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Catch a tiger by the toe.




 どうやらオレは、転校生君に好かれたらしい。

 転校生君が引っ付いて、放してくれません。

「壬允、壬允、みーのーぶー!」
「うぉっ!?」

 名前を連呼され、背後から突撃する勢いで抱きつかれる。

 苦しい。苦しい。

 ちょっと、内蔵飛び出そう。

「どこ行くんだよ!オレをおいて帰ろうだなんてひどい!今日は一緒にゲームするって約束したじゃねぇか!」
「………い…いそら、く…」
「真行!」
「………いそ」
「ま・ゆ・きだってば!」
「………」
「………おい、真行。そいつ、息止まってる」
「えっ!?」

 一匹狼君の言葉に慌てて離れる転校生君。Good job!一匹狼君。おかげで一命をとりとめた。

 眼差しに、何だか憐れみが込められているのは気にしないことにしよう。

「わ、悪い!」

 心配そうに覗き込んでくる転校生君に、大丈夫だと笑いかければ嬉しそうにはにかんだ。

 う〜ん。まずいなぁ。

「あ、そだ。どこ行こうとしてたんだよ!先生に呼び出されたのか?」
「………違うよ」
「他の友達のとこか?ならそいつも呼べよ。人数多い方が楽しいだろ!」
「………………違うよ」
 ごめんなさい。お友達は一人しかいません。しかも彼は校内では他人の振りをします。あ、何か心が痛い。

 ついでに手首も痛い。

 離れないようになのか力強く握られていて。

「だったらおいてくなよな!壬允はすぐどっか行っちまうんだから!」
「うん。ごめんね」

 ここでこのクルックルの天パ撫でたりしたらすごく喜ぶんだろうね。しないけど。

「………おい、帰るんなら早くしろよ」
「そうだな。…あっ!」

 大声を出した転校生君。視線の先を見れば、教室の入り口から顔を半分だけ覗かせてこちらをじーっと観察している人物がいた。

 あぁ、かわいそうに。ドア横の生徒。身動きできなくなっているよ。必死に背景になろうとしてる。

「正己先輩!どうしたんですか?」
「来てしまいました。迷惑でしたか?」

 転校生君について、というか引きずられてドアに近づく。腕もげる。

「まさか!これから部屋でゲームするんですけど、一緒にやります?」
「ご一緒していいのですか?」
「もちろん!人数多い方が楽しいし」

 うれしそーにはにかむ副会長さん。サラッサラの前髪が顔半分隠れてるけど、それでもきれいな顔してる。

「おーい、乙葉!早く帰ろう!」
「…おー」

 転校生君が他所向いた隙に、じとりと睨んでくるし。本当、これにはにやけそうになる。

「あ、副会長先輩もう来てる」
「………」

 横から聞こえた声に、副会長はますます面白くなさそうな顔になった。本当は二人きりが良いんですね。独占欲つよ。

「お、庚」
「お昼ぶりです。真行先輩。ついでに北村先輩も」
「どうも」
「庚も来んだろ?つーか来いよな。昨日のリベンジだ!」
「そう言うと思って来たんですよ」

 爽やか君と話ながら廊下に出た転校生君に引きずられて歩く。ちょっと待って。まだカバン持ってない。

「………」
「…あ、ありがとう」

 一匹狼君が無言でカバンを渡してくれた。しかも、そのあと一瞬肩に手を置くとか。何この展開。

 一匹狼×平凡か!?

 いい!これで巻き込まれ平凡がオレでなきゃめちゃ萌える。惜しい。あぁ〜惜しいなぁ。ビクビク怯えながらもなついてく平凡がいれば。そんでもって健気!これは譲れない。

「ま・ゆ・きちゃ〜ん!」

 トリップしかけてると廊下に響く声。次いで転校生君に背後から抱きつく人影。

「今、教室行こうとしたのに〜。おいてかれたなんてショック!」
「うわぁっ、かのと!?あれ?放課後は課題あるって言ってなかったか?」
「一緒に帰りたかったから、授業中に内職して終わらせたよー」

 おんぶお化け状態の会計がニッコニコ笑っている。それを睨む副会長。爽やか君の笑顔も少し黒くなってる。

「………金本先輩、真行先輩重そうなので離れてください」
「えー?やだー。もっとくっついてたいー」
「金本君。離れてください」
「えー、ちぇー」

 渋々離れるも、ちゃっかり隣を確保している。なかなかやるね!

