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お喋りしましょう




 ちょうど良い頃合いだったので、お昼を食べることにした。校舎の中でも食べられるところはいくつかあったけど、外に出た。

 縁日のようにテントが並び良い匂いも漂っている。興味の引かれたものを適当に買い、外に運び出されていた席に腰を下ろす。

 創作料理も何個かあって面白い。

 黙々と焼きそばを食べている椿の姿に悪戯心が疼いた。これ美味しいよと、食べていたお好み焼きもどきを一口、椿の口許へとやる。

 あ〜ん、をやってみたかったのだけれどあっさりと拒否された。何だ。流されてくれないのか。ならばと、代わりに一口ちょうだいと口を開けて待てば、ためらいを見せながらも一口食べさせてくれた。

 食べさせ合いはできなかったけど、まぁ満足。

 一休みしてから、校庭に設置された簡易舞台へと向かう。校舎の窓からも見えるように作られていた。

 何組か歌って、お姉さんは最後に登場した。開始から徐々に周りのテンションは上がっていっていて、トリともなると盛り上がりは最高潮に達している。

 歓声が半端ない。

 あぁ、若いなぁ。青春の一ページだなぁ。なーんて思いながら隣を見れば、周囲のようなノリではないけれど椿もすごく楽しそうに、嬉しそうに舞台を見つめていた。

 きっと、自慢のお姉さんなんだろうな、なんて。

 ほのぼのと笑みを浮かべる事ができた自分にほんの僅かに満足する。

 お姉さん達が舞台の袖に引っ込んで司会が出てくると、椿に付いて観客の群れから離れる。

 椿には観客席で待ってて良いと言われた。司会の挨拶を挟んで、次は漫才やコントをやるらしい。楽しいのは好きだけど、一人で見ててもねぇ。こっち、付いてきた方が面白そうだけど。

 まぁ、お姉さんに挨拶だけして後は席を外すつもりだけど。

 裏手の、関係者以外立ち入り禁止と書かれた辺りで作業している生徒に声をかける。

「すみません。十波先輩はいますか?」
「………んぁ?」
「おー、一城。十波か?」
「はい」
「ちょっと待ってな。今呼んできてやっから」

 声をかけた相手ではなく、奥にいた別の生徒が気さくに答えてくれた。顔見知りなのかな?あれ?でも、十波?

 そうしてやってきたのは、先程まで舞台の上で歌っていた椿のお姉さんだった。

 苗字、違うんだ。

 目が会うと、お姉さんはあれ、と何かを思い出そうとするように首をかしげた。あーやばい。もしかしたら面が割れてるかも。

 気がつかれる前に友達ですと挨拶すると、目を見開いた。やっぱ、驚くんだ。けどお姉さんはすぐに嬉しそうな、安堵したような笑みを浮かべた。

 一言二言話して、後はお若い二人でと見合いの席のような台詞を残して離れる。

 どうしようかなと思ったけど、屋台で食べ物を買い、椿達の姿が見える位置で花壇の縁に腰かけた。

 何を話してるのかは聞こえないけど、仲が良いなぁと眺める。それから膝の上に置いといたフランクフルトを食べようと顔の向きを変え、光太の姿を見つけた。

 向こうもこちらに気がついたので、満面の笑みを浮かべておいでと手招きする。

 逃げ腰ながらもちゃん近づいてきた。

 えらい、えらい。

「ヤエさん、友也は?」
「お姉さんと話してるよ」
「……あぁ」
「光太くん、今自由時間?」
「はい」

 そうかそうか。自由時間か。よし、それならとニッコリ笑顔で隣を叩く。

「………え?」

 戸惑う光太に、そのままの笑顔でもう一度隣をポンポン叩く。

 その手とオレを見比べて、意味を理解し、少し悩んで隣に座った。

「あの、何か?」
「んー?別に用はないよ?あぁ、そうだ。これをあげよう」

 まだ手をつけていなかったフランクフルトを光太の口許に近づける。条件反射のように口を開いたのでこれ幸いと中に押し込んだ。

 よし。今度は成功。

 目を白黒させてて面白い。手を伸ばしてきたので串を離し渡す。きちんと咀嚼して飲み込み、

「………ありがとうございます?」
「ふはっ」
「……何なんですか?」
「え〜?餌付け?」

 不可解そうに、眉間にシワを寄せながらも完食する。

「……ごちそうさまです」
「ふふっ、もう怖いのなくなったー?」
「……あー…」

 気まずそうに視線をさ迷わせた。本当、分かりやすいなぁ。

「…え〜っと、何か、そのすみません」
「え〜?何が〜?」
「……その、えっと…」

 アハハ。言い淀んでる。言い淀んでる。面白いったらありゃしない。

「……何か、本当、すみません」
「アハハッ!オレ、そんなに怖かった?」
「いえ。……ただ、人は見かけで判断できないと言うか何と言うか…つい…」

 人は見かけで判断しちゃダメ〜って、どっちかってっと反対に使うんだけどね。見た目怖くてもそうじゃないって。

「てか、サキは?怖くないの?」
「まぁ、何だかんだ言っても家族ですし」
「へ?」
「え?」
「親戚なの?」
「あれ?友也から聞いてません?」
「うん」
「オレの兄とサキの姉が結婚したんです。そんでもって、今サキも一緒に暮らしてるので」

