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ショッピング




 連れていかれたのは知っている場所だった。

 大きな駅前のショッピング街。通っている高校のわりと近くに位置するここには、何度か来たことがある。自分の現在地が把握できてしまった。

 つまらない。

 メイン通りを外れ、人気の少ない細い路地に入り込む。たどり着いた先は古着屋。それも和服の。それほど広くない店内には着物が並べられている。リメイクしたらしい洋服もあった。

 ここには前に一度来た記憶がある。やっぱり、今回と同じように人に連れられて。

 シキは着物を手にとって見ている。店の人が近づき、話しかける。

 買い物に来たのだろうけど、何で連れてこられたのか。着物を着る予定があるのだろうか。そんなことをつらつら考えながら、店内を眺めていた。

「……ん?」

 不意に、肩に何かかけられた。何だろうかと思い、振り返るとシキがじっとこちらを見ている。ひどく真剣な顔をして。

「何?」
「………」

 何をしているのか問いかけたのに、シキは何も答えない。答えずに、肩にかけたものをはずし、別の着物をかける。

 よくわからないままもしばらくさせたいようにさせておいた。傍らにいる店の人と時おり言葉を交わしながら、着物を合わせていく。

 何となくだけれど、何をしているのか薄々わかってきた。

「………何もしなくていいって言ったのに」
「気がかわった」

 ついこぼれた言葉に、シキはあっさりと答える。顔を上げもせずに。呆れついでにため息がこぼれる。

「てか、恋人に頼めばいいじゃん」

 もしくは、六郷さんに。

 シキは違うと言っていたし、別に恋人がいるらしいけど、あまり納得できていなかった。なのにシキは臆面もなく恥ずかしい言葉を吐く。

「お前だから、描きたいんだ」
「………」

 そのセリフはどうなのだろう。下手をしたら口説いているようにもとれてしまう。その口調から本気なのはわかるけれども。

 結局、どれを買ったのかは知らないけれど、店を出る時シキは機嫌が良かった。オレは、逆に疲れたけれど。何もしていないのに。

「…用って、これで終わり?」
「あぁ」
「そっか。じゃあオレ、後から帰るね」
「あ?」
「寄り道してくる」

 昼食をとるために入ったファミレスでの会話。頼んだ料理を向かい合って食べてた。

「何か用あんのか?」
「買い物。着替えとか欲しいし」

 何とかやりくりしているけど、かなり余裕はない。シキの服を借りたりもしてるけどサイズが全然違うし。ここまで来たついでに買っておきたいなと思った。

 家に取りに行ってもいいのだけれど、見つかると色々と面倒なのだ。

「替えならあんだろ」

 ここにと、シキは横に置いた袋を示す。

 えーっと…?

「……それを普段着として着ろと?」
「文句あんのか?」

 文句あるっていうか。確かに、問題はあまりないかもしれないけど。でもそういうことではなくて。わかりきっているくせにわざと問いかけてくるシキは少し楽しそうにしている。

「………動きにくいし」
「お前、動かねぇだろ」

 それ、前にも言われた。

「料理の時、袖が邪魔になる」
「タスキ、かけろ」
「………遠慮しとく」
「ククッ」

 どこまで本気かわからない。多分冗談なんだろうけど、少し本気が混ざっていそうで怖い。

「……後、食器も」
「食器?」
「うん」

 一人暮しのシキの所には、食器は一揃いしかない。だから、ずっと雑炊とか握り飯とかそんなものばかり食べていたのだけれど。鍵をくれたということは、もっといていいというわけで。それならいっそ買ってしまおうかと。

 眉間にシワを寄せて考えていたシキが、あぁ、と納得した。

 後、欲しいものとしてはクリアファイルがある。シキからもらった絵を保管するために。けど、これはわざわざ言うつもりはない。

 だから、先帰ってていいよと、ちゃんとそう言ったのに。私用だから付き合わせたら悪いと思ったのに。てかそもそも、他人の買い物に付き合うなんてシキの柄じゃなさそうなのに。

 なぜか、シキはついてきた。

 ついては来たけれど、買い物に付き合ってるというより、観察されているような気がするのだけれど。気のせいなのだろうか。

「……だな」
「え?」
「お前、値段で選らんでんだろ」
「うん」

 何を当たり前のことを言っているのか。

「普通、値段気にするよね?」
「金、ねぇのか?」
「………てかまだ、学生だし」

 何か、軽くスルーされた気が。

「それに今バイト休んでるし」
「バイト?」
「うん」
「サボってんのか?」
「違うよ。今、店長が旅行でいないから、店閉めてる」
「ほぅ」

 そういえば、いつ帰ってくるんだろ。そろそろ戻ってきてくれないと困るのだけど。掃除だけでもしに行こうかな。時間あるし。

「シキは?バイトしてるの?」
「あぁ」
「え?してるの?」

 自分で訊いといて何だけれど、ものすごく意外だった。

「何してるの?」
「カテキョ」
「へぇ…泣かれたりしない?」

 睨まれた。

「……お前こそどうなんだ?」
「ん?」
「接客。スマイルゼロ円できてんのか?」

 どうせ無理だろという雰囲気で言われた。

「平気。基本裏方業務だから」
「裏?」
「そう。接客はあまりしてないよ。知らない人って苦手だし」
「は?」
「え?」
「お前、最初からタメ口だったろ」

 なのになに人見知りぶってんだと、シキが顔をしかめた。気づいてたのか。てか、うん。まぁ、気づくよね。普通。

「苦手なんだよね。敬語。だから接客無理」
「ほぅ?」

 なぜか、シキが口元に笑みを浮かべた。結構変な説明だと思っていただけに、この反応はよくわからない。

 一通り買い物を終えてから、シキに付き合って本屋に入った。何となしに棚を眺めていて、ふと、見覚えのあるタイトルが目に入った。

 これ、確か科捜研の華の参考文献だ。気になってたやつ。

 手にとって中を見てみると、やっぱり面白そうだった。どうしよう。図書館で探そうと思ってたんだけど。

「………」
「……それ、買うのか?」
「え?…あぁ、どうしようかと思って」

 いつの間にか、会計を終えたシキが隣に立って覗き込んできていた。オレの手から勝手に本をとると、タイトルを見てふっと笑みを浮かべる。そして棚に戻してしまった。

「こっちだ」
「え?」

 意味がわからない。

 それでも、棚に戻された本に一度だけ目をやり、シキの後を追った。





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