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墓穴




「ちゃんと来たんだな」
「うん」

 そう言って近づいてきたのは、椿と同じぐらいの背の少年だった。制服を着ていて、首からダンボールの板をかけている。

 デカデカとカラフルに‘1-A縁日’来てねとか何かのキャラとか書かれている。

 呼び込みしてたのかな。椿のクラスだよな。クラスメイトには会いたくないって言ってたのに。でも、普通に話してるしこの子とは仲良いのかな。

 その子は椿からオレに視線を移すと、不審そうな表情になった。

「あ、オレはつ…友達の八重垣です」

 思わず椿って言いそうになったけど、多分よしといた方が良いよね。

 友達って言葉にその子は目を見開いてオレと椿を見比べた。あ、何か面白い反応。すごく驚いてる。

「えっ?あっ…と、オレは友也の従兄弟で、七里塚光太って言います」

 こんにちはと頭を下げられたので笑顔で応じた。それから光太はキョロキョロと辺りを見回す。

「……シキさんは?」
「ん?いないよ」
「え?一緒じゃないのか?」
「うん」

 椿は首をかしげてるけど、わかる。わかるよその気持ち。光太くん。てか椿サイドの人にセット扱いされてるってことはやっぱ結構脈あるんじゃないか。

「光太、シキに会いたかった?そんなになついてたっけ?」
「いや。そうじゃねぇけど……何で来てないんだ?」
「何でって言われても…今日はデートって…」
「「え?」」

 あ、声が重なった。

 てか、なにそれ。オレ聞いてないよ。初耳なんだけど。もー何考えてんの、シキってば。信じらんない。何でそんなことになってんのさ。それとも…

 首をかしげている椿を、チラリと見る。

 もう、諦めてるのかなぁ。また、いつもみたいに。はぁー、とため息がこぼれる。

 いや、諦める気持ちもわからなくはないけどさ。でもせっかく良い感じなのにもったいない。そりゃ、オレが勝手に思い込んでるだけなのかもしれないけどさ。

 あ、でもさ、夕飯のリクエストしてたよね。夕飯には帰ってくるんだ。ふぅん。

「えっ?あれ?でも、お前……」

 あーあ。光太くんなんてまだ状況が理解できてないみたい。頭の回りに大量のクエスチョンマークが浮かんでるよ。

「何?」
「え?あ…いや。そ、そうだよな。そんなわけないんだよな。ちょっと勘違いして…た」

 その勘違いの中身はよくわかるよ〜。てか多分オレがこうなれば良いなぁって思ってたことをもうそうなってるんだと思ってたっぽいな。

 自分の勘違い(とも言い切れないけど)に気付いて顔、真っ赤っか。アハハ。かーわいい。

「あ〜…っと、奈美江には?」
「後で会いに行く」
「そっか。あ、あと、五十嵐はともかくホヅミちゃんには顔見せとけよ」
「え?何で?」
「何でって…今後の事とか、ちゃんとしとけよ」
「あぁ、そっか」
「それにホヅミちゃん、泣くぞ」
「それは困るね」

