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■ほわほわきゅん
恋に興味津々な会長様の話。
第三者(風紀平委員)視点。




「……春だなぁ」
「………」
「……恋の季節、だな」
「………」
「あぁぁ〜……恋してぇ」

 どうしようよ、これ。

 職員室に書類を届けて、ちょっと寄り道して風紀室に戻れば、一番奥の一番偉そうな机に優等生と不良が並んで座っていた。

 優等生と不良ってか。うん。風紀委員長と生徒会長だけど。

 一度も染めたことのない真っ黒な髪は清潔感溢れる短髪。パンフレットに載せられるくらい校則通りの制服の着こなし。惜しむべきは冷徹な視線が眼鏡でカバーしきれていませんな我らが委員長。

 その隣に座るは対照的な人物。まっ黄色に染められた長めの髪。じゃらじゃらとつけたアクセ。着崩しすぎてそれ本当にうちの制服?な服装。共通点といえば長身と、目付きの鋭さだけな生徒会長様。

 優等生と、それに絡む不良にしか見えないけど、

「つーか、せめぇ」
「ここ、僕の席。文句あるなら出てけ」
「お前がどけよ」
「やだよ。…あ、クリップとって」
「ほい」

 肩がくっつくぐらいの至近距離で座ってんだから仲いいんだよね。幼等部からの付き合いらしいし。

 何で会長が風紀室にいるかはスルーの方向で。

「委員長。戻りました。これ、来週までに提出だそうです」
「ん。次は寄り道しないように」
「………はい」

 やっぱバレたかと視線をそらすと、会長と目が合った。何か殺す勢いで睨まれてるんですけど。やだ。怖いこの人。

「おい」
「何でしょう」
「恋ってどんなんだ?」

 何この質問。

「………とりあえず、あー…いいもんですよ?」
「だよなぁ。……あぁ〜恋してぇ」

 がんっと額を机に打ち付ける会長様。どうしようと思ったら、委員長が書類を捲る手を止めて会長様を見ていた。心なしか冷たい目で。

 ここは委員長に任せることにしてこっそり自分の席に戻る、とイスがなかった。そうか。会長様が使っているの、オレのか。

 仕方がないので隣のイスを拝借して、腰を下ろす。近くにいた仲間が口パクで何か伝えようとしてきたけど……そんなんじゃわかんないって。

「……うっとうしい」
「うっせー」
「そろそろ生徒会室戻れば?」
「あんな空気がどピンクなとこ帰りたくねぇ…」

 どピンク。いい得て妙だ。

 数日前、会計が長年の片想いをようやく成就させた。ことあるごとに生徒会メンバーに相談していた会計はもちろん報告した。

 その祝賀ムードの中で庶務がいいなぁだか自分も恋したいなぁだとか言ったらしい。そしたら書記が、

「なら、オレと恋してみる?」
「へ?」
「ずっと狙ってたんだよね」
「は?え?何言って…」
「好きだつってんだよ。なぁ、オレと恋しようよ」
「………はぁっ!?」

 さらりと告白なんぞして、あからさまにアプローチをかけ始めたとか。庶務も逃げ腰ながら落とされつつある様子で。

 さらには会長が仲間だと思っていた副会長ですら、

「あ、オレ許嫁いるから」

 休みの日しか会えないけどラブラブなんだよね、と。

 気がついたら孤立無援だったと。

「………リア充滅べ。庶務なんかとっとと掘られちまえ」

 会長様。それ、暴言です。

「………そんなに言うなら親衛隊の子にでも声かければ?」
「違う。ヤりたいんじゃない。恋がしてぇんだ」

 純情ぶる会長様。言葉と見た目がギャップありすぎ。

「………同じでしょ」
「ちげー。こう、ふわふわしてそわそわして…嬉しかったり泣きたくなったり。ほわほわきゅんってなったりするんだと」

 甘酸っぱくて、くすぐったいんだとよと嘯く会長様。

 何その乙女思考。

「オレが知らねーつーのにあいつらが知ってるってマジムカつく」

 と思ったら何か違った。どんだけ負けず嫌いなんだよ。そこ張り合うとこじゃないでしょうに。

 ちらりと様子を伺えば、机に額を押し付けたままの会長様と、気にせず書類にメモを書き込んでいる委員長。

「……お前は気にならねぇのかよ」
「ならないよ」
「はっ、お堅い委員長様はんな下らないことにゃ興味ないってか?」

 鼻で笑う会長様に、委員長は何てことないように事実を告げる。

「てか好きな奴いるし」
「―――っ!?ブルータスっ!お前もかっ!?」

 ガタンと勢いよく立ち上がる会長様。委員長はうるさそうに少しだけ眉をしかめた。

「誰がブルータスさ。騒ぐんならいい加減出てけよ」
「聞いてねぇぞ!?」
「そりゃ言ってなかったからね」

 力なくイスに座り込み、肘をついて項垂れる会長様。そんなにショックなのか。

「………裏切り者」
「もっどりました〜!あれ〜?会長チャンどうかしたの?」

 力一杯ドアを開けて入ってきたのは、むしろお前が取り締まられる側だろと言いたくなる副委員長。

