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 オレの周りには変態ばかりだ。

―――それでイス引っ張ってきて隣で休憩したんだけどさ。会長さん緊張しすぎて手が震えてうまく紅茶飲めなくって。それでも話しかけると一生懸命に答えてくれるから、もう、ホント可愛いったらありゃしない!
「うぜぇきめぇ」

 毎回毎回無駄にテンションの高い電話をかけてくる変態。しかも、声は平淡なのが余計キモい。テンション、高いんだか低いんだかはっきりしろ。

 イライラと、手にしたペンで机を叩く。

―――冷たいなぁ。会長さんとは大違い。会長さん、休憩終わって席戻ろうとしたらものすっごく寂しそうな目してさ。あれ?ワンコ会長?みたいな。思わず抱き締めちゃったらオーバーヒート!頭から湯気出して気絶しちゃった。というわけで今、仮眠室で休ませて、念のため保険医呼びに行ってんの
「廊下できしょいことくっちゃべってんな歩く公害」
―――あは、大丈夫だよ。人通りのないとこ歩いてるし

 だいたい会長が可愛いだぁ?んなたまかよ。あの役員どもまとめてるってとこは認めるが、すかした面して気に喰わねぇ。

 つかこいつに惚れてるなんざ趣味悪すぎ。

「で?動くのか?」
―――うん。動くよ

 手元の書類に、赤ペンで丸をつける。眉間にシワがよったのがわかった。

―――まぁ、まだはっきりとは決めてないけど、とりあえず転校生君に誰かお相手見つけてあげないと。これ以上引っ付かれてたら会長さん不安にさせちゃう
「あの愉快な仲間か」
―――まさか
「あ?」
―――だって、あの人たち別に転校生君のこと好きじゃないし
「はぁ?」

 くるくると回していたペンを取り落とす。イラッとした。イラッと。

―――恋愛じゃなくて友愛。LoveじゃなくてLike!understand?

 無駄に発音よくて余計イラつく。電話越しだから殴れないのが腹立たしい。

「取り合ってるとかなんとか言ってただろうが」

 事実、ところ構わず引っ付き回っている連中の目撃情報がいくつも報告されてきている。こいつ自身、そんなことを言っていたくせに何を言い出すのだ。

―――それは妄想。現実との区別はちゃんとついてるよ。副会長はほぼ恋愛感情だけと、他は違うし。転校生君に副会長は無理だし。だから他にいい人見つけて!って

 言ったじゃんとの明るい声に、頭をかきむしる。聞いてねぇよ。

「地獄に堕ちろ」
―――ひどっ

 区別ついてんなら混ぜて話すんじゃねぇよややこしい。キモい妄想垂れ流すんじゃねぇ。

 大体こいつは自分のことをやれ平凡だ、やれ腐男子だとぬかしてやがるが、そこからして嘘っぱちじゃねぇか。

 全国の平凡及び腐男子諸君に土下座で許しを乞いやがれ。

 こいつは生粋のゲイだ。生まれながらのゲイだ。筋金入りのゲイなのだ。

 ここに入学してきたのだって生BL目当てとかではない。同性愛が受け入れられるからだ。男同士の恋愛なんざ見てはしゃいでるのだって、恋に憧れる女子供が少女漫画に嵌まるのと同一だ。くだらねぇ。

 一番好きなカップリングが平凡×男前なのだって、自分の好みが男前だからに他ならない。

 平凡×男前?

 ぬかしやがれ。どこが平凡だこの野郎。ただの変態じゃねぇか。変態×男前だろうが。相手が不憫だ。

 あぁ、相手は会長か。

 全てが奴の妄想でなければ。

―――もしかして会長さんの話ばかりしたから妬いてるの?Dealing
「むしろ清々するぜ?Honey」

 くれぐれも、オレにだけは迷惑かけるんじゃねぇと言い聞かせたところで、保健室に着いたらしく通話が切れた。

 切れた携帯を机の上に投げ捨てる。

 イーニーミーニーマイニーモー
 トラの足をひっ捕まえろ
 吼えたら放してやんな
 イーニーミーニーマイニーモー

 何かを選ぶ時に奴がよく口ずさむ歌。何を決めかねていたのか最近よく聞くようになっていた。だがもう決めたのだろう。

 あぁ、もうめんどくせぇ。

 手元の書類を乱雑にまとめ、資料室のドアを力任せに開く。室内にいた数人が雑談を止めこちらに視線を向けた。一睨みすればすぐに己の仕事に戻る。

 自分のデスクに着くと、すぐに熱いお茶が用意された。

「おい。この資料を今すぐ生徒会室持ってけ。んで、向こうの様子を報告しろ」
「はい。わかりました」

 資料室で処理した書類の束を渡すと、すぐに飛び出す。廊下を走るんじゃねぇって何度いや理解すんだ。

 一枚だけ、手元に残した紙に視線を落とす。赤丸で囲まれた名前が、それだけで苛立たしい。

「……赤塚ァ!」
「はい。お呼びですか、夏川様」

 呼べば瞬時に目の前に立つ美丈夫。しっかりとついた筋肉も高い背丈も存在自体がムカつく。が、苛立ちを押し込めて紙を見せる。

「こいつ、ブラックリスト入り確定」
「…………」
「内密に監視つけとけ」

 示した名に、赤塚は驚きを隠せずにいる。その様に気が晴れる。

「…………ブラックリスト?監視ですか?保護ではなく?」
「何寝言いってんだ?」

 デスクの上に肘をつき、組んだ手にアゴをのせにっこりと笑いかける。僅かに頬を染め、ビシリと固まる赤塚。腹の内で盛大に舌打ちした。

 周りから、天使の笑みと言われるこの表情。しかしその実態は正反対。それを知っていて喜ぶこいつに苛立ちしかわかない。

「こいつはな、入学当初から暫定ブラックリスト入りなんだ」

 トンッと、置いた紙の上に指先を落とす。

 前委員長副委員長コンビと、オレしか知らないことだが。つか、そもそもそのせいでオレは今このポストにいるわけだが。

「何をしたのですか?」
「何も?あぁ、そうそう。あくまで監視だからな。何があっても決して手を出すんじゃねぇ。奴の行動を逐一報告しろ」
「……制裁を受けそうになっても放置しろと?」
「…………お前、オレの話聞いてた?その耳飾りなら切り取ってやろうか?」

 だから、嬉しそうに頬染めんじゃねぇよ。キモい。

「わかりました。ですが……その、」
「何だ?」
「理由は?」
「それがお前に関係あるのか?お前はただ黙ってオレに従ってりゃいいんだよ」
「っはい!」

 嘲りの笑みをくれてやれば、顔を真っ赤にする。何が嬉しいんだよこの変態。

 あぁ、頭がいてぇ。

 本当に、オレの周りは変態ばっかだ。





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あきゅろす。
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