 椿が少しだけ困ったように首をかしげる。

「ホヅミちゃんて?」
「副担。五十嵐先生が担任」
「ん?担任には顔見せなくて良いの?」

 普通は副担よりも担任に会っといた方が良い気がするけれど。今後のことを話すならなおさら。

 疑問に思ったことをそのまま口にすると、何故か光太が微妙な顔になった。

「うん、平気。ホヅミ先生は心配性だから、安心させときたいだけだし。ほっといたら自分のせいでって、落ち込みそうだから」
「ふぅん?」

 何か、若干話をそらされた気がする。それは副担に会う理由であって、担任に会わない理由ではない。

 それとも、担任にはすでに連絡済みなのだろうか。あぁ、でも今後の事って言ってたから違うか。少し、気になったけど、まぁいっか。言いたくないみたいだし。

「あの、八重垣さん…」
「ん?ヤエで良いよ」
「ヤエさん、友也とはどういう…?」
「あぁ、共通の知り合いがいて。それで、ね?」
「うん」

 首をかしげながらも、光太はあぁ、と納得した。

「シキさん?」
「違うよー」
「え?」
「あれ?もしかしてサエさんの方?」
「うん」

 だって、シキからは何一つ椿の話聞いてなかったし。最初に教えてくれたの悟だけど、会うキッカケはサキだし。

 てか、ん?何で光太はサキの名前が出た途端、後ずさったんだ?何かいきなり距離とられたんだけど。

 理由がわかってるのか椿が隣で大丈夫。怖くないよ。普通の人だよ。とかいっている。普通の人って誉め言葉なのかな。まぁ、良いけど。

「うん。怖くないよー。サキとの付き合いも結構長いし」
「え?そうなの?」
「うん」

 親しい人と親しいことを示せばある程度警戒は解けるはず。サキの名前で反応したし、椿と同棲どうのと言ってたから光太もある程度付き合いあるんだろうなと思ってサキの名前をもう一度出した。

 けど、いらんことまで言ってしまった。それが墓穴を掘る行為とも知らず。

「なんたってサキに悟紹介したのオレだし」
「えっ?」
「ん?」

 まじまじと見つめてくる椿に、何か変なことを言っただろうかと考えて嫌な予感がした。

 確かに、サキとはそれなりの付き合いだけど、ヤエと呼ばれるようになったのは悟を紹介してから。それ以前は別の呼ばれ方をしていた。

 椿と見つめ合うこと暫し。フイッと、椿の視線が光太に戻る。

「………光太。大丈夫。悪い人ではないよ」
「………ねぇ、椿?」
「ん?」

 光太に聞こえないよう小声で問いかける。

「もしかして、サキからオレの話聞いてたりする?」
「………ヤエの話は聞いてないよ」

 それなら………

「けど、悟さんを紹介してくれた人の話なら知ってる」
「………………」

 バレてら。

 アハハ。いやまぁ、何て言うか、アハハ。どうしようね。もう笑うしかないよ、ハハハッ。

 別に隠すようなことではないんだけどね。ないんだけどさ。若気の至りなのよ。やさぐれてたのよ。それを知られてるって、なんだかなぁ。

 あー、でもその話知ってるなら、‘イチ’についても聞いてるかな。椿の苗字が一城だからイチって呼べないこともないけど、ありえないよね。だってイメージ全然違うし。

 まぁ、聞くとしても後でだけど。まずは光太くんをどうにかしなくては。

「大丈夫だよ。オレ一般人だからー」

 とかわざわざ自分で言っている時点で信憑性ゼロなんだろうな。

「え〜っと、ヤエさん?」
「ん?何ー?」
「剣道部のマフィンが人気なんで、是非食べてみてください」
「ん?剣道部?」
「じゃ、オレは呼び込みがあるので失礼します。楽しんでいってください」

 あ、逃げた。

 脱兎のごとく逃げだした。

 てか、呼び込みなのに自分のとこ宣伝しないで別のとこ薦めていったよ。それとも、行くつもりないってわかってたのかな。

「剣道部?マフィン?」
「うん。剣道部は毎年作ってて、人気あるよ」

 何故に?

「てか、逃げられちゃったね」
「んー、サエさんの周り、少し怖い人が多いから」

 うん。知ってる。

「同類だと思ったみたい。あながち、間違いでもないけど」

 そこはあまり掘り下げないでほしいかも。

「光太、あまり免疫ないから」
「みたいだねー。椿は?」
「ん?」
「免疫あるの?」

 首をかしげて訊ねれば、じっと見上げて考えるそぶり。

「……別に。関係ないし。害がなければ」
「そんなこと言ってると、その内痛い目見るよ?」
「平気。降りかかった火の粉は自分で払うから」

 へぇ。涼しげに言い切るんだ。

 掘り下げたくはないけどね。でも、どんな話をどの程度聞いたか知らないけど、全く態度変わらないとか結構新鮮。てか不思議。かなり好奇心が刺激される。

「ね。実物見てどうだった?」
「ん?」
「オレの事、サキに聞いてたんでしょ?驚いた?」
「あぁ…うん。驚いた、よ」

 椿がまじまじと見詰めてくる。

「ん?」
「随分、落ち着いたんだね」
「アハハッ」

 何それ。しみじみと言われると、何か、久しぶりに会った親戚のおばさんみたいで、少しくすぐったい。





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