはせずに、手の甲を撫でる親指の動きを眺めていた。

「……会えなくて、寂しかった」
「……オレも、です」

 生徒会の仕事が忙しくて、仕方がないのはわかっていた。それでもやっぱり寂しさは募り、家に逃げ帰ろうと思った。気をまぎらわせるために。

 実家に云々というのは、ご愛嬌。

 先輩は悪くないけど、少し焦らせたかった。ちょっとした悪戯心。これで構ってくれたら嬉しいなというわずかな期待。

 けれど効果は予想以上だった。

 硬直が解けた先輩は難しい顔してオレの腕をつかんだ。問答無用で室内に連れ込まれ、ベッドに投げたされる。上にのし掛かれ告げられた言葉は、

 離れるなんて、許さない。そんなこというならお仕置きする。

「けど、生徒会の方は平気だったんですか?」
「一日くらいは平気でしょ。それに、君の方が大切」

 次期生徒会副会長様が一生徒を優先させて良いのでしょうか。個人的にはものすごく嬉しいけれど。

「でも、朝、早いですよね?もう寝ます?」
「随分、積極的だね」
「そういう意味じゃ、ありません」
「わかってるよ」

 包まれていた手の向きを変え、指を絡めてぎゅっと握りしめる。

 寝るかと訊ねはしたが、まだ起きていたい。もう少し、この空気の中にいたかった。

「で?本当に帰るの?」
「……迷ってます」

 本当は夏休みの間もずっと先輩と過ごしたい。けれど今の様子を見ると、寮に残ったとしても会うのは難しそう。

 近くにいるのに会えないのは辛い。

「どうせならここに住む?」
「……へ?」
「そうすれば毎日会えるよ」
「いやいやいや」
「夏休みの間だけでも」
「バレたらどうするんです」
「大丈夫だよ」

 にっこりと言い切る先輩。

 確かに、先輩に不可能はなさそうだけど。

 まだ返事をしてないというのに先輩の中ではすでに決定事項となってしまったよう。困惑して見つめていると、一言。

「帰さないよ?」

 そんな風に言われたら逆らえるわけないじゃありませんか。ずるいな。本当に。

「帰るなんて言ったら、鎖で繋いじゃうから」

 冗談めかして告げられた言葉は、脅迫になどなりはしない。むしろ、甘い響きでもって胸を満たす。

 けれど、

「そんなことしなくたって…」

 ちゅっと軽く唇に口付けて。

「オレはとっくに先輩に繋がれてますよ?」

 離れられるわけが、ないんです。





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