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すいみん不足




 眠い眠い眠い。

 あー、もうマジ眠い。

 マジあいつらムカつく。校内引き回しの上、逆さ吊りの刑に処してやろうか。屋上から。切れやすいボロボロのロープで。ふははは。

 あー、ヤバイ。眠い。

 頭くらくらする。足元ふらふらする。まぁ、端から見ればわからんだろうが。何たってオレ様だし?会長様だし?弱味見せるわけにはいかねーのよ。

 今だってほら、パッと見には廊下を颯爽と歩いている。誰も寝不足で頭ん中がヤバイことになっているとは思うまい。どうだ。凄いだろう。褒めろ。讃えよ。崇め奉れ!ふはははは!

 ……………………

 あー……マジヤバイ。眠すぎてハイになってる。これもそれもあれもどれも全部あの無能どものせいだ。

 恋をするなとは言わねぇ。勝手にすればいい。誰が誰に恋をしようがオレには関係ないし、興味もねぇ。例え相手が未知との遭遇でも。

 言いたいことはただ一つ。

 オレ様に迷惑かけんじゃねぇ。

 仕事してる間に別の奴にとられる?ハッ。安心しろよ。んな悪食てめぇらだけだって。親衛隊の制裁が心配?てめぇらが節度あるアプローチしてりゃ、そこまで過激にゃならねぇよ。そもそも手綱握れてねぇのが問題だろうが。

