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待ち合わせ




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 只今、椿と待ち合わせをしています。

 駅前で待ち合わせとか、何か、デートみたいで面白い。けっこーテンション上がる。シキに言ったらどんな顔するかなー。また嫌そうな顔するかなぁ。

 てか、椿と出掛けるって言った時の顔ときたら。すっごく不機嫌そうになって、面白かったな。やっぱ今日も機嫌悪いのかな。行くなとか言ってたらいいよな。

 シキが他人と暮らし始めたって聞いた時、すわ同棲か。ようやく春が来たのか。吹っ切れたのかとか思ったりしてみたけど、何か、ちょっと、違ったみたい。

 それでも、あのシキが自分とこに住まわせてるんだから確実だよね。問題は椿の方だけど。んー、結構良い感じなのかと思ったけど、どうなんだろ。何か、違うっぽいんだよね。

 でも、会いたいから早く帰るって言ってたし、かなりなついてんじゃって感じだけど。でも、全く照れたりしてないあたり、どうなんだろ。平気でそういうこと言えるタイプなのか、それとも、そういう目で見てないのか。無自覚なのか。わからない。

 まぁ、別に良いんだけどね。横で見てる分には面白いし。シキに頑張れとか言ったら、顔しかめるんだろうな。楽しそう。アハハ。今度言ってみよっと。

 それにしても、高校の学祭かぁ。楽しみだな。やっぱテンション上がる。ふふふ。

 一人でニコニコとしていると、椿の姿が見えた。雑踏の中を歩く姿は決して目立つわけではない。それなのに、一度気付くと視線を外せなくなる不思議な雰囲気がある。現に、すれ違った幾人かは振り向いて姿を追っている。

 椿はそんな奴らをガン無視。真っ直ぐに前を見据えて黙々と歩いている。んー?でもなんか少し様子がおかしい?

「………お?」

 ふと、椿と目が合った。その瞬間、僅かに、本当に僅かに椿の肩の力が抜けたように見えた。

 ………うーわー、何今の。目が合った瞬間安心するとか、何それ。その顔でそれはヤバイって。マジヤバイ。いやまぁ、表情は全くと言って良いほど変わってないけど。これで表情変わってごらんよ。はにかんだりとか何とか。したら、もうイチコロだよ。

 うん。でもそっか。少しは心許してくれてるってことだよね。話しかけてても軽くいなされてる感が否めなかったけど。もしかして、鬱陶しく思われてるかなって心配してたけど。良かった。良かった。

 それにしても、もしかして……

「ヤエ、お待たせ」
「ううん。今来たとこだから。全然待ってないよ」

 足早に近づいてきた椿に、満面の笑みで答える。椿は僅かに首を傾げた。ふふっ、困ってる。困ってる。

 まぁ実際には待ってたけど。でもまだ時間前だし。この台詞、一度言ってみたかったし。テンプレじゃんね。

「それより、もしかして人混み苦手だった?」
「……え?」
「待ち合わせ、別のとこにすれば良かったね。ごめんね?」
「ううん。平気。大丈夫だから」

 うん。苦手じゃない、じゃないんだね?よし、わかった。次待ち合わせする時はもう少し人通りの少ない所にしよう。今日、休日だし。ここの駅、大きめだから結構人が多かったね。

「よし、じゃあ行こっか」
「うん」

 並んで歩く椿を横目で窺う。一般客として行くって言ってた通り、制服じゃなくて私服だった。制服姿、見たことないんだよな。そういやどこ校なのかまだ聞いてなかったや。まぁ、着けばわかるけど。

 てか、せっかくの高校生なのに制服着ないなんてもったいない。卒業したら着れなくなるのに。

 留年したって言ってたよな。来年はちゃんと行くって言ってたから安心だけど。でもやっぱもったいない。せっかくの青春が。青い春が!

