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○○○パーティ




 そして件の土曜。

 行くぞと言われてついて行ったら、マンションを出たところで月都と出くわした。シキの姿を認めると顔を輝かせて駆け寄ってくる。

「シキっ!椿も。どっか行くのか?」
「ああ。お前は今帰りか?」
「おうっ。あ、そうだ」

 何かを思いだし、月都が手にしていたカバンを漁り出す。取り出したのは一枚の紙。それをシキに渡す。

「図書館にあった。シキ、好きそうだと思って」
「へぇ、おもしろそう」

 何だろうと思い、横から覗き込む。カラクリ人形展のチラシ。興味を惹かれて呟くと、二人の視線が集まった。

「椿もこういうの興味あんのか?」
「ん?うん」

 僅かに首をかしげ頷く。へぇと呟く月都の頭に、シキが片手を置いた。

「月都。サンキュ」
「あ、うん」

 くすぐったそうに笑みを浮かべ、それからシキとオレとを見比べた。

「二人はどこ行くんだ?」

 どこに、行くのだろうか。

 それは是非ともオレも知りたいところである。シキを見ると、何やら思案顔で月都を眺めていた。何をしているのだろうと観察していると、不意にこちらを向く。

 無言で見詰められしばし、再び月都に視線を戻す。

「………お前、今から時間あるか?」
「え?あ、あるけど?」
「なら来るか?」
「え?どこに?」
「来るのか来ねぇのか、どっちだ」

 やっぱり、言う気はないんだ。すぐにわかるはずだから良いんだけど。でも、月都にはちゃんと選択肢を与えるんだ。

「行く!」

 逡巡を見せたのは一瞬で、元気よく答える。まぁ、こうなるよな。シキも、わかっていたのか口許に笑みを浮かべると行くぞと言って歩みを再開した。月都も後に続く。

 少しだけ距離をあけて歩き始めた。

 目的地にサエさんもヤエもいるとわかっている。今さら一人増えたところで、何もないはずなのに。何だかなという思いが浮かぶ。

 月都はキラキラした表情でシキに話しかけている。なついてるよなぁ。一緒にいられるだけで嬉しそう。

 それだと、オレもシキになついてることになるのかな。月都と同じで。はたから見ると、ああやって顔を輝かせて。

 同じ。同じか。

「………」
「椿?」
「………ん?」

 ぼんやりと前を行く背中を見ていたら、シキが足を止め振り返った。あけていた間を、気持ち早足で詰める。

「何?」
「………いや」

 何でもないと首を振る。けれど僅かにおかしそうな表情で。よくわからなくて首をかしげると、月都も首をかしげていた。

「シキ?」
「ん?」
「………えっと、やっぱ何でもない」
「変な奴」

 軽く笑って、ごく自然な仕草で月都の頭に手を置いた。変って、自分だって人のこと言えないくせに。そう思いながら頭の上の手を眺めた。

 ガチャリと、インターホンを鳴らしもせずにシキが開いたのはやはりと言うか悟さんの部屋。

 おっかなびっくりの月都に続いて中に入る。玄関には見覚えのある…と言うかサエさんの靴があった。

 もう、来てるんだ。

 シキがリビングのドアを開き、中に声をかける。サエさんの声が聞こえてきた。

「よう」
「お、主役が到着した」

 主役?

「お邪魔しま……あ、サエさんカッコイイ」
「ありがとう」

 フッと笑みを浮かべたサエさんが、ひらりと手を振る。ので、振り返す。イスに腰かけたサエさんはスクエアのノンフレーム眼鏡をかけていた。何か新鮮でカッコイイ。

「………シキ。その子は?」

 そう訊ねてきたのはサエさんの対面に座る悟さんで、今日は下フレームの眼鏡をかけている。

「月都だ」
「は、初めまして」
「どーも」
「………」

 サエさんはにっこり笑って、悟さんは眉間にシワを寄せた。二人の間のテーブルの上にはどうやらチェス盤があるよう。ここからだとよく見えないけれど。

「月都。眼鏡の方が悟。かけてない方がサキ」

 微妙な沈黙が訪れた。

「………シキ、サエさんも眼鏡かけてるよ」
「あ?」

 振り返ったシキが顔をしかめてもう一度前を向く。サエさんが大声で笑った。

「あはははっ、勝った!シキ、本当に他人に興味無さすぎ!」
「サキちゃん笑いすぎ」
「勝ちってなんだよ。つーか、眼鏡かけてたか?」
「悟と賭けてたんだ。いつもはかけてないよ。これは借りただけ………これ、シキの分ね」

 サエさんから眼鏡を渡され、シキは悟さんの隣に腰かける。近づくとこっちは椿の分と、やはり眼鏡を渡された。

「月都の分は用意してないや」
「オレが見繕ってやる。こっちだ」

 何故か勢いよく立ち上がった悟さんが、そのままのペースで書斎とは違う部屋に入っていった。一体どうしたと言うのか。

「あ、逃げた」
「逃げた?」

 盤上の駒に視線を落とし、首をかしげる。

「悟さんの方が有利なのに?」
「盤上ではね。盤外は違うから」

 何をしていたのだろう。

「………シキ」
「………」

 戸惑いを含んだ声で月都がシキに話しかけた。けれどシキはただ肩を竦めるだけで答えない。何度か悟さんの入っていったドアとシキを見比べる。

 やがて覚悟を決めて、月都は恐る恐るドアを開いた。

「ほら椿、座りなよ」
「あ、うん」

 サエさんに促されて隣に座る。シキの方を見ると渡された眼鏡をかけずにテーブルの上に置いていた。

「眼鏡かけないの?」
「えー…っと、どうしたのこれ?」
「悟の」
「じゃなくて」
「ん?……あぁ、メガネパーティ?」

 一瞬だけ、ちらりとシキに視線を向け小さく意味ありげな笑みを浮かべた。何故疑問系なのだろうか。

「何だそれ」

 憮然とした声で訊ねたのはシキ。知らなかったのだろうかと首をかしげる。連れてきたの、シキなのに。行けばわかると言ってたのに。

「ヤエと眼鏡の話で盛り上がってさ。したらなんか集まるって聞いたから便乗した」
「すんなよ」
「いーじゃん、人数多い方が楽しいし。シキだって他人連れてきてんだし?」
「………」

 言い負けたのか、シキが眉間のシワを深めてそっぽを向く。

 何となく、手元の眼鏡に視線を落とした。手の中にあるそれはシルバーフレームのシンプルなもの。





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