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気持ち悪い?




「華がない」

 そう、突然言い出したのはサエさんだった。

「あー…、確かに。男ばっかだもんな」

 と、同意したのはトメ。

「華ならちゃんといるじゃないか」
「あー…、だってヤエ。良かったね」
「わーい。ありがとう悟」

 否認したのは悟さんで、続けたのはサエさん。ヤエがその言葉に喜びを見せる。

「むさ苦しいから女装してきなよ」
「せっかくの申し出だけど、道具何も持ってきてないからなー。ごめんね?悟」
「どこをどうしたらお前のことになるんだ。オレが言ったのはサキちゃんだ」
「アハハ!何寝言、言ってんの」

 悟さんの訂正を笑って切り捨てるサエさん。そして、

「え!?男なのか!?」

 何故か驚きの声を上げたのが月都。その視線の先にはヤエが。

 ヤエを手伝って食事の準備をし、今は皆で食卓を囲んでいる。囲んでいると言っても、シキとトメと悟さんはイスのある方に。残りの面子はソファの前のテーブルと二ヶ所に分かれている。

 サエさん曰く、元々は向こうの三人だけのはずだったとか。のわりには会話は少ないけれど。

 さほど離れていないので、別の食卓と言うほどでもない。

「何言ってんの?」
「だって、今、女装って」
「え?月都、ヤエのこと女って思ってたの?アハハ!良かったね、ヤエ」
「いやぁ〜ん。嬉しいわぁ。私そんなに女らしかったぁ?」
「カマキャラっ!?」
「「アハハ!」」

 遊ばれてるなぁ。

 楽しそうなのは良いことだ。何となしにシキを見ると、呆れたような楽しそうな顔をしている。不意にシキが目線を動かし、目が合いそうになったので月都たちの方へ視線を戻した。

「でもさ、冗談抜きで本気でオレのこと女だと思ったの?普通にしてたんだけどな」
「う」
「でもほら、ヤエ女顔じゃん」
「えー?でもタッパはそれなりにあるよ」
「だ、だって」
「………月都のお母さん、ヤエと同じぐらいあるよね」

 助け船のつもりではないけど、思ったことを口にしてみる。月都は千切れんばかりに大きく頷いた。

「へぇ?何センチ?」
「え?何センチだろう?」

 困り顔で月都がシキを見る。シキは忌々しそうに眉をしかめた。

「百八十」
「知ってるんだ」
「越えたら潰すっつわれた」
「オレ、ギリセーフだ。トメ完璧アウト」
「どうせ会うこたねぇだろ」
「でもいくら身近にいるからって、珍しい方じゃん」
「そ、それに、さく…うちの姉よりは女らしく見えたし…」

 桜子ちゃんも十分可愛らしいと思うけど。まぁ、格好よくもあるか。

「聞いた?悟。オレ女らしいって」
「………何でオレにふるんだ」
「だって、ヤエ悟の愛人じゃん。ねぇ?」
「ねー?」
「サキちゃん!?」

 思わずといった体で悟さんが立ち上がる。月都もビックリした顔をしていた。ビックリして、キョロキョロして、気まずそうにそわそわし始めた。

「オレにはサキちゃんだけだ!」
「はいはい」

 確か付き合っているはずなのに一方通行に聞こえるやり取り。それを聞いた月都が、またビックリしていた。

「な、なぁ」
「ん?」

 そっと寄ってきた月都がこそこそと話しかけてくる。なので顔を寄せて小さな声で応じた。

「その…あの、悟とか言う奴、サキのことがその、す、好き、なのか?」
「………らしいね」

 どこか様子がおかしくて、首をかしげながらも答える。すると、躊躇うように、恐る恐る言葉を続けてきた。

「じゃ、じゃああいつホ…ゲ…ゲ……どう………ゲイ、なのか?」
「あー…」

 単語の選択に、大分迷って出てきた問いかけ。確かにそうとしか見えないのだろう。納得してしまった。

 小声とはいえ、近くにいるサエさんとヤエにはしっかり聞こえていたようで。サエさんは腹を抱えて脇にあるソファをベシベシ叩いて笑い転げている。ヤエも、顔をそらしていてよくわからないけど、肩が思いっきり震えていた。

 聞こえていなかった三人は、訳がわからないって風にしている。月都は戸惑いを隠せずにいた。

「………どうなんだろうね」

 悟さんの性癖など知らないから答えようがない。けれどサエさんに一目惚れだったと聞いたから否定しきれない気がする。

「………月都さぁ」
「ひいっ」

 笑いすぎて瞳に涙を浮かべたサエさんが、ずずいと近づき、月都の肩を力強く抱き寄せた。

「そういうのダメ?気持ち悪いとか思う方?」
「…あ…う」

 チラチラと辺りを見回し、ごくりと唾を飲み込んだのがわかった。

「き……気持ち悪くは、ない。………ただ、そのびっくりして」
「へぇ?偉いじゃん。じゃあお兄さんがイイコト教えたげる」
「へ?」

 おもむろにサエさんが月都の手を取って己の胸にあてがった。訳がわからずキョトンとしていた月都だけれど、徐々に顔が赤らみ目を見開き始めた。

「え?…な、え?……あ…う、うわぁっ!?」

 サエさんの行動の意味がわかったのだろう。肩に回された腕を力の限りに振りほどき逃げ出した。

 そのままこちらに突進してきたので、重心を少しずらして避ける。と、月都はバランスを崩して顔面を床に打ち付けた。

「ぐっ」
「あぁ、ごめん。つい」
「え?触ってわかるくらいにはあんの?」
「ああそっか。下の方が分かりやすいか」
「っ!?」

 サエさんとヤエの不穏な会話に、月都ががばりと起き上がりオレの後ろに隠れる。

「………サエさん、それセクハラ」

 何だか憐れになって、にじり寄ってくるサエさんに忠告する。悟さんの呆然とした顔も気になるし、これ以上はちょっと。

「えー?これくらいセーフっしょ?」
「完璧アウトだから。それに…」

 すっと視線を悟さんに向けると、サエさんは納得したようにああと呟いた。

「悟も触りたい?いーよ。ほら、おいで」
「サキってば大胆〜」
「サキちゃん!?もっと慎みを…っ」
「アハハ!何それ。どこで売ってんの?」

 トメが引きぎみにこっちを見てる。まぁ、仕方ないのかな。当然の反応だろうし。でも、サエさんよく悟さんにもセクハラ行為してるはずだけど、知らないのかな。

 シキは、どうなんだろう。

「お、女なのか?あれで?」

 信じられないと言う月都の声が背後から聞こえ、様子を見ようとシキに向けかけた視線を止めた。

 何か、ヤエの時以上に納得できてない様子だ。まぁ、これも仕方のないことか。制服を着てても間違われるくらいだし。ましてや私服、それも男物を身に付けていれば女だと思う方がどうかしている。

 不意に、月都が服の端を引っ張った。

「ん?」
「つ…椿は、男で良いんだよな?」
「椿。食べ物なくなってきたから、何か追加でお願い」
「………わかった」

 口を開く前にサエさんからのオーダーが入った。立ち上がりかけに、月都に答える。

「男だよ。オレは」

 それ以外の何者でもない。





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