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花見




「…………これは花見なのか?」
「オレの知ってる花見とは、少し違うね」

 オレが知ってるのとも違う。

 花見として最低ラインの花が咲いてるかどうかはまぁ、クリアしている。この公園内ならば中央付近が一番見ごたえがあるが、その分人も多い。

 この場でも、一応桜は見える。人も、それなりに多い。とは言え、花見目当てで来ているのかは疑問だが。

 一般的に花見と聞いて思い浮かべるのは、桜の下での宴会だろう。

 桜は見える。食事の準備も、進められている。だが、これは、

「…………花見じゃなくて、バーベキューじゃねぇか?」
「オレにも、そう見える」

 ヤエが簡易テーブルの上で野菜を切っている。悟が肉の用意をしている。トメが、火力の調節をしている。サエは……折り畳みイスに座って何か飲んでいる。ここでですら、調理禁止されたのか。調理というほどのことでないというのに。

 公園の、ここらがバーベキュー用のエリアなのは知っていた。用具の貸し出しも行っているので、今回使っているのもレンタル品なのだろう。

 だが、これは花見なのだろうか。確かに、違うとも言い切れなさそうだが。

「……弁当、作ったよな?」
「うん。作ってきたね。ヤエに頼まれて」
「いると思うか?」
「んー…、どうなんだろう」

 見る限り、用意されている食材はそれなりの量がある。それに加えて椿の作ってきた弁当もとなると、一体どれほど食う気なのだ。

 隣を見れば、椿はわずかに困惑しつつも、どこか楽し気に眺めていた。なら、まぁ、いいのだが。

 こちらに気づいたヤエが、喜色を浮かべ手を振ってきた。一つ、息を吐き出し近づく。

「花見じゃなかったのかよ」
「え?花見だよ」

 何を言っているのだと、ヤエが目を円くした。思わす顔をしかめる。

「桜を見ながら外で食事するのが花見でしょ?ほら、桜。それに食事」

 間違ってる訳じゃねぇが、釈然としない。

「……これだと花がメインにならねぇじゃねぇか」
「シキ、言っても無駄だ。単純に、騒ぎたいだけなんだ」

 悟が諦めの表情を浮かべている。同じことをすでに言っていたのだろうか。

「弁当、いらなかったろ」「あれ?言わなかったっけ?お弁当は夜用だよ。夜は夜桜するんだ。だから趣向を変えた方がいいねって、昼はバーベキュー」

 聞いてねぇよ。

 隣を見れば、椿も首をかしげていた。椿も聞いてなかったのだろう。

「椿、お弁当ありがとうね」
「ううん。お礼ならシキに言って」
「シキに?」
「うん。シキと用意したから」
「シキと?」

 驚愕で目を見開いて、こちらを凝視してきた。何なんだその反応は。ガラじゃねぇのはわかってるが、その態度はイラつく。

「んだよ」
「え?だって、シキが?」
「…………少し手伝っただけだ」

 弁当の用意をする椿を、普段のように何となしに描いていた。ただ、椿がどことなく楽しそうで。今、作ってるのはいつもと違い、オレ以外も食べるのだと思ったら、手を出したくなった。

 たったそれだけのことだが、詳しく説明する気はない。好奇心あらわなヤエを無視し、手にしていた弁当の包みを空いているイスに置く。

「ねー、そろそろ焼き始めよう。火の準備できたって」

 ひょこりとサエが口を出してきて、ヤエの意識がそちらに向いた。そのことに、わずかにホッとする。

「あ、本当?じゃあそろそろ始めようか」

 テキバキとヤエが肉や野菜を刺した串を鉄板に並べていく。どうでもいいが、これはヤエに対するお返しという名目で行われているんじゃなかったか。なのに本人が働き回ってていものなのか。

 まぁ、口実だと言っていたし、動いてる方が楽しいようだからいいのだろう。

 各々、飲み物を手にしたのをヤエが確認し、口を開く。

「…………悟、乾杯の音頭とる?」
「断る」
「仕方ないなぁ……では、僭越ながらわたくしヤエが音頭をとらせていただきます。綺麗な桜と、美味しいお肉を祝して、カンパーイ!」

 どこか芝居がかった音頭に合わせコップをわずかに持ち上げる。それから口をつけた。

「で?これで焼けるまでボーと待ってんの?」
「火の通り速いやつも並べよっか?サエ、野菜も食べなきゃダメだよー」
「…………それだとほぼ焼き肉じゃないか?」
「何言ってんのさ、悟。外でやることに意義があるんだよ」
「あたし、バーベキューはやったことなかったな」
「オレも。初めて。悟もだよね?」
「ああ」

 なんやかんや楽しんでるらしき連中から視線を移す。トメはイスに座り込んで缶ビールをあおっている。

「……よく来る気になったな」
「あー…まぁな。……お前こそ」

 何となしに声をかければ、わずかに遠い眼差しになった。すでに少し疲れているようだ。

「トメ、遠矢くん元気?泣いてる?」
「おー泣いてる、泣いてる。元気に泣いてる」
「そっか」

 トメの返答に、椿が微笑む。

「……泣くのがいいのか?」
「いいって言うか……小さい子って力の限り泣いて、疲れて寝ちゃうから。気持ち良さそうだよね」
「あー…」
「時々、泣いたまま寝てるな」

 そっか、と椿が笑みを深める。何となしにその姿を視界から外し、ウーロン茶に口をつける。

 春になったとはいえ、風はまだ冷たい。遥か頭上で梢が静かに揺れている。

「……そういや、お前んとこの隣の家に、桜の木なかったか?」
「ん?あー…あるな。咲いてなかったのによくわかったな」

 感心したような声に、肩を竦めて返事の代わりにする。

 以前訪れた際に目に入り、春になったら花見ができるのだなと印象に残っていた。
「トメ、家で花見できるんだ」
「まぁな。八重だからまだ咲いてねぇが」
「ヤエ?」

 首をかしげた椿に、説明を加える。

「八重桜」
「あぁ、ボンボンみたいに丸い花だっけ?」
「ああ」
「呼んだー?」

 呼んでないのが来た。

「はい。椿の分」
「あ、ありがとう。桜の話をしてたんだよ」
「桜?」

 焼けた肉や野菜を乗せた皿を、割り箸と一緒にヤエが椿に手渡す。もう片方の手に持っていたのは自分用らしい。

「うん。八重桜。トメの隣の家にあるんだって」
「桜?……あぁ、あったあった。見たことあるよ。桜っぽくないやつでしょ?はい。トメ、あーん」
「悟にやってやれよ」

 ヤエが割り箸でつかんだ肉をトメの口許に運ぶ。当然トメは拒否したが、ヤエは頬を膨らませた。

「悟にはトメにやれって言われた」
「……あいつ」

 トメが頬をひきつらせる。

「シキも食べる?」
「…………あ?」

 いつの間にかコップを置いていた椿が、片手に皿を持ち、片手に割り箸を持ち、見上げてきていた。ヤエとトメはまだ攻防を繰り広げている。椿に視線を戻す。

 割り箸をこちらに差し出していた。

「あー…そうだな」

 割り箸を受けとる。

「はい。お皿も」

 テーブルの上から自分用のだろう割り箸と、空の皿をとり差し出す。皿を受けとれば、椿はわずかに笑んだ。

「みんな楽しそうだね」
「まぁ、そうだな」
「てか、準備手伝わなかったけどよかったのかな?」
「いいんじゃねぇか。弁当用意してきたし」

 話ながら、鉄板へと近づく。

 気づかれぬよう、そっと息を吐き出した。一体、自分は今何を期待したんだ。





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あきゅろす。
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