 ほぅほぅ。確か椿とサキが同棲云々と言っていた。と、言うことはつまり、

「そんでもって、友也も一緒なのか。大家族だね」
「そーですね。でも、両親は仕事で滅多に帰ってきませんし、サキは外泊が多いですし、友也は今シキさんの所にいるので兄一家と同居みたいな感覚です。まぁ、下の兄はしょっちゅう帰ってきますけど」
「へぇー。お兄さん二人なんだ?」
「はい。下の兄は一人暮らししてるんですけど、割りと近くだし、よく帰ってくるんで、家出た意味あるのかどうか」

 その人達が前に言っていた兄みたいな人かな。多分。過保護って言っていた。

「ふふっ、じゃあ、サキとはお兄さんが結婚してからの付き合いなんだ」
「はい。あ…でも、友也はその前からですけど」
「ん?」
「兄たちが付き合い始める前に、サキと知り合ってたみたいです………多分、オレとより長いんだよなぁ…」

 後半は思わず零れたといった独り言で、下手をすれば聞き逃すところだった。

 色々と気になる呟きではあるが、そろそろ話を本題に移そう。さて、うまく引っ掛かってくれるかどうか。

「従兄弟って言ってたけど、母方なんだよね?」
「はい。母親同士が姉妹なんです」

 なるほど。じゃあ、光太くんのお母さん旧姓が一城なのか。

「十波の家って、やっぱ離れてるの?」
「らしいですね。しかもちょうどここを挟んで逆側にあるらしく」
「ハハッ、そっかそっか。でもじゃあ、もしかしてお姉さんに会えるのって学校でだけ?」
「つーか、むしろそのためにここ選んだんですよ。なのにあいつときたら留年なんかして。奈美江、今年で卒業だって言うのに」
「うーん。でも仲良さそうだし、疎遠になることはないんじゃない?再婚は?」
「おじさんは、してます」
「あー、じゃあ会いにくそうだね」
「………」
「んー?何ー?」

 椿達の方に向けていた視線を光太に戻すと、じっと凝視されていた。

「そんなに見つめられると、照れちゃうなー」
「あっ、すみません…ちょっと意外で」
「何が?」
「友也、親の事、話してたんですね」
「んーん。聞いてないけど?」
「え?」

 何を言っているんだか。

「え?でも…」
「お姉さんと苗字が違ったからそうなんだろうなーって思っただけだよ?」
「は…母方にって、聞いたんじゃ…?」
「んー?あぁ…だって、光太くんと苗字違ったから、どっちかが母方の従兄弟なんだろうなって」
「だ……騙された?」
「え〜?人聞き悪いなぁもう。別に騙してないよー」

 うーわーとか呻きながら、両手で頭を押さえて俯く。よほど、ショックだったらしい。騙してないのに。

「……何でそんな探るような真似してんすか?」
「だからぁ、別に探ったわけじゃないって。偶々、話がそういう方にいっちゃっただけ」
「うぅ〜」
「聞いちゃダメだった?」
「………いえ。聞かれて不味いことは、ないんですが、ただ、嵌められたカンが、地味に、ダメージでかくて…」
「そっか、そっかぁ。ごめんねー」

 慰めるように、背中を軽く叩く。

 まぁ、嵌めたのは事実だし。でも探ったわけでは本当にないよ。ある程度の予想ができてたから、幾つか確認したかっただけで。

 後は、引き取ったはずの母親の行方だけど。一緒に暮らしてないみたいだし。色々考えられるけど、結局は二者択一なんだよな。

「……無害そうに見えたのに」

 んー、まだ浮上してこないのか。ここまで凹むとは思わなかったなー。

「え〜?見かけで判断しちゃダメ〜って、自分で言ってたじゃん」
「………やっぱ、サキの知り合いはサキの知り合いだ」

 はぁーと長いため息を吐いて、ようやく顔を上げた。アハハ。何それ。てか、この子の中でサキのイメージってどうなってんだろ。すっごく興味湧くんだけど。

「そんなこと言って。つば…友也もサキとの付き合い長いんでしょ?」
「……わかってます」

 おや?

「てか、途中から誘導された気がしてならないんですけど」
「え?……あー気のせい。気のせいだよー」

 じと目でこちらを見る光太くん。本人睨んでるつもりなんだろうけど、全然怖くない。むしろ可愛いものだ。

「光太くんは素直だよねー」
「ちょっ…止めてください!」

 ぐしゃぐしゃと髪をかき混ぜれば、本気で抵抗された。

「ね、最後に一つ、質問良い?」
「…な、んですか?」

 手を振り払われた瞬間に満面の笑みを見せれば、相手は驚きのあまりに硬直する。その、頭のうまく回っていない隙を突いて、質問を重ねた。

「母親って、生きてるの?」
「………っ、生きて、ます」

 あぁ、そう。そういうこと。

 じゃあ、きっと、同じだ。





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あきゅろす。
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