「………ヤエ?」
「ん?なぁに?」
「………何でもない」

 何か怪訝そうにされてしまった。まぁいっか。

「そういや、結局シキ来ないんだね」
「ん?うん」

 オレが行くって言った時不機嫌にしてたから、じゃあ一緒に行く?って、誘ってみた。その時は、ますます顔しかめただけで返事はなかったのだけれど。そうか。来ないのか。

 ならたんと土産話をしてあげよう。きっと鬱陶しそうにするのだろうな。

「何か言ってた?」
「何か?」
「うん」

 遅くならないようにだとか、気を付けるようにだとか、早く帰ってくるようにだとか。そう言ったら、子供じゃないからと返された。

 まぁ、確かに親が子供に言いそうな台詞ではあるけど。でもそういう意味じゃないのに。

 ふと、椿が考える素振りを見せる。

「鮭、食べたいって」
「鮭?」
「うん。夕飯に」
「あぁ、ご飯作ってるんだっけ?」
「うん」

 それってもしかしなくても、夕飯の準備に間に合うように帰ってこいってことなんじゃないの?遠回しに遅くなるなって。もしくは、オレと長時間二人きりにさせたくないか。どっちかなー?どっちでも楽しいけど。

 もしくは単純に椿の手料理を気に入ってるのかもしれないし。男はまず胃袋を掴めって言うけど、だとしたら大成功だね。あぁ、でもこの場合はシキが椿の胃袋を掴むべきなんだから逆か。シキの方はもう確実だもんね。本人が否定しようと。

 だったらシキが料理しないと。大体今時家事のできない男なんて。いやまぁ、それなりに家事できるの知ってるけど。

 でも任せきりにしてたら、愛想つかされて出てかれちゃうかもよー。

 と、まぁ冗談は置いといて。

「……じゃあ、帰りに買い物してくの?」
「うん。そのつもり」
「塩?バター?それともムニエルとか?」
「んー、塩かな。西京漬けもいいけど」
「あぁ……あー何か、お茶漬け食べたくなっちゃった」
「出店でお茶漬けはないと思うよ」
「だよねぇ」
「茶道部があるから、お抹茶ならあるけど」

 その言葉に、えっ?と一瞬足が止まる。椿が首をかしげてこちらを見た。あぁ、ごめん。驚いたよね。大した事じゃないんだけど。

「……何か、茶道とかってすごく高級ってイメージあって」
「そんなことないよ。高校の学祭だから、堅苦しくないし。ただ普通にお菓子食べてお茶飲むだけ」
「和菓子か。いーな。練りきり食べたい」
「……リクエストはできないよ?」

 少し困ったように首をかしげる椿に、ふふふと笑う。うん。何か良い感じ。肩の力大分抜けてきたし。

 最初会った時はメチャクチャ警戒されてたからな。まぁ、いきなり知らない人間に声かけられれば当たり前だけど。自分でも怪しいと思うし。

 でも、話してみたかったんだから仕方ないよね。あのシキが自分のとこに住まわせてるんだもん。気になるに決まってるよ。

 サキ達の名前出したら少しづつ警戒解いてくれたし。普通に会話してくれてたし。

 サキとは仲良いみたいで驚いたけど。どの程度の付き合いなんだろ。こないだは詳しく訊きそびれちゃったんだよな。あ。でも、だったら‘イチ’について何か知ってるかな。そいつとも一度会ってみたいんだよね。

 まぁ、今はそれよりも学祭だけど。

 道を歩いていると、同じ方向に進む保護者らしき人や中高生がいる。少し流れができていて、同じ場所に向かってるんだろうなぁと思うと楽しい。

 学祭っていうか、お祭り特有の空気ってすごく好きだな。気分が高揚する。

「椿のクラスは何やるか知ってるの?」
「ん?うん。縁日みたいなことやるんだって」
「縁日?」
「射撃とか輪投げとか」
「へぇー。おもしろそー」

 椿が僅かに首を傾げた。それにつられてオレも首を傾げる。

「んー?何?」
「……興味ある?」
「ん?」
「覗いてみたい?」
「んーん。そういう訳じゃないけど、何で?」

 何でなんて、わかりきってるけど。

「クラスにはちょっと顔出しづらいから、行きたくないんだけど…いい?」
「ん。了解」

 快く返事をすれば、椿はホッと息を吐いた。うん。わかるよ。教室行って知り合いに会っても何か気まずいよね。オレもまともに学校行ってなかったから何となくわかるよ。

 まぁ、自分の場合まともに行かなすぎて、気まずいどころかそもそも知り合いすらいなかったけど。

 どんな出し物があるのかなー、なんて話ながら歩いている内に目的の建物が見えてきた。

 入り口に手作りのアーチがあるし、塀に色んな物がはっつけてあるし、受付っぽいテントもある。うん。間違いなさそう。

 それにしても、奥に見える校舎が思ってたよりも大きくて綺麗でビックリだな。

 近づくにつれ、独特の賑やかさと空気が流れてきて、それだけで浮き足立ってくる。

 とにかく、今日は目一杯楽しもう。





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あきゅろす。
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