「今日もゲームすんでしょ?オレもやる〜」
「おうっ!」

 ほぼ同じテンションで会話する二人。時折爽やか君も口を挟む。そして副会長。会話に入りにくいからって、他人の足を蹴飛ばしながら歩かないで。地味にダメージが。

「あ、アコちゃんだ!おーい!」
「おーい、アコ!」

 階段の下にいた書記を目ざとく見つけ、大きな声を出すハイテンションコンビ。

 別の方、廊下の先を向いていた書記がこちらをに振り向いて、ペコリと頭を下げる。

「アコも来るか?昨日の続き!」
「………行っていい?」

 こちらではなく廊下の先、ここからでは壁が邪魔して見えない位置にいる誰かの了承を得て、書記がコクリと頷く。

 どうでも良いけど転校生君。腕を引いて階段を降りるのはいかがなものかと。いまさらですが。

「水瀬さんは?」

 階段を降りきると書記のとなりには会長がいた。しかもちょうど踵を返そうとした会長の腕を書記がつかんで止めたとことか。しかも、会長にも来てほしいとは。

 ワンコ書記×俺様会長!?

「あ、静葵!静葵も来いよ!」
「………オレは、いい」

 こちらを見回した会長と一瞬視線が合うと眉間に力が込められた。さらには転校生君がオレの腕をつかんでるのを見ると、ますますシワが深くなる。しかもふいっとそっぽ向くし。

 やっぱここは会長→転校生か?王道通りなら会長×転校生だし。ふふふ。

「えー?何でだよ!静葵も来いよ!一緒の方が楽しいだろ!」
「そーだよ!会長もおいでよ!一緒に遊ぼー」
「真行。金本も。会長さん何か用事あんだろ。ダダこねるな」

 おいでコールに顔をしかめた会長さんを助けたのは一匹狼君だった。これは…どっちだ?

 一匹狼×会長か?会長×一匹狼か!?どっちでもおいしい!

「静葵、何か用事あんのか?」
「………あぁ」
「じゃあ終わったら来いよ!」
「………………」
「なぁ、来いよ!絶対楽しいって!こないだは後から来るつって結局来なかっただろ!……はっ、まさか一緒に遊ぶのが嫌なのか!?」
「………そんなんじゃねぇよ」
「じゃーいいだろ!なぁ、いいだろ!壬允たちだって、静葵がいた方が楽しいだろ!?」

 そう言って、つかんだ腕をブンブン振り回す。ちょっ、もげる。腕もげるから。

 会長がいた方が、確かに色んなカプを妄想でき………ゲフン。えー、楽しそうだけれど、なぜ来ないのか会長。転校生君に興味はあるようなのに。

 はっ、まさかやっぱりアンチなのか!?他役員仕事放棄で一人で頑張ってるのか。会長、嫌われからの総受けか。それとも溺愛攻めに助けられるのか!?

「………………行けたら、行ってやる」
「絶対だかんな!待ってるからな!」
「行けたら、つったろ」

 そっぽを向いたままの会長。

 ………ツンデレか?ならば転校生×会長か?それはそれであり!

 腕は痛いし、地味なダメージ受けるし、お呼びだしのお手紙がきてたからまたこっそり抜け出してお説教されなきゃだけど、こんな感じの日々で萌え補給は足りている。

 一人になると、どっと疲れが出るけど。

 腕痛いけど。

 願わくばアンチにはならないでせめて非止まりで。固定カプ(多カプ)ハピエンならなおよし。

 その場合はどのカプが良いだろうか。悩みどころ。

 まぁ、どう転んでも転校生×平凡もしくは平凡×転校生はありえないけど。

 そしてできれば、腕もげる前に。





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あきゅろす。
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