「………お前、こいつに好きな奴いるって知ってたか?」
「えっ!?うっそ!会長チャン知らなかったの?」

 信じらんないと大げさなリアクションをとる副委員長に、会長様は机の上にあったファイルを顔面めがけて投げつけた。

「ぶふっ」
「おいごらぁ!知ってた奴ぁ全員手ぇあげろっ!」
「ちょっと。大きな声出さないでよ」

 会長様の掛け声に風紀室にいた委員のほぼ全員が手をあげる。もちろんオレも。まぁ、こうなるわな。納得の結果だけど会長様は違ったらしい。

「………そんなに有名なのか」

 風紀委員限定ですが。

「言っとくけど、自分で言ったわけじゃないから」
「そうそう。見てればわかるって。気づかなかったなんて会長チャン、ニ・ブ・チ・ン」

 つんと額をつつこうとした副委員長の人差し指を、会長様はがしりとつかみ反らした。

「いだ。い゛だだだだ」
「………見てりゃわかるって、身近な奴ってことだよな?誰?」
「ちょっと、会長チャン。痛い。痛いから離して」
「………何?気になるの?」
「え?ねぇちょっと。無視しないで。折れる。指折れちゃう」
「当然。てめぇに好かれるなんざ災難な奴、面ぁ拝んでみてぇだろ」
「痛い。痛い。会長チャン、痛いって。愛が痛いよーっ」

 あ、委員長イラッとした。

 そして副委員長うるさい。少し黙れ。会長様もうるさいと思ったのかぺしっと副委員長の指を捨てた。

「なぁ、誰?」
「教えない」
「ケチ。あぁ〜…オレも恋してぇ〜」

 唸るようにして机に突っ伏す会長様。委員長はめんどくさそうにため息を吐き捨てた。

「………会長チャン、恋したいの?オレとかどう?」
「断固拒否する」

 顔を上げもせずに即答。

「ひどっ!イヤなとこあるなら言ってよ。直すよ?」
「全部」
「んなっ!」
「存在そのもの」
「ひ、ひどいっ!委員長!会長チャンがひどい!」
「どこが?」
「っ!?委員長もひどい!」

 一向に静かにならない副委員長をきれいに無視して、会長様は机に頬をつけたまま委員長を見上げる。

「で、誰?」
「………まだ訊くの?」
「気になんだろーが。教えろよ」
「………なら、後で僕の部屋来なよ。そこで教えてあげる」
「お?」
「ついでに君が気にしている恋がどんなんかも存分に」
「言ったな?根掘り葉掘り訊いてやるから覚悟しとけよ?」

 今夜は寝かせねぇなんて会長様は意気揚々としてるけど。顔を見合わせた風紀委員一同の心は一つになっていた。

 とうとうこの時が来たか、と。

 そして翌日。会長様は錯乱状態にあった。

「庶務!オレが悪かった!」
「へ?な、何ですかいきなり」
「掘られちまえとか言って悪かった!」
「っ!?んなこと言ってたんすかっ!?」
「………会長、近すぎ。もっと離れて」

 庶務の両手を握りしめて詫びを入れる会長様。その距離が面白くなかった書記が間にわって入ろうとしたけど、会長様の方が素早かった。庶務を背後に庇い、

「やいっ、書記てめぇ!庶務に惚れてんならてめぇがケツ差し出しやがれ!」
「会長っ」

 あ、庶務がきゅんてきた。

 そんな光景を少し離れたところで傍観しつつ、隣にいる委員長に言葉をかける。

「………委員長、昨日何したんですか?」
「まだ、手は出してないよ」

 手は出してない。

 なら何をしたのだ。

 聞こうと思った時にはすでに委員長は騒動の中心へと向かっていた。気づいた会長様が威嚇している。

「てめぇっ!こっち来んな!寄るな!触れるな!視界にはいんじゃねぇ!」
「はいはい。わかったから、少し黙れ」

 う〜ん。気になるなぁ。

「どうかした?」
「会長様、何があったのかなって」
「ふぅん」

 いつの間にかよってきた彼は、返事を聞くとふいっとそっぽを向いてしまった。その態度に内心で苦笑する。

「何?やきもち?」
「………別に」

 そっけない態度の彼の手をそっと握れば、一瞬こちらを見て慌ててまた横を向く。繋いだ手は振りほどかれない。耳はわずかに赤く染まっている。

「そ、そう言えばさ」
「ん?」

 明らかに話題を変えようとしてきたので、それに合わせる。

「昨日、委員長の部屋から会長が飛び出してきて、どこがほわほわきゅんだって詰め寄られたんだけど」

 本当に何をしたんだ委員長。

「………春だねぇ」
「ん?……ん。春だね」

 よくわかっていない彼、数日前から付き合い始めたオレの恋人、またの名を生徒会会計にふんわりと笑いかける。こっちを向いてくれた彼も、首をかしげながらふんわりと笑ってくれた。

 少なくとも、オレは今ほわほわきゅんしています。





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あきゅろす。
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