 挙げ句の果てが親衛隊最低だと?セフレだと?ふざけんじゃねぇ。何バカ言ってやがる。オレ様のかわいくて有能な親衛隊をコケにしやがって。

 最低最悪人間の屑はてめぇらの方じゃねぇか。

 あー、ムカつくムカつく。

 そして眠い。

 いや、あと少しの辛抱だ。頑張れオレ。この書類を風紀に提出して通ればひとまず落ち着く。そして明日は土曜だから、時間気にせずに睡眠を存分にとれる。

 できんなら、今すぐここで寝てしまいたい。横になれば三秒でお休みできる自信がある。大体オレの用意した案が通らないわけなどないから、風紀の確認などとる必要ないのに。

 しかもこのオレ様自らわざわざ書類を手渡しに行くなどとは。世の中色々間違っている。欲しいなら向こうが取りに来るべきだ。こうしている時間すら惜しいのに。

 風紀。

 風紀なぁ。正直、今この状態であいつに会いたくはない。万全の状態で対峙してこそなのだ。気乗りしねぇんだよ。すぐに回れ右して仮眠室に引きこもりてー。

 まぁそんなことしねぇけど。屑どもとは違うからやるべきことは果たすさ。

 それにしても眠い。

 果てしなく眠い。

「おい、ふーき!いるか!?」

 勢いよく開いた扉の先には、ちょうど風紀一人だけ。しかもイスに座ろうとしてたとこで、中腰とか。ふははは。変な格好。笑っちゃれ。

「あぁ?会長サマ直々に何の用だよ」
「ん」

 もう近づくのも面倒なので、閉じた扉に寄りかかり書類をつきだす。おら。ほしけりゃ取りに来いよ。

「…………何やってんだ?とっととこっち来いよ」

 ヤダよ。オレはもう少しも動きたくないんだって。

 だと言うのに風紀は机に寄りかかり腕を組んで待っている。イスに座るの止めたなら、お前がこっち来いよ。何そのニヤニヤ。ムカつく。

 このままでは埒が明かない。短く舌打ち、ずかずかと風紀に近寄る。その胸に書類を投げつけてやった。

「あ?………んだ、これかよ。随分と遅かったじゃねぇか」

 遅くねぇよ。期日ギリギリだろ。ギリギリ。間に合ってんだから文句言うんじゃねぇよ。

「?はやくしろよ」

 何、書類見ずにこっち見てんだよ。オレは早く帰って、つっても自室じゃねぇが、寝たいんだ。

「いや?随分とお疲れのようだな。会長サマ?」
「はぁっ!?つかれてねーし!」
「ほぅ?」

 確かめるようにのばされた手を、力の限り叩き落とす。周りに弱味を見せるわけにはいかない。特にこいつになど見せられるわけがない。

「の、ワリには隈がひでぇじゃねぇか」
「ぐ」
「口調もいつもの覇気がなくて幼ぇし」

 どこがだよ。いつもと同じだ。

 そう言ってやりたいが、舌足らずになっている自覚はある。だから極力口を開かないようにしてたのに。つーか、ほとんど喋ってねぇんだから気づくなよ。

「…………ま、これはこれで」
「あ?」

 何か聞こえた気がするが、風紀は答えずにくつくつと楽しげに笑いだす始末。わけがわからん。

「はやくしろ」
「まぁ待てよ。別に疲れてねぇんなら急ぐ必要ねぇだろ」

 あるって。

 んでこんな所でのんびりしなきゃなんねぇんだよ。オレはもうしんどいんだってば。こうやって立ってるだけで辛いんだ。

 まぁ、口が裂けても言わないけど。

 あ?何書類机の上に置いてんだよ。とっとと中身確認しろ。そしてオレ様の才能に脱帽するがいい。

 って

「うぉっ!?」
「よいしょっと」

 ぼんやりと書類の行方を眺めていたら、気がついたら風紀の手がのびてきて。気がついたら、ソファの上に投げ倒されて。気がついたら、マウンドポジションをとられていた。

 あー……、これはヤバイ。

「せっかくだし、気持ちイイコトしようぜ?会長サマ?」

 ヤバイな。

 この体勢だとか抵抗する気力も体力もないことだとか貞操の危機だとかではなくて、このソファの柔らかさがヤバイ。

 オレは今、猛烈に眠いのだ。

 滅茶苦茶ヤバイ状況だというのに、全く持って危機感を抱くことができないほどに。体がずぶずふと沈んでいく。

「やけに大人しいじゃねぇか。抵抗はなしか?」

 ニヤリと笑う風紀が、頬を撫で首筋に触れる。何か言っている気がするが、音が意味をなさない。脳みそが停止している。

 ゆっくりと近づいてくる風紀の顔。それに合わせるように瞼を閉じる。

 オレはそこで意識を手放した。






「…………寝やがった」

 ここで寝るかよ普通。

 唇の触れる寸前に、聞こえてきたのは寝息。ありえねぇ。マジありえねぇ。

 体を起こして髪をかきむしる。

 何もこんな所で本気で手を出そうとはしていない。いつ誰が来るかわからないのだから。

 押し倒したのは、あれだ。ストレス発散のための八つ当たり。そしていやがらせ。

 こいつんとこの無能ども+αのせいで連日忙しい。生き物とは進化し続けるものだというのに、あいつらは日々退化し続けている。

 昨日などとうとう人語すら使えなくなっていた。宇宙人語を操っていた。ちょっと待て。どこで覚えてきた。そんなもの。

 あまりにも話が通じず、実力行使に出れば多少大人しくはなったが。

 だがすぐに元の木阿弥。学習能力すら放棄していた。

 もういっそ屋上から紐なしバンジーでもさせるか。それがいい。

 ふははは。

 あー、疲れる。

 まぁ、こいつよりはましだが。何を隠そう、実はこちらサイドにも洗脳された奴が数人いる。しかし元々の絶対数が違うのだ。確かに人手は少ないが、足りなくはない。ギリギリだ。

 こいつのように一人で回すなど、どこの我慢比べた。

 だから、こんな状況に陥っている。

 敵地であるこの部屋で前後不覚になるなど。天敵であるオレに無防備な寝顔を晒すなど。

 今までならばあり得なかった。それほどまでに疲れているのだろう。

 弱った相手に手を出しても面白くもなんともねぇ。だが、寸止めも面白くねぇ。

 起きたら覚悟しやがれ。





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あきゅろす。
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